【実録 東京人vs関西人 1】江戸で爆発した強烈な個性と存在感――「東京の関西人」の活躍は300年以上前から

江戸・東京と、関西・関西人との結びつきを考える、ジェイ・エム・アール生活総合研究所社長の松田久一さんの連載(全4回)。1回目は、江戸時代などの歴史的な背景を振り返ります。


かつて強烈な存在感を放った「東京の関西人」

 兵庫県出身の筆者(松田久一。ジェイ・エム・アール生活総合研究所代表取締役社長)が江戸・東京と関西の結びつきについて考える4回続きの連載。第1回となる本稿では、歴史的な背景を振り返りたいと思います。

※ ※ ※

「万国博覧会」(大阪万博)のあった1970年代、大阪を中心とした関西には、まだ東京に対抗していこうという気概もパワーもありました。スポーツや大学などあらゆる分野で、「東京 対 大阪」の対立図式がありました。実際、関西創業の企業だけでなく、多くの企業が東京本社と大阪本社の2本社制をとっていました。

 2020年現在は、すべてが東京に一極集中しています。例外は、お笑いマーケットぐらいです。経済規模も大阪は、東京の30%強に過ぎません。兵庫、京都を入れても半分程度です。大阪が誇った家電・エレクトロニクス産業も、韓国、中国メーカーに地位を奪われ、低迷したままです。

東京と関西、大阪。かつては対立の図式が明確にあったが……(画像:写真AC)



 すべてが東京に一極集中し、関西との差が拡大する一方で、東京のなかの関西人の人口勢力が拡大しています。

 東京の居住者の出身を分析すると、約56%が地元東京出身です。しかし、44%は他県出身者であり、東京外の他府県出身トップが大阪府と長野県の8.4%です。兵庫、京都を含めると16.1%になります。関西人の東京居住人口は99万人と大阪市、神戸市、京都市の人口に次ぐ規模です。

 仙台市に匹敵し、23区最大人口の92万人の世田谷区よりも多くなります。関西は、もはや東京に対抗できるパワーはありませんが、東京での人口比は存在感を見せています。東京のなかの関西人を、少々、歴史を振り返りながら考えてみます。

そもそも関西人とは

 関西の定義は、大阪府・京都府・兵庫県・滋賀県・奈良県・和歌山県の2府4県の日本の地方を指します。

「近畿」も同じ2府4県を指す地方を指す言葉です。しかし、近畿は英語発音(kinky)で不穏当な意味(変態)になるので、最近はあまり使われていません。もともとは「畿(都)」に「近い」という意味であり、御所に大変近いという意味で江戸時代には使われていました。

東京都の出身県別人口構成比(画像:JMR生活総合研究所)



 関西という言葉は、明治になって薩長(さっちょう)土肥出身の多い新政府が使い始めた言葉で、関東に対して、2府4県を対応させる言葉のようです。

「関東」は歴史が古く、672年の「壬申(じんしん)の乱」に都を守るために設置された、不破関(現在の岐阜県関ケ原町)、鈴鹿関(三重県)、愛発関(福井県)の三つの「関所」の東側の意味です。「関八州」、「関東管領(かんれい)」などの言葉もあります。

 この関東に対応して、明治以降に維新政府が関西という地域概念を生みましたが、関東の語源からみると、関所の西側となります。つまり、守るという関所の意味がなくなりました。

 従って、関西という言葉は大学名などでは使われますが、最近では「関西国際空港」が有名な程度です。関西は地元から生まれ、定着した言葉ではありません。しかし、これらの地域を包括とする言葉としては便利です。関西人とは、この地域に暮らす人々のことです。

江戸における関西の名残

 江戸時代以前の江戸は、関西からみると辺境の地でした。この関東の港町が巨大な人口100万人を擁する世界最大の都市へと発展したのは、太田道灌(おおた どうかん)の灌漑(かんがい)と徳川家康による江戸開発からです。

 そして、大飛躍していくのは江戸に幕府を置いてからです。

 幕府は、300諸藩の藩主と家臣の約50万人を人質として住まわせ、武士の生活に必要な刀などの商品サービスを提供する職人や商人約50万人を日本橋などに町割りして住まわせました。

 この100万人に必要な物資を供給していたのは、江戸中に張り巡らせた川、壕(ごう)、池などを活用した水路でした。東京の、内堀、外堀、ため池、一ツ橋、竹橋などの地名に名残が残っています。

かつて彦根藩の井伊家屋敷があったホテルニューオータニの場所(画像:(C)Google)



 江戸時代の関西の名残は、霞が関、永田町周辺の地名に残っています。千代田区紀尾井町は藩邸跡になります。有名なところは御三家の紀州藩(和歌山県)、彦根藩(滋賀県)です。

