なぜ農業バイトを選んだのか
都市部に暮らす皆さんは、「農業バイト」と聞くと、ちょっと縁遠いものだと感じませんか? かく言う筆者も敷居が高いものだと思っていたのですが、実は2020年6月現在、短期で農業バイトをやっています。場所は都心から急行で小一時間ほどの郊外で、自宅から車で通っています。
ライターなのになぜバイトをしているのかを説明すると、新型コロナウイルス感染拡大による外出自粛によって、出先での取材仕事ができなくなりました。最初は自宅にこもっていられるとやや楽観的に捉えていましたが、次第に稼がなければと考えるように。
短期でアルバイトをしたいけれど、家の外に出るとなれば感染リスクを伴う。3密が避けられる屋外ならリスクが下がるし、せっかくだから運動になるものがいい。
そこで思いついたのが農業バイトで、折よく募集を見つけることができました。
農業に対する強いあこがれや思い入れがあったわけでは決してなく、土いじりもあまり得意ではなかった筆者ですが、かくして「玉ねぎ」の収穫をすることになりました。
現場に入る前に一番心配していたのは、屋外と言ってもきっと「密集」「密接」になるのではないだろうかということ。そして、重いものを持つことによるギックリ腰、日焼けでした。
いざ現場に入ってみると
農業バイトの現場にはきっと、年配のいかにも農業のプロっぽい人や、若者ならこだわりのありそうなナチュラリストが多いのだろうと想像していました。
しかし実際行ってみると、その通りといった雰囲気の人もいるものの、ほとんどがごく一般的な主婦や若者でした。
あわや「密」になる場面も……
農業に興味があるというよりも、まるで工場でパートをするような、仕事の一種という感覚の人が多い印象です。なかには20代の女の子たちもいて、「スタバのフラペチーノが食べたい」と言いながら作業していたりします。
これは農業の門戸の広さを感じさせられる、良い意味で想像を裏切られる発見でした。
現場に入る前に心配していたことは実際どうだったのでしょうか。
コロナ対策については、雇い主より、マスク着用とソーシャルディスタンスを意識することを指示されました。皆ある程度意識しているのですが、ふと「密集」「密接」になってしまう場面はしばしばあります。
作業していて、いつの間にかお互いの距離が詰まっているときがありますし、同じコンテナに玉ねぎを入れていくとき、一緒にコンテナを持つときなどは、どうしても近くなります。
国からの呼びかけもあって、暑いのでマスクを外して作業をしている人も増えてきました。そのまま近距離で会話をしてしまうことがあります。
また休憩中にマスクを外して飲み物を飲みながら会話をするとき、2mの距離を取れないことがあるのですが、バイトの日を重ね、仲良くなってくると、ソーシャルディスタンスもあいまいになってきます。
「密閉」ではない屋外空間であること、また紫外線の照射が新型コロナウイルスの不活性化に有効との報道を見聞きしたことも影響しているかと思います。
「3密」対策に照らせば、厳密には決して良くはないのですが、これまでかなり神経質になっていた筆者は、コロナと共存する現実社会へ順応するためのリハビリのように捉えています。
ギックリ腰を回避できそうなワケ
重いものを持つことについては、そこまで無理をしなくてもよいと言われています。例えば玉ねぎが入ったコンテナは、人と一緒に持っていいので、今のところギックリ腰になっていません。
日焼け対策は、できるだけ紫外線(UV)カット製品を利用して、休憩時間にたっぷり日焼け止めを塗るようにしていますが、顔が少しずつ黒くなってきているように思います。ある程度は仕方がないですね。
さて、農作業は運動になるかというところについて。
物を運んだり歩いたりはしますが、想像よりずっと座り仕事が多いのが実情でした。玉ねぎは地中に埋まっているので、地面に座り込んで作業するのです。同じ体勢で周辺にある玉ねぎをまとめて引き抜き、またちょっと移動して引き抜く、といったような状況です。
座り込まず、次に動きやすいようしゃがんで作業すると、人によっては脚が筋肉痛になります。また腕や肩、腰は、同じ体勢が多いせいか筋肉痛になります。
そんななか、最も動かすのは、実は指です。葉や根を切るのにひたすらハサミを使うからです。ハサミの切れが悪いと、変に力を入れるので、腱鞘(けんしょう)炎になりそうになります。
