ゾンビ作品から学ぶ、デマやバッシングまみれのコロナ禍を生き抜く方法とは

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ゾンビ作品から学ぶ、デマやバッシングまみれのコロナ禍を生き抜く方法とは

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岡本健(近畿大学総合社会学部総合社会学科准教授)

世界中で人気コンテンツとなっているゾンビ。ゾンビは世代によって捉え方が異なり、日々進化しています。そんなゾンビの魅力について、『大学で学ぶゾンビ学』の著書がある近畿大学総合社会学部准教授の岡本健さんが解説します。

あちらこちらにゾンビ出現

「そういえば、最近いろいろなところでゾンビを見かけるなぁ」

と思った、そこのあなた。感性が鋭いです。

 今や新型コロナの緊急事態宣言で閑散となった渋谷交差点ですが、ハロウィーンの時期は仮装の人々で埋め尽くされ、軽トラが転がったこともありました。

ゾンビウオーキングのイメージ(画像:SSS)



 仮装の中にはたくさんのゾンビがいますし、都市で開催されるさまざまなイベントにもゾンビをモチーフにしたものがあります。もちろん、東京が登場するゾンビ・コンテンツも、です。

 この記事では、ゾンビと東京の意外な関係について迫っていきたいと思います。

名前を聞いて思い浮かべるものとは

 さて皆さんのゾンビに対するイメージは、いったいどのようなものでしょうか。

・死体がよみがえって動く?
・ウイルス感染が原因?
・人間に対する態度は?
・移動速度は遅い? 速い?

 実は、皆さんが抱いているゾンビのイメージは、世代や触れているメディアによってかなり異なります。

ハロウィーンにゾンビメークを施した参加者たち(画像:SSS)

 それなのに、服がぼろぼろで、血のりがついていて、目がどろんとしていて、生きている人間に襲い掛かろうとする存在は、なんとなく「ゾンビ」で通じてしまう――ゾンビの面白さはここにあります。

畑で農作業をしていた

 ゾンビはそもそも、ハイチのヴードゥー教の呪術師が「ゾンビ・パウダー」なる粉で、死体をよみがえらせて作り上げるものでした。これは現実の話です。

 この「ゾンビ・パウダー」には、テトロドトキシンというフグ毒が入っていたそうで、本当にそんな効果があるのか、毒について研究する学者たちによって真面目に検証されていました。

水中を泳ぐフグ(画像:写真)



 こうして生み出されたゾンビですが、人を襲って食べたりしません。そもそも自分の意志が無いのです。

 では何をするかというと、呪術師の言うことに従って畑で農作業をするなど労働をさせられます。この「ヴードゥー・ゾンビ」が映画に描かれることになります。1932(昭和7)年の『ホワイト・ゾンビ』です。

いつから人を食べるようになったのか

 ゾンビが人を食べるようになったのは、ジョージ・A・ロメロ監督による『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』(1968年)や『ゾンビ』(1978年)のころからです。

 ここでゾンビに起こった大きな変化は、誰に操られるわけでもなく、歩き回り、そして生きている人間に襲い掛かって食べようとするようになったことです。

 そしてゾンビに襲われて死んでしまうと、その人もゾンビになってしまう。倒すためには頭を撃て! どうでしょう、皆さんが現在イメージするゾンビに近づいたのではないでしょうか。

 ちなみに映画『ゾンビ』には、いくつかバージョンがあって、当時日本で公開されたものは独特のバージョンで、これまでパッケージ化されていませんでした。

 そんな日本初公開版を復元しようという動きが、公開から40年たった2019年に起こります。クラウドファンディングで資金が集められ、2か月足らずで支援者739人、支援総額は1058万8000円も集まったそうです。

映画『ゾンビ 日本初公開復元版』の公開を求めるクラウドファンディング(画像:Makuake)

 東京では、ヒューマントラストシネマ渋谷(渋谷区渋谷)、アップリンク吉祥寺(武蔵野市吉祥寺本町)で公開され、早稲田松竹(新宿区高田馬場)でも公開が決まっています(現在は、新型コロナウイルス感染拡大防止のため休館中)。

『ゾンビ』は公開から40年たった今でも、これだけ熱心なファンがいるゾンビ映画なのです。

「未開の地」から「私たちのよく知る場所」へ

 時代が進むにつれてゾンビが登場する場所も変化していきます。

 1930年代や40年代の「ヴードゥー・ゾンビ」は、多くの場合が都市的な場所とは離れた未開の地であったり、絶海の孤島であったりといった、「私たちから遠く離れた場所の異文化」として描かれていました。

