【徹底解剖】あなたは「刀剣乱舞」が日本文化復興に与える大きな影響を知っていますか

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【徹底解剖】あなたは「刀剣乱舞」が日本文化復興に与える大きな影響を知っていますか

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清水麻帆

文教大学国際学部准教授

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ゲームやアニメ、舞台が人気の「刀剣乱舞」は、地域経済や日本文化の継承にまで貢献しているといいます。文教大学国際学部准教授の清水麻帆さんが解説します。

刀剣乱舞の人気と特徴

「刀剣乱舞」をご存じでしょうか。

 2015年、PCブラウザー版ゲーム「刀剣乱舞- ONLINE-」が配信されて2週間余りでサーバーが満員となり、追加されたサーバーもすぐに埋まるほど人気を博しました。これがネット上で話題となり、さらに人気が加速しました。

 2016年には、スマートフォンのアプリ版「『刀剣乱舞』-Online Pocket」が配信されています。5周年となる今日までその人気は健在で、2019年のモバイル機プレー時間では9位にランクイン、400万時間/年に達しています(「ファミ通モバイルゲーム白書2020」)。

1年間で計400万時間もプレーされている大人気ゲーム「刀剣乱舞」(画像:DMM GAMES)



 また、ゲームから火が付いた人気は、アニメ、2.5次元ミュージカル、2.5次元舞台、映画などほとんどのクロスメディアに展開されています。

 ゲームの配信年の2015年にはすでに2.5次元ミュージカルのトライアル公演が、2016年には2.5次元舞台とミュージカルが行われています。通常ゲームやアニメから舞台化までには数年を要することからも当時の「刀剣乱舞」のゲームにおける人気の高さがわかります。

「刀剣乱舞」ですが、名だたる刀剣を擬人化した「刀剣男士」を育てながら戦う育成系シミュレーションゲームです。2205年の未来を舞台として、過去をゆがめようとする「歴史修正主義者」に対して、政府が「審神者(さにわ)」をさまざまな時代に送り込み、戦って阻止するという設定になっています。

 プレーヤーは、「審神者」となり、刀剣男士を率いて戦います。プレーヤーの特徴は、10代から20代の女性が多いことです。ゲームプレイ経験者は推定約68万人で、そのうち女性が59万人で全体の約87%を占めており、「刀剣女子」と呼ばれています(「ファミ通モバイルゲーム白書2018」)。

コンテンツツーリズムによる地域貢献

「刀剣乱舞」の特筆すべき点は、社会的現象を巻き起こし、リアルな社会や経済にも貢献をしてきた点です。その現象が起こるきっかけは、プレーヤーがゲームの中だけではなく、リアルな活動を行うようになったところから始まったといえるでしょう。

 実際に、若い女性による刀剣巡りや美術館への問い合わせが殺到するなど社会現象となり、それを反映するように全国各地の博物館や美術館が積極的に刀剣展示を開催するようになりました。そこには多くの「刀剣乱舞」のファンが詰めかけることから、地域の活性化にもひと役買うことにつながっています。

 例えば栃木県足利市は、「刀剣乱舞」の刀剣のひとつである「山姥切国広(やまんばぎり くにひろ)」の特別展「今、超克のとき。山姥切国広 いざ、足利。」を足利市美術館で2017年3月4日から1か月間開催。それによる地域への経済波及効果は、約4億8635万円でした。東京や他の地方都市などでも同様の現象が起こっています。

伝統文化・刀剣の継承の担い手の育成

「刀剣乱舞」のファンのリアルな活動は、地域経済の活性化だけではなく、地域の伝統文化である刀剣の継承にも大きな役割を果たすようになりました。

 例えば、「燭台切光忠(しょくだいきり みつただ)」の発見に寄与しています。元々水戸の徳川家が所有していた上記の刀剣の所在が不明とされており、水戸徳川家の家宝を所管する徳川ミュージアムに問い合わせが殺到したため、収蔵品を精査したところ再発見に至りました。

たくさんの登場人物がいる刀剣乱舞(画像:(C)2018 Nitroplus・DMM GAMES/続『刀剣乱舞-花丸-』製作委員会)



 また、行方不明や傷ついた刀剣の復元にも投資(クラウドファンディング事業)を通じて大きな役割を果たしています。例えば、「蛍丸」の復元や「ソハヤノツルキ」など8振の修復、「石切丸」の復元です。これらは短時間で目標金額に到達したことが話題にもなりました。