 彦根藩の井伊家は、現在のホテルニューオータニのある紀尾井町にありました。吉田松陰らを「安政の大獄」で処罰した井伊直弼(いい なおすけ)が、ここから江戸城へ参内しようとして「桜田門外」で暗殺されました。

 明治に名づけられた地名の紀尾井町の由来は、紀伊家、尾張家、井伊家から来ています。皇居の桜田門の一帯がそうです。その隣には徳川家臣の直参旗本が住むところがありました。

 明治維新でこの地域の居住者は藩へ帰参したので空き地となり、明治の最初の住宅地=山の手となりました。永田町周辺に江戸時代の関西の名残があり、当時は関西弁で会話がされていたのかと思うと奇妙です。

江戸を生きた著名な関西人

 地名だけでなく、江戸町人の間で人気が自然爆発し、現在でも人気の関西人たちがいます。「赤穂浪士」です。播州(ばんしゅう、兵庫県)赤穂の浪士が、藩主・浅野内匠頭(あさの たくみのかみ)のあだ討ちをするという事件です。

 刃傷事件を起こし切腹させられた赤穂藩は、築地近くの隅田川沿いの現在の聖路加国際大学(中央区明石町)の近くにありました。大石内蔵助ら四十七士が討ち入った吉良上野介の屋敷跡は、両国にあります。現在でも小さな屋敷跡が再現されていますが、実際は約85倍だったそうです。

さまざまな作家によって作品の題材にされた江戸時代の赤穂浪士事件(画像:新潮社)



 あだ討ち後、義士は両国から斬首(ざんしゅ)を持って隅田川沿いに歩き、札の辻を経て、高輪ゲートウェイ駅(港区港南)近くの浅野家菩提(ぼだい)所の泉岳寺へ報告に向かいます。そして、義士たちは大名4家に預けられた後に、切腹を命じられます。そのなかで、もっとも厳しく義士を処遇し、庭池で切腹させたのが長府藩・毛利家下屋敷でした。現在はここに六本木ヒルズ(港区六本木)がそびえ立っています。萩藩毛利屋敷跡地が東京ミッドタウンになります。

 江戸町人は赤穂浪士に同情的で称賛し、歌舞伎にして後世に伝えました。法よりも武士の義を通したからでしょう。しかし、荻生徂徠(おぎゅう そらい)などの側(そば)用人・柳沢吉保(やなぎさわ よしやす)の提言によって第5代将軍綱吉は切腹を命じます。徳川政権が安定している中での武士の務めとしてのあだ討ちは「時代遅れ」とみなされました。

 映画やテレビで大石内蔵助(おおいし くらのすけ)、堀部安兵衛などの義士が関西弁をしゃべることはありません。しかし、実際は関西弁のはずです。しかも、「下品な」「荒っぽい」と称される播州弁を浪士がしゃべっていたと思われます。

 関西弁は京都を起点にすると、西に行けば行くほど、河内などの南に行けば行くほど「荒っぽく」なります。関西人は微妙な関西弁を識別できます。明石家さんまは奈良弁、ダウンタウンは「尼」(尼崎)なまり、ナインティナインは大阪周辺なまりなどとわかります。

関西弁でたんかを切った? 大石内蔵助

 内蔵助の名セリフ「この内蔵助の望みはただひとつ。怨敵・吉良上野介の首でござる。本懐を遂げる日まで、この内蔵助を信じ、おのおの方の命をお預け願いたい」を関西弁に翻訳してみます。

「ワイが欲しいんはたったいっこや。あの、あほんだれ・敵・吉良上野助の首やんけ。やってまうまで、ワイを信じ、オノレらの命をあずけたらんけ」

でしょうか。何だか反社会的集団みたいになってしまいました。筆者は30年以上、関西から離れていますので全く自信がありません。

 関西弁の面白さは、河内(かわち)弁なら小説『後妻業』などで知られる直木賞作家の黒川博行氏の作品で、戦後なら今東光氏が最高です。ちなみに、映画にもなっています。北村一輝の河内弁が最高です。播州弁はいい事例を知りません。播州弁は、NHKでドラマになった秀吉の軍師・黒田官兵衛がしゃべっていたはずです。

 そもそも江戸時代には、標準語はなく、時代考証によれば各人がお国言葉を大きな声でしゃべっていたようです。お互いあまりわからなかったのではないでしょうか。当時、関西弁はコミュニケーション手段として大きな役割を果たしていたはずです。

 江戸の社会において彼らは、間違いなく強烈な存在感を放っていたことでしょう。


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