漫画『東京都北区赤羽』だけじゃわからない北区の魅力 壇蜜さんに伝えたい、「真骨頂」は上中里と西ヶ原だ

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漫画『東京都北区赤羽』だけじゃわからない北区の魅力 壇蜜さんに伝えたい、「真骨頂」は上中里と西ヶ原だ

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昼間たかし

ルポライター、著作家

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2019年、女優・壇蜜さんとの結婚で世間をどよめかせた漫画家の清野とおるさん。彼の作品で一躍有名になった地といえば北区赤羽ですが、「北区にはさらに奥深い場所もあるのです」と、ルポライターの昼間たかしさんがディープ北区へいざないます。

清野サンが壇蜜と結婚できた理由をプチ考察

 漫画家の清野とおるさんとタレントの壇蜜さんの結婚には日本中が驚きました。

清野とおるさんの代表作『東京都北区赤羽』(2019年12月23日、ULM編集部撮影)



 漫画『東京都北区赤羽』でこれまで地味だった北区の知名度を一気にあげてくれた清野さん。なるほどディープな街歩きをしていると美人と結婚できるのだと、勇気づけられた男性も多いのではないでしょうか。

 でも、ここで注意を。清野さんの作品が魅力的なのは実体験に基づいた描写にあります。決して歴史とか逸話とか蘊蓄(うんちく)とかを語っているわけではありません。これはけっこう重要なことです。

 最近、ディープな街歩きに興味を持っている女性というもの多いものです。そうした催しなどに出掛けると必ず現れるのは「俺は詳しい」系の人。だいたい蘊蓄を得意げに語り始めて「Twitterやってますか~」とフォロバを強要してきて30秒くらいで嫌われます。

 本当に詳しい人は、得意げに蘊蓄を語ったりはしないものです。あくまで魅力的なのは地に足のついた体験。それをかみ砕いて読者に届ける作品を描いている清野さんが壇蜜さんに惚れられたのは必然といえるでしょう。

赤羽以外もあってこその北区。まずは上中里へGO!

 さて、これを機会に「ちょっと北区に出掛けてみようか」と思っている人もいるかと思います。でも、北区の魅力的な土地は別に赤羽だけではありません。

 以前筆者が十条について書いたときにも触れましたが、観光客が増えすぎた赤羽はちょっと魅力に欠けているとも言えます。どうしても赤羽に出掛けたいなら、土日ではなく平日がオススメです。観光客も少なくて日常の赤羽を体験することができますから。

 そして赤羽だけでなく、ほかの地域も歩いてみないと北区の真の魅力はわかりません。十条のような繁華街を歩くのも楽しいですが、まず歩いて欲しいのは上中里の界隈(かいわい)です。

「界隈」とはいいますが、京浜東北線の上中里駅の魅力は「何もないこと」です。コンビニはありますし住宅もならんでいますが、本当にのどかなところです。とりわけ、東北本線と新幹線、京浜東北線などに挟まれたエリアは都会の中の真なるローカルエリア。喧噪が当たり前の大都会に、こんなエリアがあるのかと驚くのは確実です。

 特に地図を見ていると気になるのは、この地域の末端。地図上では新幹線と京浜東北線と湘南新宿ラインと東北本線と高崎線と宇都宮線とが三角形にエッジの効いた形で交わっているのがわかります。

鋭い三角地帯を形作る線路の数々。その端っこまで行ってみたい衝動に駆られる(画像:(C)Google)



 なんだか、さまざまな要素の詰まったパワースポットのようにも見える気になるスポットです。筆者も実際に行ってみたことがあるのですが、特に何もありません。ただ、日中でも人の少ない道路の上を高架が交錯して列車の走行音だけがしている様子は、なかなかわびさびがあっていいものです。

 さて、このあたりを歩いていると次にいくところはどこか。通例なら飛鳥山公園(北区王子)に行って、王子駅前のモノレールに乗るところですが。

 それで北区の魅力は感じられません。ぜひ一度訪れたいのは田端です。

それから田端駅、君はもっと胸を張るべきだ!

 田端の北部から尾久にかけては、北区と荒川区の境界がずっと続く地区です。

 このあたりを散策していると目につくのは、荒川区なのに「田端」という地名を冠したマンション。住所の上では完全に荒川区なのですが、北区の地名である田端による効果を狙ったマンション。

 都心部にマンションが増えるようになってからは、地域のイメージを考えてか近くにある別の地名や旧町名をつけて、駅チカであるとか、洗練されたイメージだとかを付けようとする事例があります。ところが田端という名前のついたマンションの中には、けっこうなビンテージ系もあります。

 つまり、この地域では荒川区なのに田端という地名をマンションにつけることが昭和の時代から定着していたということです。

 田端というのは非常に地味な駅です。かつて山手線随一のローカル駅であった大崎駅が再開発で激変してからは、山手線の地味な駅として不動の地位を築いています。

 しかし、例えそうであっても山手線の駅。それも京浜東北線と2路線が使える駅……その価値は極めて高いことがわかります。地味な北区の中にあって、田端はもっと誇ってよい場所なのだと再確認することができるでしょう。

「山手線の地味な駅」として不動の地位を築く田端。だからこそ穴場かもしれません(画像:写真AC)



 もうひとつ北区の魅力を教えてくれるスポットが「西ヶ原みんなの公園」(北区西ケ原)です。こちらの最寄り駅は都電荒川線の「西ヶ原四丁目停留所」。

 ほかに最寄り駅はありません。西ヶ原四丁目停留所の周辺には、そこそこお店もありますが、ともすればどこの地方都市に来たのかという雰囲気。都電だけではあまりに不便なのか、このあたりの住民は染井墓地を通り抜けて山手線の巣鴨駅を利用していたりもします。

西ヶ原の空の広さよ……ここは本当に23区か?

 さて「西ヶ原みんなの公園」は21世紀になって整備された新しい公園です。もともとここには東京外国語大学がありましたが、全面移転にともなって空いた土地を取得して北区が公園として整備しました。

 公園のほか老人ホームなどもあり面積は広いのですが、トップクラスの大学である東京外国語大学がよくもこんな限られた敷地にあったなと驚きます。

この大パノラマに23区内で出合えるとは。さすが北区(画像:(C)Google)



 この周辺の雰囲気は23区なのに完全に多摩です。筆者は先日ある取材で横浜線の八王子みなみ駅で降りたのですが、23区内なのにそれと同じような雰囲気があります。

 何しろ、空が広いのです。周辺も低層の住宅かマンションしかないので23区なのにビルに邪魔されることなく広い空をみることができます。公園では遊んでいる子どもたちも多いですし、都心でありながら豊かな環境で暮らせるまたとない地域ではないかと思います。

 ただ、23区なのに繁華街には遠い一種の孤島。コンビニですら決して多くはありませんので、一般的な都会の暮らしとは縁が切れるかもしれません。

 このように北区というのは、赤羽のような繁華街だけが魅力ではありません。なにもないローカル感の溢れる、本来の東京のようなものをじっくりと味わうことができる体験ゾーンでもあるのです。

 なお、もしも人を案内する場合には日比谷線で三ノ輪橋駅に行ってから都電荒川線で北区へ向かうというルートを推奨します。より「東京ってすごい」と思われるのは間違いないでしょう。

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