首都圏出身者がなぜか少なめ 明治の歌人が作った「実践女子大学」とはどのような大学なのか

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首都圏出身者がなぜか少なめ 明治の歌人が作った「実践女子大学」とはどのような大学なのか

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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東京の私立女子大学は生徒の大半が首都圏の出身者です。そんななか、日野市に本部を構える実践女子大学はその比率が若干少なくなっています。いったいなぜでしょうか。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

首都圏出身者が増える都内の私立女子大

 文部科学省の「令和元年度学校基本調査」によると、東京の大学に入学した学生のうち、首都圏(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県)の高校出身者の割合は前年度より0.9ポイント増え、69.2%に上ることが分かりました。

 東京の私立大学に絞ると前年度の69.2%から70.2%に増え、首都圏の高校を出た新入生が全体の7割以上を占めるなど「首都圏ローカル化」が進んでいます。

 この「首都圏ローカル化」の動きは、特に私立女子大学で顕著です。

 東京には歴史ある私立女子大学が数多くありますが、入学する学生の多くが首都圏出身者で占められています。

 白百合女子大学(調布市緑ヶ丘)では、2020年度入学試験(一般入試やセンター試験利用。3月入試)の合格者の83%が首都圏出身者でした。

 就職率が近年上昇し、メディアでも多く取り上げられる昭和女子大学(世田谷区太子堂)も同じく合格者の約83%が首都圏の学生です。

 同様に共立女子大学(千代田区一ツ橋)は81.5%が首都圏出身者で、このことからも東京の私立女子大学の多くが「ほぼ首都圏出身の学生」という状態となっています。

 女子大御三家のひとつである東京女子大学(杉並区善福寺)でさえ、77.5%が首都圏出身者だったということを考えると、いかに東京の私立女子大学も「首都圏ローカル化」が進んでいるかがわかります。

日野市にある実践女子大学(画像:(C)Google)



 しかし、実践女子大学(日野市大坂上)は他の私立女子大学とは少し事情が異なるようです。

首都圏出身の合格者が75%を切る謎

 実践女子大学は、教育者で歌人の下田歌子によって1899(明治32)年に設立されました。3学部9学科で学部生数は2019年5月1日現在、4442人の中規模大学です。

 2014年には文学部と人間社会学部を渋谷キャンパス(渋谷区東)に移転するなど、都市回帰の動きを見せています。

 実践女子大学のここ2年の入試結果をみると、合格者のうち首都圏出身者の割合が2019年度入学試験では74.5%、2020年度では73.7%と時代に逆行しているのです。

 なぜ、実践女子大学は他とは異なる数値が出ているのでしょうか。

私立大学が行う地方入試

 東京の私立大学の中には、明治大学(千代田区神田駿河台)や青山学院大学(渋谷区渋谷)のように全国的に知られた大学でも、近年は全国各地の優秀な学生を取り込むため、地方に試験会場を設置しています。

試験会場のイメージ(画像:写真AC)



 しかし、多くの東京の私立女子大学では地方会場で入学試験を行っていません。

 2020年の入試をみると、地方会場での入試を行っている共立女子大学は北関東3県の県庁所在地と長野、静岡、首都圏近県で1回ずつ行っています。

 昭和女子大学は仙台から福岡にかけて全国11会場で同じ日に入学試験を実施していますが、地方会場は1月下旬の一般入試1回のみです。

 東京の私立女子大学のうち、2020年度入学試験において地方会場で2回以上試験を行ったのは、実践女子大学と津田塾大学(小平市津田町)のみでした。

表れる地方入試の効果

 この2校に共通しているのは北関東では入試を行っていない点です。

 北関東から東京へのアクセスは比較的容易で、都内にある本部キャンパスでの入試に抵抗を感じず、あえて試験会場を設置する必要がないと判断していると考えられます。

 実践女子大学は、仙台と新潟、長野、静岡の4会場で2回入試を行っていますが、2020年春の入試結果をみても地方会場やその近県の合格者は多く、実施の効果が出ています。

 首都圏から離れている土地に住む女子学生にとって、東京に出て入試を受けるのは何かとお金がかかり大変です。親から「東京に行かずに、近くの大学や専門学校に進学してほしい」と反対されることもあります。

 東京への憧れがあっても都内の本校へ試験を受けに行くのが難しい女子学生にとって、私立女子大学の地方入試は自分の運命を変えるかもしれない大きなチャンスなのです。

実践女子大学の2018年度(2019年3月)卒業生の主な就職先(画像:実践女子大学)



 このことからも実践女子大学が実施する2回の入試が他の私立女子大学と比べて、首都圏出身者の割合を割合低く抑えていることにつながっているといえるでしょう。

 2021年度入学試験からは千葉と横浜も新たに加わる予定ですが、実施回数はこれまでの2回から1回に変更となります。この変更により、首都圏出身者の割合がどう変化していくのか気になるところです。

日野キャンパスの立地場所も

 地方入試の実施以外にも、実践女子大学の本部キャンパスがある日野市という場所も地方出身の女子学生が入学する理由のひとつです。

 実践女子大学の今春の入学者を県別でみると、1位から4位は首都圏の自治体ですが、5位に山梨県がランクインしています。

 これは同大が地方入試を実施する長野や新潟、静岡よりも多い34人となっています。

 日野キャンパスはJR中央線沿いにあり、山梨市から日野駅まで「特急かいじ」を利用すると70分程度で到着し、また中央自動車道の八王子インターチェンジで降りると日野市まで近く、こうした交通の便の良さが背景にあるのです。

東京都日野市の位置(画像:(C)Google)

 前述の通り。実践女子大学は都市回帰を行いつつありますが、本部キャンパスはいまだ23区から離れています。

 隣接する県から学生を集めることができるのは、郊外キャンパスが公共交通機関や高速道路を利用すれば身近な存在であることが大きいと考えられます。

「首都圏ローカル化」によって特徴がなくなる恐れも

 前述の通り、東京の大学は急速に「首都圏ローカル化」が進んでいます。

 活気ある大学には、学生の多様性が欠かせません。しかし、現状は似た生活環境や文化で成長してきた若者が集まる場になりつつあります。

 とりわけ私立女子大学は地方入試を実施していなところが多く、合格者の8割が首都圏出身者になるなど、地方出身者が「レアな存在」になりつつあります。

 大学の特徴や個性を出すには、首都圏以外の学生を積極的に受け入れることが大切です。

実践女子大学のウェブサイト(画像:実践女子大学)



 実践女子大学の地方入試の会場選びやキャンパスの場所は良い方向に働き、他の私立女子大学よりも「首都圏ローカル化」のスピードを抑えています。

 どうすれば首都圏以外の学生が入学してくれるか。実践女子大学の地方入試会場の選定や実施回数がその秘訣(ひけつ)を教えてくれているのかもしれません。

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