もし全ての「花」が日常から消えてしまったらーーコロナ禍に思う「不要不急」の意味
外出自粛の2020年も春から初夏へ。あなたはこの間、どれだけの花を見ましたか? 花が私たちの日常に与えてくれていたものとは何なのか。ライターの宮野茉莉子さんがあらためて問い直します。「なぜ人は、花を美しいと感じるのか」 もう何年も前になりますが、新聞の1面に「なぜ人は花を育てるのか」と問い掛けるコラムを見つけ、読んだことがあります。 「ものを知らないことは案外いいものである。朝、春のような景色に出会った。近所の小さな喫茶店が軒先に出すワゴンに、ピンクや白、オレンジ…色とりどりの花があった◆冬に咲く花がこれほどあるのかと感心する。一つの鉢さえ花の名は分からぬが、少しもいらいらしない。どこかの花壇でまた会って、ああ、あのときの君かい?と…その折に名刺をもらえばいいと思うからである◆(中略)結局、答えの出ない問いであるならば、別のことを考えるとしよう。なぜ人は花を育てるのだろう。どうして、美しいと思うのだろう。」(2013年1月20日付け読売新聞1面「編集手帳」) それは日本から遠く離れた北アフリカの国、アルジェリアで起きた人質事件に触れるものでした。現地で働く日本企業の社員らがテロに巻き込まれ、犠牲になった事件。連日の報道に胸が痛み、社会全体が未知の脅威を恐れ、「なぜ」「どうしてこんなことに」と途方に暮れ、震えた記憶が今も残っています。 人はなぜ花を美しいと感じるのか、あらためて考えてみたい(画像:写真AC) 人はなぜ花を育てるのか。なぜ花をめでるのか。 その問いを2020年4月の今ふいに思い出したのは、日本中、世界中が沈痛な空気に覆われた状況が、あの日々とどこか似ていると感じたからかもしれません。 花は「不要不急」の最たる例かもしれない花は「不要不急」の最たる例かもしれない 何でもない日々に、自宅に花を飾っていると聞いたなら「自然や植物が好きな人」「丁寧な暮らしをしている人」というイメージが浮かんできます。一方の筆者は年に1、2回「花を飾ろうかな」と思いつきはするものの、日常にうまく取り入れられるほどには長続きしないタイプ。 その程度の付き合いだった花を今「欲しい」と強く思うようになったのは、無論、新型コロナウイルスの感染拡大に影響されたものです。 まだ立春になる前から始まった日本国内での感染拡大の報道は、日に日に悪化する状況を伝え続け、街からは次第に人が消え、気づけば季節は春を迎え、初夏を迎えていました。 当たり前のものだった薄紅色のソメイヨシノ、黄色い菜の花、赤や白、オレンジのチューリップを、この春はほとんど誰も見る機会がなかったのではないでしょうか。 街の映画館や美術館、百貨店、音楽コンサートやスポーツイベントと同じように、花もお花見も、生活の維持に「不要不急」のもののひとつに数えられるのは当然のことかもしれません。 花はただ咲き、散る。何の迷いもなく(画像:写真AC) それでも、その「不要不急」のものたちに、私たちの生活がどのように慰められ、励まされていたのかを、今あらためて感じている人は少なくないはずです。 長い冬が終わり、ようやく春が訪れた直後の外出自粛は、春に咲く花々の色彩が私たちが思う以上に何ものかを与えてくれていたのだと、再認識する契機にもなりました。 言うまでもなく花は生き物です。葉を伸ばしつぼみを膨らませ、見事な花を咲かせた後は花弁を1枚ずつ落として潔く枯れる。その生き生きとして迷いのない変化の過程を、今、間近に眺めてみたいと思うのは、おそらく筆者だけではないでしょう。 自宅で過ごす変化の乏しい毎日に。日々伝えられる国内感染者数に人の生き死を思わずにはいられない日常に。緊張状態を強いられ、知らず知らず不安やストレスが沈殿していくこの日々にこそ、花は必要なのだと筆者は考えています。 日常に花を。まずはリビングに1束日常に花を。まずはリビングに1束 とはいえ、今は外出自粛中。自宅にいながら花を楽しめるアイテムをいくつか探してようと試みました。 筆者のように「花選びは初心者」という人は、思い切ってプロの力を借りてみるのもいいかもしれません。 今はやりのサブスクリプション(定額サービス)では、花を楽しむこともできるようです。毎月1回、定額で自宅に届く現代経営技術研究所(文京区本郷)のサービス「JIHEI FLOWER」は、知らない花や組み合わせを楽しめて新たな発見もあるかもしれません。 定額で毎月自宅に届く花(画像:現代経営技術研究所) 華美過ぎない組み合わせの花束は、日常に溶け込みながらも、さりげない華やぎをリビングに与えてくれることでしょう(月額5500円、送料・税込み)。 ふと、ひと息つきたいとき、花があれば 例えば花柄のワンピースを選ぶにしても、大人の女性ならパステルカラーの小花柄より植物図鑑のように写実的なタッチの方がしっくりなじんで着こなせるもの。 花をお茶菓子に取り入れるときも、押し花そのものを載せたドーナツを選ぶのはいかがでしょうか。 押し花を載せたドーナツと、青色が鮮やかなお茶(画像:FABTONE) 花本来の色彩を生かしたラベンダーやカモミール、ビオラ、ローズなどを使った5種類が、見ているだけで生き生きした気持ちにさせてくれそうです。 杉並区高円寺にあるカフェ「gmgm(グムグム)」の人気商品で、2020年4月30日(木)までにオンラインショップで購入した人にはドライフラワーと青色が鮮やかなお茶の葉も無料でプレゼントしてくれるそうです(ドーナツ1個税込み500円)。 時にはちょっとぜいたくなアフタヌーンティーを自宅で楽しむのも、外出できない今ならアリかもしれません。 今感じた気持ちを、忘れないでおくために今感じた気持ちを、忘れないでおくために いずれ日常が戻ってくる日を願って、今ある自宅での時間を大切に。そして、今感じた思いを大切に取っておくために、「ハーバリウム」という選択も意味がありそうです。 誠文堂新光社(文京区本郷)が2020年4月に出版した実用書『固まるハーバリウムで作るインテリア雑貨とアクセサリー』では、オイルの代わりに「シリコンゲル」を用いて花を閉じ込める、固形のハーバリウムの作り方を学べます。 『固まるハーバリウムで作るインテリア雑貨とアクセサリー』(画像:誠文堂新光社) コースターやオーナメントなどの雑貨のほか、ペンダントなどいつも身に着けていられるアクセサリーの作り方も紹介されています。 一度作れば長く楽しめるので、「慌ただしい毎日に生花のお世話をするのは難しい」という人にも向いているかもしれません。 ※ ※ ※ 花が私たちにくれる慰めやパワーをあらためて感じる、今回の新型コロナウイルス禍と外出自粛。 今できることで日常にほんの少しの彩りを取り入れながら、また外出先で咲く花を楽しめる日が来ることを願ってやみません。もちろん、映画館や美術館、音楽コンサートへまた勇んで出掛ける日が戻ってくることも。
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