永田町に広がる、総理官邸という「異界」 参院選後にフリーランス記者が考える

「東京都千代田区永田町2丁目3番1号」に位置する総理官邸。「総理大臣の仕事場」である同館では、首相や官房長官の記者会見が日々行われています。それらの仕組みを通して、総理官邸という「異界」をフリーランスライターの小川裕夫さんがあぶり出します。


官邸は、「国家の頂点に立つ権力の館」

 2012年12月の衆議院選挙で政権を奪還して以降、安倍晋三首相がそのイスに座り続けています。

 安倍首相は公務を終えると、渋谷区富ヶ谷の私邸へと帰宅することも珍しくありません。しかし、歴代の内閣総理大臣が在任中に住まいとしたのは総理公邸で、すぐ横には仕事場となる総理官邸が隣接しています。

総理官邸前は、常に警察官が10人前後で警戒にあたっているため、物々しい雰囲気が漂う(画像:小川裕夫)



 総理公邸はプライベートを過ごす住居にあたるため、不特定多数の人たちが立ち入ることはありません。しかし、官邸は仕事場です。官邸職員や首相秘書官、衆参国会議員や陳情に訪れる知事、市長、外国からの賓客(ひんかく)、そして総理番として常駐する記者といった多くの関係者が官邸に出入りします。官邸は、国家の頂点に立つ権力の館でもあります。

 官邸の正確な住所は、「東京都千代田区永田町2丁目3番1号」。最寄駅は、東京メトロ丸ノ内線・千代田線の国会議事堂前駅です。国会議事堂正面からアプローチすると、なだらかな坂道を上っていくことになります。金曜日夕方の風物詩になった、2011年の福島第一原発事故に端を発する官邸前デモは、この坂を上りきった地点、ちょうど官邸の目の前で実施されてきました。官邸を訪れる来客も、ここを通って官邸へと入館するのです。

 総理番の記者たちも同じように官邸へと入館しています。総理番の記者たちは大別して新聞社・通信社とテレビ局・ラジオ局に分かれますが、内閣記者会と呼ばれる記者クラブに加盟していることが必須条件になっています。

記者クラブの理念はいずこへ

 2009(平成21)年に民主党が政権交代を果たすまで、官邸内にある会見室で実施される総理大臣と官房長官の記者会見は内閣記者会に加盟していないと参加できませんでした。この頃はインターネットが報道機関として認められていなかったのです。

 今では影響力のあるニコニコ動画やライブドアニュースといったネット媒体は、官邸での記者会見に出席できず、総理大臣の声を国民が漏らさずに知ることは難しい状況にありました。2019年の現在から考えると隔世の感があります。

フリーランスの記者などは座席指定。内閣広報官は、記者の名前と座っている場所を把握済み(画像:小川裕夫)



 内閣記者会は会社単位ではなく、あくまでも記者単位で加盟します。同じテレビ局・新聞社に所属していても、内閣記者会に加盟していなければ官邸の会見に出席することは叶いません。内閣記者会は固く扉を閉ざし、決して扉を開けようとはしてきませんでした。

 それは、官邸内の記者たちで組織する内閣記者会だけに限った話ではありません。財務省や外務省、総務省、文部科学省といった各省庁にもそれぞれ記者クラブが存在し、記者クラブ外の記者は会見に参加できないのです。

 テレビなどで目にする大臣会見は、建前上、記者クラブが主催していることになっています。これは、大臣などの為政者が記者を選別することがないように――という報道の自由・ジャーナリズムの理念に基づくものですが、時代を経て、記者クラブそのものが理念に反する集団へと変質してしまいました。

 現在、ほとんどの省庁はネットやフリーランス記者に門戸を開放しましたが、いまだ防衛省は「会見場が狭い」といった理由から、記者クラブ外からの参加を認めません。その理念に沿えば、記者クラブは防衛省の態度を真っ先に糾弾しなければなりませんが、黙認しています。

情報は「知る権利」の土台

 一部で問題は残っているものの、政権交代で一気に記者会見のオープン化が進んだことは事実です。そして、記者会見のオープン化が実現したことで、一定の実績があるフリーランスにも記者会見参加への門戸が開かれるようになりました。固く閉ざされた官邸の扉の向こう側に、フリーランスが入ることができるようになったのです。

カメラ記者は、記者会見場に座るペン記者たちの後方が定位置。そのため、望遠レンズは必須(画像:小川裕夫)



 これだけだと、業界の内輪話で終わってしまいますが、知る権利の土台となる情報量が増えたことで、判断の選択肢が広がることは本来であれば国民にとっても喜ばしい出来事といえます。ただし官邸内での総理大臣と官房長官会見は、ほかの省庁で実施されている大臣会見と細部でルールが異なります。

 まず、なによりも大きなレギュレーションの違いは、官邸内での記者会見は参加申請時にペン記者かカメラ記者かを事前申告しなければなりません。ペン記者には席が用意され、会見中は挙手して質問することができます。しかし、ペン記者は写真撮影を禁じられているのです。一方、カメラ記者は写真や動画の撮影は認められているものの、質問はできません。

 記者会見のオープン化当初、私はペン記者として参加していました。しかし、10回以上参加しても、一度も指名されることはありませんでした。指名されなければ質問できません。質問できなければ参加している意味がないのです。そう考え、カメラ記者として再申請。改めて、カメラ記者として参加することにしました。

 こうして、総理大臣官邸で実施される記者会見に初めてフリーのカメラマンが参加することになりました。純粋なフリーカメラマンが初めて参加したのです。

 官邸という政治権力の中枢ながら、国民が容易に立ち入ることができなければ、その中を知ることもできません。21世紀の東京のど真ん中に、そんな空間がいまだ厳然と存在しているのです。


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