道具選びと同様に、どうしたら自分の体は筋肉痛になりにくいのかを日々試しながら、持続可能性を考えるのが大切です。
農業バイトのメリットとは
農業バイトのメリットはなんでしょうか。
屋外のせいか、職場の雰囲気がおおらかでのんびりしています。自主的にスピードアップを探ることはあっても、雇い主からせかされることは、今いる現場ではあまりありません。
「ホーホケキョ」とウグイスの鳴き声が聞こえたり、ふいに吹く風のさわやかさを味わったり。てんとうむし、バッタといった昆虫や、かたつむり、ナメクジ、毛虫、さらには野ねずみ、ヘビが現れる自然豊かな環境です。
どんどん強まる玉ねぎへの思い入れ
作業自体はやってみるとかなり面白いです。玉ねぎを引き抜くときの、面ファスナーを剥(は)がすかのような音と手ごたえが快感ですし、葉や根を切り落とす作業はこれでお金をもらえるなんてと思うくらい。
ずっとそればかりをやっていると、だんだん飽きが来ることもあるかもしれませんが、おしゃべりしてもいいし、ラジオなどを聴きながら作業をしても大丈夫。
またどんな仕事でもそうですが、ここにも当然、学びがあります。
同じ畑でも、仕上がってくる玉ねぎは大きさや形がまちまち。形は、イメージするような丸いものだけでなく、レモンのように縦長のものがあったりします。
そういうものは規格外になるのですが、規格外としてはじかれてしまう野菜がいかに多いか。収穫前から腐っていて廃棄になるものも少なくなく、農業は大変だなと改めて思います。
時給は決して高くないものの、時折、規格外の玉ねぎの現物支給があるのも魅力。皆、喜々としてめいっぱい袋に詰めて持ち帰ります。そんな風に、バイトで、食卓で、多くの玉ねぎに日々触れているので、思い入れの強い野菜になったこともうれしい変化です。
そしてこれは、やや余談的にはなりますが。屋内の仕事と違って、バイトの前日にニンニクを食べるのを避けようとか心配しないでよいのはけっこう便利です。
農業バイトのデメリットとは
屋外の農業バイトのデメリットは何でしょうか。当然ですが、天候に左右されることです。
雨が降ると、中止、中断になります。天気予報次第でバイトの日が決まりますので、直前までスケジュールが読めないことがあります。他に仕事をしていて、それがシフト制だったりすると、かなり厳しいのではないかと思います。その日のスケジュールを1日確保していても、午前のみで終わってしまったりするのもデメリットでしょう。
想像以上に暑さがこたえる
また、デメリットというか筆者が一番きついなと感じていることは、暑さです。
とにかく暑いです。天気予報で22度と聞けば大したことがなさそうな印象ですが、実際はけっこう日差しが強く、暑くて汗をかきます。前述のように大して動き回らないのに、暑さのせいか体がぐったりします。午前中の作業だけで、午後は使い物にならないくらい疲れることもあります。
あと想定内ですが土ぼこりが立つので、マスクをしていても口や鼻の中までほこりが侵入してきます。
農業バイトの探し方
メリット・デメリットを両方紹介しましたが、それらを総合してもやはりなかなかに魅力が満載の農業バイトです。
首都圏で探すなら、まずはYahooやGoogleで「農業 バイト 東京」と検索してみてください。件数は多くはないですが、各サイトが検索結果として上がってきます。
2020年6月上旬時点では「農家のおしごとナビ」でなんとお台場での仕事が見つかります。「タウンワーク」では昭島市、「求人ボックス」では江戸川区、「あぐりナビ」では神奈川県横須賀市や伊勢原市のバイトが見つかる、といった具合です。
ちなみに筆者のバイト仲間は、今回の募集をインスタグラムで見つけたと言っていました。少し前にツイッターで、外国人労働者が今いないので高原野菜の収穫バイトの募集をしているという投稿があり、多くの反応があったのも印象的でした。
SNSが有効なのは、総合農業情報サイトの「マイナビ農業」が2017年8月に、楽天の農業メディア「農むすび」が同年11月にオープンするなど、若い世代の農業への関心がここ数年で高まっているといった社会的な変化も関わっているのでしょう。
東京都の総面積の3.4%(7130ha、2015年時点)は畑です。江戸川区のコマツナが有名ですが、東京23区ではほかにも、キャベツ、ブロッコリー、エダマメ、鉢花などが栽培されています。
今回の新型コロナウイルス感染拡大では、国内の自給率が問題になりました。今後、農業が盛んになっていく可能性、十分に考えられます。