 文化経済学によると、文化の継承の仕組みは、伝達者(習い事の指導者)から消費者(生徒・鑑賞者)に知識や技術が波及され、学習を通じて、さらに弟子(生徒)を持つという循環が繰り返され、作品(技術)を披露し、競う場所が提供されて産業化されます。

 生産者の発表の場があることは、刀剣人口を増やすことにもつながります。こうした環境で文化は継承・発展していくのです。

「刀剣乱舞」は日本の伝統文化である刀剣の継承の一端を担う鑑賞者を生み出しているだけではなく、投資を通じて生産者が刀剣を作る機会までも作り出しました。

 つまり「刀剣乱舞」は、伝統文化継承の担い手を作り出しているといえるでしょう。

歴史への興味関心を刺激する登場衣装

 次に筆者(清水麻帆。文教大学国際学部准教授)が注目したのは、日本固有の伝統文化・着物です。

「刀剣乱舞」では、2016年から着衣が実装の「極(きわめ)」だけではなく、「軽装(けいそう)」という着物を着た登場人物(刀剣男士)が見られます。この「軽装」の意匠に関しても史実から着目してみました。

 例えば、「宗左三文字(そうざ さもんじ)」です。これは織田信長の桶狭間の戦いの戦利品で、信長から愛されていた打刀です。その後は豊臣秀吉、徳川家康に渡り、天下統一の刀剣として名高い訳ですが、織田信長が刻んだ刻印もあることから、やはり織田信長の刀のイメージが強いものです。

淡い色使いのキャラクター「宗左三文字」(画像:(C)2018 Nitroplus・DMM GAMES/続『刀剣乱舞-花丸-』製作委員会)



 こうした歴史的背景のある「宗左三文字」の着物ですが、他の刀剣男士の着物がダークな色味が多い中、淡いピンクと水色のストライプの生地に花柄があしらわれている着物です。

 帯も水色で蝶々結びの紫色の飾りひもを締めており、女性的な印象の装いになっています。史実で織田信長は、市中に出る際の変装で女装するなどしてお祭りに出掛けていたといわれています。こうした史実が反映されているのではないでしょうか。

 また、徳川家康が愛した太刀「ソハヤノツルキ」はその背景が江戸時代ということになります。

「ソハヤノツルキ」の「軽装」ですが、山吹色で全体に柄があしらわれている意匠になっています。260年以上続いた江戸時代の前期は、町人の華やかな生活文化が現れた時代で従来の着物よりも派手で華美なものが流行しており、こうした背景が反映されているのかもしれません。

 一方で、刀剣自体は時空を超えるため、上述のような所有者の背景だけではなく、どの時代の着物の意匠かという視点からも「軽装」を楽しむこともできます。例えば、「大倶利伽羅(おおくりから)」や「五虎退(ごこたい)」の「軽装」も江戸時代の後期にはやった意匠に見えます。

日本の伝統文化を発信し続ける「刀剣乱舞」

 江戸後期は、一般庶民に小袖が流行し、特に、遊び心のある模様や渋さが「粋」とされて美的価値の基準となり、「江戸時代後期のモード」を庶民が支えていました。当時は染め物の技術も向上したこともあり、小紋という意匠が流行していました(水上2008年)。

 小紋とは着物の意匠の一種で、近くで見ると細かい模様が入っているものをさし、それが「粋」だったのです。

 実際に「大倶利伽羅」は一見するとこげ茶色の無地の着物に見えますが、よく見るとひし形の柄の意匠が施されています。同様に、「五虎退」も黒っぽい着物に見えますが、細かい四角の模様がデザインされています。

 すべての「軽装」が時代や史実を反映した意匠ではないかもしれませんが、歴史的背景や着物の意匠の時代背景などを調べて、いつの時代のデザインなのかを考えながら着せ替えをするのも楽しいのではないでしょうか。

 徳川家康は質素倹約であるというイメージがありますが、東京国立博物館(台東区上野公園)で2020年8月23日(日)まで開催されている特別展「きもの KIMONO」に展示されている着物はカラフルで、まさに先述の江戸前期の文化を象徴した華やかなものとなっています。

カラフルな着物が展示されている特別展「きもの KIMONO」(画像:東京国立博物館)



 2020年7月現在はコロナ渦ですが、本物の小袖の着物や、先述の信長、家康の着物がどのような意匠であったのかを見て体感するのもいいかもしれません。

 このように「刀剣乱舞」は、ゲームの世界から飛び出して、リアルな世界の地域経済の活性化や日本の伝統文化の発信・継承にも貢献しているのです。

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