亡き夫の味を守り継ぐ、女主人ぬくもりの一杯 神楽坂「五芳斉」のワンタンメン【連載】東京レッツラGOGO! マグロ飯(8)

  • おでかけ
亡き夫の味を守り継ぐ、女主人ぬくもりの一杯 神楽坂「五芳斉」のワンタンメン【連載】東京レッツラGOGO! マグロ飯(8)

\ この記事を書いた人 /

下関マグロ(サンポマスター、食べ歩き評論家)のプロフィール画像

下関マグロ(サンポマスター、食べ歩き評論家)

都内散歩と食べ歩きにくわしいフリーライターの下関マグロさんが、都内一押しの「マグロ飯」を紹介します。

お昼時には行列が。お目当てはサービスメニュー

 町中華のなかには「未亡人中華」というジャンルがあります。もともとご夫婦で切り盛りしていたお店が、残念ながらご主人が他界され、残された奥さまだけで運営するようになった中華料理店のことです。

 こういうお店は意外に多く、たいていの場合はご夫婦時代よりもメニューを絞って、運営していることが多いですね。

 東京メトロ東西線の神楽坂駅と早稲田駅の間くらいの早稲田通り沿いに「五芳斉(ごほうさい)」はあります。住所でいえば、新宿区榎町。こちらは1950(昭和25)年、終戦の5年後に創業した老舗の町中華です。

デラックスワンタンメン。通常は850円だが、サービスメニューになっている場合は680円(画像:下関マグロ)



「主人の父親がここで創業し、亡くなった主人が2代目で私が3代目です」

と言うのは、森下よし枝さん。2代目であるご主人が亡くなったのは2010年。以来、厨房(ちゅうぼう)をひとりでこなしています。

 お昼時は行列ができるほどの人気店です。お客さんの多くが注文するのは、表に書かれているサービスメニューです。フロアの女性がきびきびと注文を取っています。

 食品サンプルの棚がありましたが、今ではほとんど置かれていません。ご夫婦時代からのメニューを今はやっていないからです。

やめたメニューも、増やしたメニューも

 ご主人の時代に比べると、メニューはずいぶん絞り込んだそうです。やめてしまったメニューのひとつがギョーザだそうですね。

「ギョーザはラーメンと同時に出したいのですが、ひとりでやっているとそれができないので、やめてしまいました」

と森下さん。逆に3代目になって増えたメニューってあるんですか?

「あります、豚汁です」

 こちらの定食にはデフォルトで温玉と豚汁が付いてきます。豚汁はミニラーメンかミニワンタンに変更できますが、できれば具だくさんの豚汁にしたいところです。家庭料理の豚汁がおいしい町中華って珍しいのではないでしょうか。

新宿区榎町にある老舗町中華「五芳斉」(画像:下関マグロ)



 どのメニューもおいしいのですが、筆者のおすすめはワンタンメンです。ギョーザはやめてしまったのですが、ワンタンは続けているんですね。

「はい、主人がいるときから、ワンタンは巻いています」

えっ、ワンタンは“巻く”と言うのですね、“包む”じゃなくて。

「ええ、ウチではずっと巻くと言っていますね。ワンタンはゆでるだけなのでタンメンやもやしそばなんかよりも楽なんですよ」

 ずっと、サービスメニューになっていますね。普通なら700円ですが、サービスメニューで580円。

「ええ、一度サービスメニューにしたら、人気が出ちゃって、もう戻せなくなっちゃたんですよ(笑)」

 それから、デラックスワンタンメンがいいですよね。これも通常は850円ですが、サービスメニューになっているので、680円ですね。では、デラックスワンタンメンをいただいてみましょう。

ワンタン、チャーシュー……これはデラックス!

 ワンタンメンの楽しさは、2種類の麺の食感を味わうことができる点でしょうか。五芳斉のワンタンは、具が多いタイプではなく、皮がちゅるんとしたタイプ。いくらでも食べられそうです。

 デラックスにするとチャーシューが増え、ゆで卵などがのっています。ぜいたくな気分になりますね。

 スープをいただいてみると、ああ、実にやさしいお味。分厚く切られたチャーシューも食べ応えがあっておいしいですねぇ。

「五芳斉」の3代目店主、森下よし枝さん(画像:下関マグロ)



 森下さんには娘さんがふたりいるそうですが、お店を継がせる気はないと言います。

「大変な仕事ですからね。たぶん、主人も継がせたくはないと思っているのではないでしょうか」

 なるほど、この味は3代目までということですね。ぜひ元気で、できるだけ長く営業してほしいものです。

関連記事