 ところが1950年代、1960年代に数多く作られたSF映画からの影響を受け、ゾンビが操られる仕掛けは呪術などから科学的なものに変化していきました。

 ゾンビが登場する場所も都市や郊外など、視聴者が日常的に訪れるところに。ちなみに先ほど触れた『ゾンビ』は、ショッピングモールが舞台です。

アメリカのショッピングモールのイメージ(画像:写真AC)



 ちょうど、アメリカでは自家用車が普及し、郊外に大型ショッピングモールができ、週末は自動車でモールに乗り付けて買い物をする、大量消費社会が実現していました。『ゾンビ』はそうした状況を皮肉った内容でもあったのです。

東京とゾンビの関係

 さて、東京が登場するゾンビものを紹介していきたいと思います。

 マンガ作品で見てみましょう。花くまゆうさくは『東京ゾンビ』(青林工藝舎。1999年)とタイトルにドーンと「東京」が入った作品を描きました。ちなみにこちらは、浅野忠信、哀川翔主演で実写映画化もされています。

花くまゆうさくの『東京ゾンビ』。表紙は2005年に竹書房から文庫として出版されたバージョン(画像:竹書房)

 すぎむらしんいちの『ブロードウェイ・オブ・ザ・デッド』(講談社。2011年)では、その名の通り、中野ブロードウェイが登場します。あるいは、むうりあんの『ゾンビが出たので学校休み。』(竹書房。2015年)では、秋葉原が舞台になっています。

 ショッピングモールと同じく商品が集積する場所ですが、中野ブロードウェイも秋葉原も、情報産業的な「モノ」が集積している点が面白いです。

 そして、ゾンビはなんとSNSまで使いこなすようになってしまいました。Twitterのツイートで連載されているゾンビ漫画があるのです。今田隆治の『MACHIDA DEAD』がそうです。町田感満載のゾンビパンデミック(世界的大流行)ものです。

ゾンビ世界よりひどい世界

 実は先ほどのゾンビの進化には続きがあります。2000年代に入って、映画の中のゾンビは移動速度が速くなり、猛ダッシュするものが現れたのです。

『ワールド・ウォーZ』(2013年)や『新感染 ファイナル・エクスプレス』(2016年)などでは、足がものすごく速いゾンビが見られます。明らかに人間よりも速い。こんなゾンビが襲ってきたら私(岡本健。近畿大学総合社会学部准教授)はもうお手上げです。こんな世界よりひどい世界なんて、ほかにあるのでしょうか。

『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』(原作:麻生羽呂、作画:高田康太郎)という作品があります。

2019年に発売された『ゾン100~ゾンビになるまでにしたい100のこと~』第1巻(画像:小学館)



 本作の舞台も東京で、主人公はブラック企業に勤めている設定です。うつ病のようになって働いている主人公が、ある朝目覚めて会社に向かおうと家の外に出ると、外はすっかりゾンビだらけ。

 しかし、彼はそれでも「このままでは会社に遅れる!」と思ってしまうほどの重度の「社畜」なのですが、ふと気づきます。

「今日から会社に行かなくてもいいんじゃね?」

 歓喜した主人公は、これまでやりたくてもできなかったことを、ゾンビがまん延する世界でひとつずつかなえていきます。

 本作の面白いところは、私たちの暮らしの中には「ゾンビがまん延するよりひどい世界があるかもしれない」という問いを突き付ける点です。

「あなたはどのように生きたいのか?」

 新型コロナウイルス感染拡大に伴い、さまざまなニュースが日々飛び込んできます。悪質なデマが流れたり、買い占めも起こったりしました。感染した人に対するバッシング、医療関係者やその家族にひどい言葉を投げかける人もいます。

良い世界へのヒントはゾンビから

 ゾンビ作品で描かれるのは、ゾンビの恐怖だけではありません。

 ゾンビに対して過剰なまでに暴力をふるう人間、あるいは、ゾンビそっちのけで人間同士が争い、結局はゾンビに食われてしまう――そんな描写がよくあります。

 ゾンビ作品は、人が「他者」に対して何をしでかすのか、そのシミュレーションを延々やってきたとも言えます。

世界は自分と他者で成り立っている(画像:写真AC)

 ということで皆さんも、今こそゾンビ映画やゾンビ漫画から「どうすれば良い世界を作れるのか」を学んでみようではありませんか。

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