防災面で再注目を集めるタワーマンション
2011年の東日本大震災の際、東京の臨海部では、浦安やベイエリアの新木場、豊洲、お台場で液状化により道路が土砂で埋まるなどの散発的な被害に見舞われたほか、震災に伴う計画停電でタワーマンションの47階まで30分掛かって階段を上るといった困難が生じたことも報じられました。
最近では、2019年10月、関東・東北に大な被害を及ぼした台風19号によって、川崎市中原区・武蔵小杉の47階建ての高級タワーマンションの周辺が冠水し、マンション自体が停電、断水、汚泥汚染の被害にあったことが報じられ、憧れのタワーマンションも、案外、自然災害に弱い側面がある事例として話題になりました。
近年、東京では臨海部などを中心にタワーマンションが大きく増加し、「都心回帰」ともいわれる東京への人口集中の大きな受け皿になっています。それだけに、首都直下型の大地震がいずれは起こると考えられているなか、そうした高層建築物における安全性について大きな関心が高まっているといえるでしょう。
東京における暮らしの実態や地域としての東京の特色をさまざまな統計データから探るシリーズ記事の第1回目のテーマとして、今回、東京の高層ビルや高層マンションはどのくらい増えているかを取り上げます。
これは、高層建築物における安全性を議論する前提として、「そもそもわれわれは、どれだけ高いところで仕事をしたり暮らしたりするようになっているのか」という点について素朴に現状を知りたいと思うからです。
20年間で5倍近くにまで増加
東京消防庁は、都内の建築物について、高層、超高層に至るまで階数別に全てのビルを把握しています。防火体制の整備や、火事や災害の際の消防・救助活動に役立てるためです。そして「東京消防庁統計書」には、消防署管内ごとに4階建て以上の建物の数について1階刻みの階数別データが掲載されています。
「図1」には、30階以上の建築物を高層ビル・高層マンション(以下、高層ビルと略します)としてとらえ、東京23区内の消防署管内ごとに最新の2018年末の数を表しました。図には20年前の1998(平成10)年末現在の数もわかるようにしています。また、この間の毎年の23区計の推移のグラフも付しておきました。
23区計の推移を見ると、2000(平成12)年より前には高層ビルの数は70台であったのに対して、20年後の2018年末には332と約5倍の大きな増加となっています。
次に高層ビルの都内分布の状況について見ていきましょう。参考までに、次のページには「図2」として消防署の管内図を掲げています。
商業ビルから居住向けマンションへ
従来より東京の都心部と考えられている地域の高層ビルは、千代田区の丸の内署管内(以下、管内を略す)の26、麹町署11です。副都心については、新宿副都心は都内で2番目に高層ビルが多い新宿署の37に含まれ、渋谷副都心は渋谷署9、池袋副都心はサンシャインビルなどが属する池袋東口方面の豊島署の8と西口方面の池袋署の4に含まれています。
新宿署の高層ビルは、1998(平成10)年の段階では23と都内で他を圧倒していました(2位だった中央区臨港署の9の2倍以上)。新宿には1971(昭和46)年の京王プラザホテルを皮切りに超高層ビルが相次いで建設され、東京都庁が1991(平成3)年に有楽町からこの地に移転した頃にはすでに都内随一の高層ビル街の地位を確立していたといえます。
こうした東京の都心、副都心の高層ビルは、「業務ビル」「商業ビル」が中心であるに対して、近年は、東京湾岸部(ベイエリア)で「居住向け超高層マンション」(タワーマンション)の増加が目立つようになっています。
2018年末には、消防署管内ごとの高層ビルの数としては、港区の芝署が44と新宿署を抜いてトップに躍り出ています。芝署管内には、新橋・虎ノ門・浜松町の業務ビルもありますが、最近増えているのは、ベイエリアの芝浦・海岸・台場の超高層マンション群です。
都心、副都心以外で高層ビルが多い消防署を見ると、隅田川沿いの南千住の再開発地区を含む荒川区荒川署を除いて、いずれも湾岸部です。湾岸部を東から西に見ていくと、
・江東区深川署(豊洲、東雲〈しののめ〉を含む):35
・中央区臨港署(月島、晴海を含む):29
・港区芝署(芝浦、海岸、台場を含む):44
・港区高輪署(品川駅周辺と港南を含む):24
・品川区品川署:14
となっています。夜景が美しいことで知られるこれらのベイエリアの高層マンション群が、都心回帰の受け皿となる住宅として1990年代後半からの東京の人口増をもたらしたことは確かでしょう。
階数の多さと増加率は比例関係
それでは、さらに、どのくらいの「階数」のビル・マンションが特に増えているかについて、これまでと同じ東京消防庁の統計で見ていきましょう。
図3には、建物の階数別の建物数とこの10年間(2008~2018年)の増加率を掲げました。ここからどんな高さのビル・マンションが増えているかを把握することができます。
統計の対象となっている4階建て建物のうち、10階建て未満の建物の増加率は14.8%であるのに対して、10階建て台は28.2%、20階建て台は32.5%となっており、階数の多いビル・マンションほど増えていることがわかります。さらに、超高層ビルやタワーマンションと呼ばれるクラスになると、グラフにしたように、30階~44階建ての建物は3~4割の増加、さらに45階建て以上の建物は5~6割の増加となっています。超高層ともいうべき45階建て以上の建物の増加が特に目立っています。
今や、東京全体でノッポビル、ノッポマンションほど、ニョキニョキとどんどん増えている状況がデータからうかがえます。
ちなみに、この消防庁のデータでは東京23区内で最も階数の多い建物として60階建ての建物がこの10年に1から2へと増えています。2008年末には「サンシャイン60」(豊島区東池袋、1978年完成)の1でしたが、その後、東京でもっとも高いタワーマンションとなった「ザ・パークハウス西新宿タワー60」(新宿区北新宿)が2017年に完成したからです。
業務ビルや商業ビル、さらに住居系のタワーマンションと、東京でのわれわれの生活や仕事は、こうした高層ビルの中で営まれる場面がますます増えているのです。
われわれが住むのは現代版「バベルの塔」か
旧約聖書の創世記が伝える「バベルの塔」の物語では、人々が天にも届きそうな塔を建て神の世界へ近づこうとしている姿を見て、神は「人々は同じ言語を話しているから、このような思い上がったことをしでかした」として、二度とこのようなことができぬよう人々の言葉を互いに通じないようにし、バビロンの地から世界各地へ散り散りにしたとされています。さまざまに異なる民族がいることを説明する起源伝説です。
今回紹介した、東京で高層ビルが林立しているというデータを見ると、まさにこの「バベルの塔」が現代によみがえりつつあると感じてしまうのは私だけでしょうか。「バベルの塔」の共通言語に当たるは、現代では、さしずめインターネットによる共通情報基盤ということになるでしょう。