出生率ワースト1位なのに都心の子どもだけが今も増え続ける東京事情

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出生率ワースト1位なのに都心の子どもだけが今も増え続ける東京事情

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中山まち子

教育ジャーナリスト

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合計特殊出生率が全国最下位の東京。その一方、就学児童の数は過去20年間で増加傾向にあるといいます。いったいなぜでしょうか。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。

出生率は全国最下位

 東京都が2020年1月に発表した2018年の合計特殊出生率(15~49歳までの女性の年齢別出生率を合計したもの)は、1.20と全国最下位になっています。

合計特殊出生率の年次推移(画像:東京都)



 また人口当たりの子どもの割合が低く、待機児童問題もクローズアップされるなど、東京都は一般的に子育てがしにくいイメージがあります。その一方、直近20年間の就学児童数は増加傾向が続いています。

 全国的に深刻な少子化が進むなか、東京都で何が起きているのでしょうか。

都心の子どもが増えている

 総務省が毎年「こどもの日(5月5日)」に合わせて発表する調査によると、2019年10月1日時点で、東京都の15歳未満の子ども人口だけが、前年より増加していることがわかりました。

 日本の出生数は減少の一途をたどっており、2019年は86万人。メディアでも大きく取り上げられたことで注目を浴びました。しかし、前述の通り、東京都では真逆の事態が起きているのです。

東京都の出生数の推移(画像:東京都福祉保健局のデータを基にULM編集部で作成)

 東京都の出生数は2005年(平成17)年の9万6542人を底に増加傾向が続き、2015年には11万3194人に達しました。ここ数年は落ち着いたものの、10万以上を維持しています。

若い世代やファミリー層の流入

 そもそも東京の出生数が増加し続けているのは、全国から若者が就職や進学を機に東京に集まっているためです。

東京都の区部(23区)と市部の出生数の推移。区部は増加傾向にあり、市部は減少傾向にある(画像:東京都福祉保健局のデータを基にULM編集部で作成)



 2018年の東京は、7万9844人の転入超過(転入者が転出者を上回ること。数値は外国人を含む)となりました。年代別で見ていくと、20歳から24歳までは5万4124人の転入となり、全体の約68%を占め、突出しています。

 若者が集中するということは、裏を返せば独身男女の出会いも自然と多くなることを意味しています。都会の若者は結婚しない、未婚者も多いと指摘されることも多いですが、2019年の全国の婚姻件数は58万6438組に対し、東京都の件数は全体の14%となる8万2716と大きな数値となっています。

 東京都の初婚年齢は、夫が32.3歳、妻は30.4歳と晩婚化が進んでいます。しかし人口1000人当たりの婚姻件数を表す「婚姻率」の2018年の全国平均が4.7に対し、東京都は6.2と高くなっています。

 これらの結果から、東京で結婚し、出産する夫婦が予想以上にいることがわかります。

繰り返される転入超過と転出超過

 東京のデータで気になるのは、0歳から6歳は転出超過(転出者が転入者を上回ること)という点です。東京で生まれても、家族の転勤や転職などで他の自治体へ出ていく子どもが多いことがわかります。

転勤による引っ越しのイメージ(画像:写真AC)

 しかし就学年齢となる7歳以降は転入超過に転じ、その傾向は30代半ばまで続きます。34歳以降は一転して転出超過が続きますが、再び45歳から50代前半は転入超過に変化していきます。

 東京で結婚や出産を経験し、30代半ばから地方支店で勤務し、再び本社勤務のために東京へ戻ってくる層が相当数いるのです。労働人口の動きが、幼児の人口の転出に影響を与えていると考えられます。

23区は子育て可能な大都市へ

 現在の30代から40代までの働き盛り世代が子どもだった頃、時代はバブル期から平成不況へと大きな変革期にありました。

 バブル崩壊で都心の地価は下がり、土地が売却されたこともあり、都心で大規模マンションなどの住環境の整備、再開発が進められました。

 お台場や豊洲に代表される沿岸部の都市開発も都市再生機構(UR)が携わり、住空間や公園の整備をセットしたものが多くなっています。

都心の豊洲のマンション群(画像:写真AC)



 こうして、「仕事をするだけ」という印象が強かった23区は子育て可能な大都市へと変貌を遂げていきました。

変化する「東京勤務 = 郊外に住む」

 2020年1月1日(水)時点で、東京都の住民基本台帳を基にした人口総数(外国人を含む)と2015年を比較すると、23区の0歳から14歳の子どもの数は5万4947人増えています。市部は1万209人減となっており、都心のみ増加している格好です。

 一方、23区内の15歳から64歳の生産年齢人口はこの5年間で31万7081人も増えていますが、市部では2252人減少しています。

郊外の住宅街のイメージ(画像:写真AC)

 シニア世代が現役だった頃は「東京に住む = 郊外の戸建て」という選択が一般的でしたが、かつての常識は大きく覆り、通勤や学習環境を考えて、都心を選ぶ夫婦やファミリー層が増えていると考えられます。

「東京っ子」の割合は高まっていくか

 東京には大学までの教育機関が多く、「この大学で学びたい」といった明確な目標がない限り、東京育ちの子どもが他県の大学を積極的に選択することはほとんどありませんし、就職でも同様です。

 人生にかかわる重要な選択が、全て東京都内で済ませられるのが現実なのです。

東京の雑踏のイメージ(画像:写真AC)



 国内の出生数が86万人と減少の一途にあるなか、前述の通り、東京都の出生数はここ数年約10万人で推移しています。現在の東京一極集中が続けば、「東京っ子」の割合はさらに増加していくのです。

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