突如現れた「ワーケーション」という言葉
新型コロナウイルス感染拡大の波が再び到来するなか、政府から「ワーケーション」の提案がありました。ワーケーションは、観光地など旅先で仕事をする働き方で、仕事(work)をしながら旅(休暇、vacation)も楽しもうというもの。
テレワークができない職種の人々の反応は冷ややか。できる人であっても、「仕事は仕事、旅行は旅行。しっかり分けたい」「どっちつかずで中途半端になりそう」といった声が、テレビから流れてきます。
もちろん旅行だけを純粋に楽しめる方がいいには決まっています。しかし有給休暇が取得しづらい人が多い日本です。2020年春、新型コロナの影響でテレワークに踏み切った会社が続々と現れた際、1年後くらいにはワーケーションをする人が増えるだろうと筆者は確信したところでした。
ライターは、特にワーケーションを実践しやすい職種です。これまで国内外で実践してきた経験から、そのメリットをお伝えしたいと思います。
まずは、意図せずワーケーションになってしまった経験です。
家族で近場の温泉旅館に1泊する予定がありました。出発の朝、締め切りが1週間ほど後のはずの仕事がなんとなく気になり、念のため締め切りを確認したら、翌日の昼が締め切りと判明。しかもボリュームのある仕事でした。めったにない大きな勘違いに冷や汗でしたが、取りあえず出発。
やってみて分かったメリット
ありがたくも宿では会議室を借りることができたので、そちらで作業をしました。
せっかくの夕食も、短時間で切り上げざるを得ず、くつろぎにきた家族には緊張感を漂わせてしまい迷惑をかけましたが、それでも不参加よりはよかったはず。この宿は、以前勤めていた会社の保養施設で、OGの筆者が行かないと家族も泊まれないルールだったのです。
徹夜仕事でしたが、仕事に行き詰ったときは短時間でも温泉に入り、気持ちをリフレッシュすることができました。
2度目は、やや遠くで2泊の温泉旅行です。到着したその日に記事の修正依頼が入ったため、翌日の中日(なかび)は観光をせず、部屋で仕事をすることにしました。このときは、先に挙げた例ほどは切羽詰まっていなかったので、仕事の合間の温泉と旅館の食事をいっそう楽しむことができました。
温泉に入ると気分がリセットされます。自宅だと1日一度でも入浴が面倒だと感じる人が、温泉では頻繁に入ります。水に触れるとアイデアが浮かびやすい、と言いますが、実際よい糸口が見つかったりします。また散歩をすれば、いつもと違う環境の中歩くことで、目新しいものだらけで、脳によい刺激が行くようです。
こういった非日常に触れることが、ワーケーションの「ワーク」側の代表的なメリットでしょう。
「バケーション」側の代表的なメリットは、忙しくても旅行を実現できることでしょう。「会社が休めないから旅行に行けない」がナシになるからです。
ワーケーションは、週末や有休の「オフ」の日と仕事をする「オン」の日をセットにして出掛けることを基本的に想定しています。
オフの日は、観光をするなど通常の旅らしく好きなように過ごせます。そして問題のオンの日ですが、「旅先で仕事」も実は悪くないのです。
例えば、仕事と休暇を8時間ずつ
これは、旅先にいるのに観光もせず、外出しないで部屋で読書をしたことがある人なら分かるかもしれません。「せっかく来たのにもったいない」という、背徳的なぜいたくです。「俺仕事して偉い」「旅先であえて仕事する私」に酔うのも、けっこう気持ちがよいものです。
そうはいっても、1日24時間のうち仕事をするのが8時間、睡眠が8時間だとしたら、残り8時間が旅行先という非日常なのも大きいはずです。
例えばランナーなら、東京など首都圏では朝のランニングなんて5時台でも暑いですが、避暑地ではぐっと快適でコースが新鮮というルーティーンの充実があります。虫の声を聞きながら眠りにつく、鳥のさえずりで目が覚めるといったことで、睡眠時間さえもグレードアップがあり得るでしょう。
ワーケーションは集中しやすい
ワーケーションは、短期の旅ほど「ワーク > バケーション」になりがちです。週末の休みとくっつけるなどして、バケーションの割合を増やせればいいですが、ワークの割合が高い印象があったとしても、「ワーケーションは仕事を充実させるためのもの」だと思えば、やっかいでじっくり取り組むべき案件があるときほど向いているのかもしれません。
家にいるより集中しやすい環境があります。滞在先の部屋には、自分の持ち物が少ないので、気がそらされるものが少ないです。掃除、料理といった家事の必要がありません。来客がありません。同僚も、ワーケーション中と知れば、やたらな連絡をせず吟味したうえで連絡をするでしょう。
旅先なので、食事の時間はゆったりいつもの何倍にもなります。絶対夕食までに仕事を終わらせようといった気持ちが強まります。
ウェブサイトなどで宿の部屋のつくりやデスクと椅子、また喫茶室などの様子が分かれば、ある程度自分の好みに合わせて全国の豊富な選択肢のなかからチョイスできるのもワーケーションのいいところではないでしょうか。
うまく応用すれば旅先に長期滞在も
ワーケーションは、数日の滞在がイメージかもしれませんが、当然長期の滞在も可能になってきます。
コテージなどで自炊しながら地元の名産をたっぷり味わうなど、暮らすように過ごせば移住気分が味わえます。もし本気で今後地方への移住を考えているとしたら、移住先の候補をじっくりチェックすることができそうです。
テレワークであれば、海外に滞在することも可能です。この制度をすでに導入している企業もあります。
ITサービスのXtra(千代田区内神田)では、「働き方改革」の一環として、海外リモートワーク制度を2020年1月よりスタートしています(2019年12月27日付、同社プレスリリース)。
制度開始前にトライアルで米ニューヨークに行ったエンジニアは、「海外リモートワーク制度を使用することで仕事を続けながら滞在できたので、街を歩いたり観光に行ったりと刺激的な毎日を過ごすことができました」とメリットを語っています。
また「業務はチャットツールでのコミュニケーションや議事録のシェアなど、開発チーム内の協力もあってスムーズに進行できました」ということで、仕事に支障がなかったとのことです。
海外でのワーケーション実践経験
筆者は数か月単位で海外に滞在することが多いのですが、ネットがつながる環境であればどこでも仕事ができます。電話を使うのは最小限なので、メールやチャットが主な連絡手段です。取引先には、時差の関係で返信が遅くなることもあることを伝えておいたので大きな問題はありませんでした。
そうすると、働きながら留学することもできます。滞在先のイギリスでは語学学校に通ったのですが、現地で働くノンネーティブの人々もテレワークかどうか問わず、朝や夕方のクラスを取って、仕事と語学の勉強を両立させていました。
日本をベースとする人であれば、これが、フィリピンやグアム、オーストラリアなど、時差がほとんどないところであれば、留学の障害となるものはゼロに近くなるでしょう。
デメリットの側面も
さて、ワーケーションを実践する上でネックになってくるのは、金銭的な面でしょう。基本的に、ワーケーションは自腹で行うものだからです。
ワーケーションは、つまり仕事にプラスになるということ。会社が福利厚生として「ワーケーション手当」の補助を出せば、やってみるかという気になる人も増えるのではないでしょうか。