30年以上も衰えぬ人気 『ウォーリーをさがせ』はなぜ爆発的ヒットを遂げたのか
子どもから大人まで夢中になれた みんな絵本を広げて、彼を探すのに必死になっていましたよね。そう、『ウォーリーをさがせ!』の大ブームです。 絵本の中から主人公のウォーリー、すなわち赤と白のしま模様シャツに青いズボンでメガネをかけた彼を探すために、子どもだけでなく大人まで、夢中になっていたのです。 この本の作者はイギリスのマーティン・ハンドフォードさん。『ウォーリーをさがせ!』は、彼が初めて手がけた絵本でした。 前例のないゲーム形式絵本だった この本が日本で発売になったのは1987(昭和62)年の12月です。出版社は、やなせたかしさんのアンパンマンシリーズで知られるフレーベル館(文京区本駒込)です。 もとは、イギリスの出版社から売り込みがあったのですが、当時の同社はあまり乗り気ではなかったといいます。 というのも、翻訳ものの絵本というのは、あまり売れないと言われていました。 それに、それまで前例のなかった、ストーリーを追うのではなく人物を探すというゲーム形式のスタイルです。おまけに、売り込みがあったのはイギリスでも出版された直後で、あまり話題になっていない時期でした。 ゲーム形式で繰り返し読めるという構成は、面白いけれどそんなに売れるとは思えない――。当時は、そんな意識で出版に踏み切られたようです。 続編が出るたびに人気が加速した続編が出るたびに人気が加速した 児童書というのは、決して多くの部数が出る本ではありません。2万部も売れればベストセラーといわれる世界です。ですので、初版は5000部を刷っただけでした。それが思ったよりも売れ行きがよく重版をかけることになります。 日本で爆発的ヒットを飛ばした『ウォーリーをさがせ!』。初版は5000部だけだった(画像:(C)DreamWorks Distribution Limited. All rights reserved.) さらに続編……『タイムトラベラー ウォーリーをおえ!』『ウォーリーのふしぎなたび』『ウォーリーのおもしろゲームブック』が刊行されると、売れ行きはさらに加速していきます。 当初は「たくさん売れている絵本がある」ということで話題になっていたのが、気がつけば大人までもが遊んでいる本だと話題になって、さらに売り上げを伸ばします。 いよいよブームが過熱した1991(平成3)年の秋ごろには、シリーズ累計で395万部を突破していました。 関連グッズがいくつも発売された 数年かけて徐々にブームが加速した『ウォーリーをさがせ!』ですが、特に伸びたのは1990年の後半からだったといいます。 この時期になると、ウォーリーというキャラクターのポップさに目を付けて、ライセンス使用を申し込む会社が次々と現れます。 レターセットに弁当箱、文房具、さらには枕まで。おおよそ思いつくようなグッズはだいたい発売されています。 キャラのポップさが若者にウケたキャラのポップさが若者にウケた いまさらいうまでもありませんが、このシリーズは単にアイデアが面白いだけではなく絵の色彩や造形がポップだったことも人気になった要因です。 これにより中高生までもが『ウォーリーをさがせ!』を楽しむようになったことが、ブームをさらに加速させました。当時、中高生だった人は確実にひとつくらいウォーリーの描かれたグッズを持っていたのではないでしょうか。 2019年にはハローキティとのコラボも。Tシャツやスマホカバー、ポーチなどが発売されたという(画像:サンリオ) ちなみに、レターセットを販売したある企業では8種類のデザインで約92万セットを売り上げたそうです。だいたい1万セット売れればいいと言いますから、超大ヒットです。 1992(平成4)年にはアニメ化もされていますが、こちらは当初は普及途上だったCSチャンネルだけで放送。それがレア感をあおったのか、ビデオが発売されるとたちまち20万本を売り上げるヒット商品になっています。 アニメは、合間に1分間のストップモーションがあり、テレビ画面の中でウォーリーをさがすことができるという、かなり手の込んだ構成でした。地上波では1994年の夏休み中に、テレビ東京が午前中のアニメ放送枠「夏休みアニメフェスタ」で放送し、人気を集めました。 何人も同時に楽しめる絵本だった このシリーズの特長としては、絵本なのに複数人で読めるということも挙げられます。 絵本というと、だいたいは子どもが読むか大人が一緒に読んであげるか。せいぜい2人が“定員”です。でも、このシリーズはウォーリーを探すわけですから、それ以上の人数でも構いません。 いくら探しても見つからなかったいくら探しても見つからなかった 子ども向けの絵本でウォーリーを探すのだから、そんなに難しいワケはない。そう思って本を開いた大人は、たいてい頭を悩ませます。 大型の見開きページにビッシリと描かれているのは、生き生きとした無数の人間の様子です。主人公以外は手を抜いて描いてるなんてことはありませんから、探しても探しても見つかりません。おまけにニセモノも混じっていたりします。 どうしても見つけられない人もいるのか、フレーベル館には電話や手紙で答えを教えてほしいという読者からの悲痛の声が寄せられます。でも、出版社も解答は教えてもらっていなかったので、答えることなどできなかったそうです。 今も新たなファンを獲得している このシリーズが最も評価されるのは一時のブームに終わらず、現在に至るまで長く人気を保っていることです。 2018年に開かれた日本初の原画展(画像:(C)DreamWorks Distribution Limited. All rights reserved.、スタイリングライフ・ホールディングス プラザスタイル カンパニー) 2018年には「誕生30周年記念 ウォーリーをさがせ!展」が、東京は銀座の松屋銀座(中央区銀座)を皮切りに全国を巡回しました。日本に初めてウォーリーの原画がやってくるということで、再び人気に火をつけました。 ちなみに、作者のマーティン・ハンドフォードさんは、あまりメディアには登場しない人でサイン会も開いたことがないそう。 作者自身がウォーリーみたいに、街に紛れ込んでいるんですね。
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