初売りにも影響? 東京で「行列の並び方」が変わり始めている社会的背景

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初売りにも影響? 東京で「行列の並び方」が変わり始めている社会的背景

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日沖健

日沖コンサルティング事務所代表

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東京のあちこちで見かける行列。日沖コンサルティング事務所代表の日沖健さんがそんな行列を、応用数学の観点から解説します。

行列嫌いの大阪人

 東京都内を歩いていると、いたるところで目にするのが行列。ラーメン店、タピオカドリンク店、イベント、みどりの窓口などいろいろな場所で行列を目にします。

 年始は初詣・新春セールと、いつも以上に行列をする季節。行列について考えてみましょう。

込み合う行列のイメージ(画像:写真AC)



 先日、大阪から遊びに来た知人と一緒に、都内の洋食店に行きました。ランチは30分待ちが当たり前の人気店ですが、その日は運よく5分程度の待ち時間で入店できました。待ち時間がほぼなしで私は「ラッキー!」と思っていたところ、知人から「東京はどこに行っても行列だらけやな。“いらち”な大阪人には考えられへん」と言われました。5分待たされたことが不満だったようです。

「いらち」とは関西の方言。「せっかち」「気が短い」という意味で関西人、特に大阪人の性格を表すそうです。

 大阪人は自他共に認める「いらち」です。大阪駅近くの横断歩道には待ち時間表示付き信号があり、大阪人が「いらち」であるという評判を全国に広めました。インスタントラーメン、回転ずし、動く歩道、レトルト食品……など、「いらち」な大阪人に合った大阪発祥の時短製品・時短サービスがたくさんあります。

 大阪のユニバーサルスタジオ・ジャパン(USJ)では、人気アトラクションの待ち時間を短縮できる「エクスプレスパス」が販売されています。お金を出してでも待ち時間を短縮したいというのは、大阪人が行列嫌いであることを表しています。

東京人は行列を楽しむ?

 一方、東京人は行列をそれほど苦にしません。人が行列を我慢する・しないの分岐点は30分だそうですが、都内には30分以上の行列の人気店・人気イベントがたくさんあり、皆、不平を言わずに並んでいます。

 昔はよく、「いったいいつまで客を待たせるんだよ!」と怒号が飛び交うことがありましたが、最近は電車遅延などトラブルによる行列などを除き、めっきりに見かけなくなりました。

込み合う行列のイメージ(画像:写真AC)



 しかも、渋々我慢して並んでいるというより、行列を楽しんでいる様子です。友達と一緒に並んで、これから利用する店・イベントについて語り、スマホで情報をチェックし、期待を高めます。東京人にとって、行列に参加することは、店・イベントのサービスの重要なパーツになっているようです。

 では、行列が嫌いな大阪人と行列を苦にしない東京人(都道府県別では静岡人が最も待ち時間を苦にしないという調査結果があります)では、どちらが特殊でしょうか。

 意見が分かれるところですが、国際的に見ると、東京人がかなり特殊ではないかと思います。私の知る限り、海外ではよほど有名な観光施設はともかく、街中で行列を見かけることはあまりありません。

 香港ディズニーランドでは、もちろん行列ができていますが、東京ディズニーランドほどの長時間ではありません。また、行列で前に並んでいる人との間隔を50センチ空けると即座に割り込みされると言われるように、基本的に中国・香港の人は長時間並んで待つことが嫌いなようです。

川並びか、フォーク並びか

 理論展開に数学を使う応用数学に、「待ち行列」という研究テーマがあります。スーパーのレジ、銀行の現金自動預払機(ATM)、みどりの窓口、公衆トイレといった場所(サービスポイント)で発生する行列をいかに処理するか、という研究です。

 代表的な行列の並び方として、複数のサービスポイントごとに列を作る“川並び”と列をひとつにして、空いたサービスポイントに列の先頭の者が入る“フォーク並び”があります。どちらが優れているでしょうか。

“川並び”と“フォーク並び”の比較(画像:ULM編集部)



 ここで難しいのは、「優れている」の意味。公平性という点で優れているのは、明らかにフォーク並びです。川並びだとサービスに時間がかかる人とかからない人がいるので、並ぶ列によって待ち時間に大きな差が出て、不公平です。

 では、行列を処理する効率・スピードはどうでしょうか。サービスポイントの数が3つくらいまでなら、川並びもフォーク並びも大差ありません。しかし、サービスポイントが増えてくると、川並びの方が優れています。

 なぜなら、フォーク並びだと、列の先頭からサービスポイントまで歩いていく距離が川並びよりも長くなってしまうからです。

 都内の行列を見ると、以前は川並びが多かったのが、最近はコンビニなどでもフォーク並びが増えている印象です。お店側は、行列を効率的にさばくことよりも「客から文句を言われたくない」という心理が働いているのでしょう。

東京の日常は「世界の非日常」

 例えば東京でラーメン店を開店し、行列ができたら、店主は大事なお客さまを寒空の下で待たせてしまって申し訳ないとは考えず、むしろ「やったぜ、うちも行列店だ!」と大喜びします。客も待たされることに対して不満を言わず、むしろ「行列店で食べられてうれしい!」と行列を歓迎します。

 良い悪いは別にして、この東京では当たり前の風景は日本でも世界でも珍しいことなのです。

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