80年代「なめ猫」ブームが「ペット業界」に残した多大な貢献をなめんなよ!

1980年代に一世を風靡した「なめ猫」。そんななめ猫はなんとペット産業にも貢献を果たしていたのをご存じでしょうか。20世紀研究家の星野正子さんが解説します。


1980年代初頭に起きた空前の猫ブーム

 東京都内でもよく、ペット可の賃貸物件を見かけるようになりました。ファミリー用のみならず、単身者用の物件でも小型犬や猫であれば可としているところは、決して少なくありません。

 犬や猫をきちんと飼うのであれば、決まった時間にご飯をあげなければならないため、徹夜でお酒を飲んだり、いきなり思い立って旅行に出たりすることもできません。それでも、犬や猫をあえて飼う人は、きっとそれらを超えた愛情があるのでしょう。

 さて、今回は1980年代初頭に起きた空前の猫ブームについてです。そのきっかけとなったのは、今でもよく思い出される「なめ猫」です。

 なめ猫の「仕掛け人」は、津田覚さんです。ブームの当時はまだ31歳でした。

 名古屋生まれの津田さんは高校を卒業後、一時はサラリーマンをしていたものの肌に合わず退社。バンドを結成したり車のカメラマンになったりした後、名古屋で「TOPファッションポスター」という会社を設立。当時人気だった、スーパーカーや動物のポスターなどを制作していました。

破れた人形の洋服を着せてみたら……

 ブームの始まりは、津田さんの近所に住むクリーニング屋のおじさんが軒下で生まれた野良猫を段ボール箱に入れて捨てているのを見かけたことでした。

 元来動物好きだった津田さんは、段ボール箱に入っていた4匹の子猫を引き取って育てます。生まれたばかりの子猫だったため、しょうゆさしでミルクをあげるなど大変だったそうです。

 愛情を持って育てたのが功を奏したのか、猫たちはすくすくと育ちます。

「なめ猫 免許証」ステッカー(画像:(C)SATORU TSUDA)



 そんな猫たちがある日、津田さんの恋人が置き忘れてた人形の洋服をビリビリに破いてしまいました。しかしその服を猫に着せて、試しに写真を撮ってみたところ「これは、イケる」と思ったといいます。

1200万枚も売れた「免許証」

 そこから生まれたのが、なめ猫だったのです。正式名称は「全日本暴猫連合 なめんなよ」。当時は、ごくごく当たり前だった、ツッパリを模したキャラクターです。

 そして、バイクをバックに学生服とセーラー服の2匹の子猫が後ろ足で立ってにらみを利かせているデザインが世間の注目を集め始めます(ちなみに学生服を着ている又吉が一番人気となりましたが……成長したら実はメスだったとのこと)。

 ポスターがリリースされたのは、1981(昭和56)年7月。そこから数か月で空前のブームとなります。

 最初は小中学生だったブームは大人にもおよび、OLやサラリーマンもなめ猫グッズを買い求めるほどに。とりわけ人気だったのは、「死ぬまで有効」「なめられたら無効」と書かれた免許証風のカードで、1枚100円の「なめ猫の免許証」は1200万枚も売り上げました。

「なめ猫」ステッカー(画像:(C)SATORU TSUDA)

 時代を反映するのは、これを「実用」する人もいたこと。交通違反した若者が警察官に「これを免許証だ」と突きつける姿があちこちで見られたそうです。

なめ猫効果が及ぼしたもの

 ともあれ、関連グッズはものすごいスピードで登場。

・ライター
・腕時計
・消しゴム
・ノリ
・筆箱
・ノート

など、最終的に500種類以上が登場しました。さらには写真集も33万部が発売。そして、1981年の11月にはレコードも発売となります。

 ちなみに20世紀の末ごろまで、ブームになった有名人には「取りあえず歌わせる」というビジネスモデルがありました。おそらく、長寿の双子として有名になった「きんさんぎんさん」くらいまででしょうか。

 レコードのタイトルは『なめんなよ』。7インチのA面は表題曲。B面には「いとしのダャーリン」が収録されています。

2016年3月にCDで復刻した『なめんなよ』(画像:(C)SATORU TSUDA、アドニス・スクウェア)



 ちなみに猫にどうやって歌わせているのか、聞いたことがない人には気になるところでしょう。確かに、曲に猫が参加しています……鳴き声で。

「オレたち猫ダチ大集合~♪」」といった歌詞全般は男性が歌っていますが、レコードのジャケットには「又吉&なめんなよ」と書いてあるので、クレジットにうそはありません。

 さまざまな意味で異色なレコードですが、発売前の記者会見には40人あまりの記者が集合。予約だけでレコード売り上げのベストテン入りをし、なんと約80万枚が売れました。なお、なめ猫の経済効果は1000億円と推計されています。

 このブームはくしくも、猫そのものの人気も呼び起こします。愛猫家向けの専門誌は、売り上げが急増。写真集などに「猫」と書かれているものは、取りあえず並べれば売れる時代になったのです。

ペット産業の認知度も加速

 この頃は、すでに「犬猫にあげるご飯 = 人間の残り物」という時代は過ぎていましたが、当時あまり知られていなかった、「栄養バランスが考えられたペットフード」を与えるという習慣は、この頃から広まっていきます。

『週刊現代』1981年12月3日号では広がる「猫産業」を取り上げていますが、今では当たり前となっているペット向け事業が物珍しいものとして取り上げられています。

 猫を一時的に預かる「ペットホテル」という言葉は当時まだ存在していなかったため、「猫一時預かり屋」という妙な呼称で紹介されています。

 また、ペットの葬儀やお墓をつくる人がいるということも、この時点ではまだ奇異の目で取り上げられています。

 なめ猫はブームの過程では、「動物虐待ではないか」と批判を浴びることもあったといいます。しかしこのブームをきっかけに、むしろペットに対する飼い主の手厚いケアや、そのためのサービスの認知度は高まったと言えるでしょう。

もはや「ペットは家族」の時代に(画像:写真AC)



 都内で犬猫を飼うことは、「癒やし」として欠かせないものかも知れません。ただし、飼うからにはきちんと彼らの命に責任を持ってほしいものです。


【画像】今でもネットで購入可! 「なめ猫」グッズを見る

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