新宿から6分、杉並の「沖縄タウン」はなぜ作られたのか

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新宿から6分、杉並の「沖縄タウン」はなぜ作られたのか

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増淵敏之

法政大学大学院政策創造研究科教授

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杉並区の京王線代田橋駅から徒歩5分のところに、小さな「沖縄タウン」があることをご存じですか? もともと商店街の振興を目的につくられたこの場所は、驚くほど沖縄の雰囲気を漂わせています。法政大学大学院政策創造研究科教授の増淵敏之さんが、現地を訪ねて歩きました。

ほかの沖縄タウンとは、異なる成り立ち

 北海道で育った筆者(増淵敏之。法政大学大学院教授)は、東京から遠い沖縄には理屈抜きの親近感を持っています。

 2019年末、忘年会で恵比寿の沖縄料理店に行きました。久々の沖縄料理を食べながら、ふと「沖縄タウン」のことを思い出しました。今までにゼミの学生に何人か沖縄出身者がいたので、話だけは聞いていて行ってみたいなと思いつつ、現在に至ってしまったわけです。

「めんそ~れ」と書かれた大都市場の入り口(画像:増淵敏之)



 場所は新宿からわずか6分の京王線「代田橋駅」を北口に出て、甲州街道を渡ってすぐのところ。甲州街道の歩道橋を上るところに案内地図もあるので、初めて行ってもわかりやすいと思います。

 正式名称は「和泉明店街」といいます。この商店街は登録約70店舗、総延長380m。小規模ですが、那覇市の栄町市場と似た雰囲気を持つ大都市場を持つ回遊性のある街区構造になっています。

 しかしこの商店街は、横浜市鶴見区にある「沖縄タウン」とは成り立ちが違っています。

沖縄研究の雄が住んだまち

 鶴見区の方は仲通商店街がその中心になっていますが、もともと1899(明治32)年に沖縄から初めての移民がハワイに向かった際、最後の寄港地の横浜で伝染病の検査があり、不合格者が残されて住んだのが始まりと言われています。

 その後、横浜港の開発などに従事する沖縄の人たちが増えていって、戦後の高度成長期に最も多くの人々が移住し、これまでに約3万人以上の人々が定住しました。

 仲通とそのかいわいには沖縄関連の飲食店や物販店も、多く点在しています。また沖縄からの移民も南米方面にいく人々も増え、彼らの子孫が日本に働きに来ることも増えているので、南米関連の飲食店なども目につきます。

 一方、代田橋の方は明らかに街並み整備事業の一環として取り組まれたものです。

甲州街道に面する、「沖縄タウン」の入り口ゲート(画像:増淵敏之)



 ここは2005(平成17)年のオープンで、同時に甲州街道に架かる歩道橋も整備されました。

 商店街の入り口には、首里城の柱をイメージさせる赤塗りの街路灯が建っています。そして商店街各店の軒先テントも「ミンサー織り」(沖縄の伝統的な織物のひとつ)の柄に統一させるなど、工夫をしています。この商店街整備の事業費用は、杉並区の「千客万来アクティブ商店街事業」補助金を申請、認可を受けて進められました。

 杉並区は、沖縄学の父ともいわれる伊波普猷(いは・ふゆう)、琉球王国の歌謡集『おもろさうし』の研究で知られた仲原善忠(なかはら・ぜんちゅう)など高名な沖縄研究の学者が住んでいた地。23区内でも沖縄関係の居住者が多く、また沖縄料理の飲食店も多いことから、魅力のある沖縄県産品や文化に着目したまちづくりが構想されました。

 現在ではイベントなども実施されており、イベント事業や沖縄県産品の商品確保のために商店主だけで出資した株式会社も設立されています。

 さて、筆者が訪れたのは平日の昼前。さすがに人通りは少なかったのですが、のんびりした時間を過ごさせてもらいました。

マニュアル化されていない、ゆったりした空気

 まずは商店街を散策、この商店街は近隣の専修大学付属高校の通学路にもなっているようで、何人かの学生とすれ違いました。大都市場にも足を踏み入れてみました。市場というよりは飲食店が屋根付きの路地に連なっているといった方がわかりやすいでしょうか。沖縄料理で名の知られた店もありました。

 そこを抜けて右に喫茶店があったので、立ち寄ってみました。「来夢来人(ライムライト)」という店名からも、幾分レトロ感が漂っているのですが、店内はシンプルな内装で広めの喫茶店でした。ただこの店はそれほど沖縄色も強くなく、一般的な喫茶店でした。自家焙煎(ばいせん)ということでコーヒーはおいしかったです。

 その後、「島のれん」という沖縄料理店でランチを。カウンターの上には泡盛が並んでいたので、夜は居酒屋的な営業になるのでしょう。ランチのメニューも沖縄料理で、筆者はソーキそばセットを頼みました。

 先ほどの喫茶店もそうでしたが、この店も夫婦で営んでいるようでした。こういう店もたまにはいいですね。システム化、マニュアル化されていない空気感が、日々の疲れへのひとつの慰謝にもなります。ソーキそばセットは肉が3種類から選べて、それにジューシーが付いてくるというものでした。ジューシーというのは沖縄の炊き込みご飯のことです。

細く、入り組んだ路地が那覇の市場を思わせる(画像:増淵敏之)



 筆者が沖縄に関心を寄せるのは、東京一極集中の仕組みのなかで、もっとも独自文化が保存された地域だという点です。

 もちろんこれまでの歴史的な経緯を抜きにしては語れませんが、ローカルの東京ナイズドが進んでいくなかで、沖縄の文化はとても魅力的に見えます。沖縄料理もそうですが、島唄やデザイン、建築など、時間がうまく取れたら久々に沖縄にも足を運んでみたいものです。

 代田橋の沖縄タウンも不思議な面白さに満ちていますので、日常生活レベルで沖縄に出会える街と言えるかもしれません。

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