花はなぜ人を癒すのか?――根源的な問いから生まれた、唯一無二のボタニカルアクセサリーとは

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花はなぜ人を癒すのか?――根源的な問いから生まれた、唯一無二のボタニカルアクセサリーとは

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まるで生花のような風合いのボタニカルアクセサリーを展開するブランド「Kunie Katori(クニエ カトリ)」が、密かな人気を集めています。デザイナーを務めるのは、販売元の第一園芸で部長職も務める香取邦枝さん。小さなアイデアから始まったプロジェクトが実を結ぶまでのストーリーを訪ねました。

生花に触れているような手触り

 薄く柔らかいバラの花びらも、ユーカリの葉の硬さと弾力も、植物の手触りや風合いをそのまま生かして素材に使う「Kunie Katori(クニエ カトリ)」のボタニカルアクセサリーが今、密かな人気を集めています。

 デザインを担当するのは、花卉(かき)ギフト事業を展開する第一園芸(品川区勝島)の香取邦枝さん。実は、9店舗の管理運営を担う店舗事業部長でもあります。管理職兼デザイナーという異色の肩書きと、生きた草花そのものを身に着けているような繊細な商品の数々は、一体どのようにして誕生したのでしょうか。

香取さんがデザインしたピアスやイヤリングが並ぶ店頭の売り場(2019年11月28日、遠藤綾乃撮影)



 2019年11月28日(木)。東京ミッドタウン日比谷(千代田区有楽町)にあるフラワーショップ「ビアンカ バーネット」を訪ねると、色とりどりの切り花や鉢物に交じって、本物の草花(プリザーブドフラワーやドライフラワー)を使った愛らしいアクセサリーが並べられているのを見つけました。

 なかでも目を引くのは、「ITOSUGI」と名付けられた杉やユーカリを組み合わせたピアスに、「ROSE」という名の白バラやシャワーグラスを用いたイヤリング。これらは、上野の森美術館(台東区上野公園)で開催中の「ゴッホ展」とコラボレーションした限定作品で、ゴッホの名画「糸杉」や「薔薇(ばら)」をモチーフにしたものなのだそう。

 ほかにもアジサイやカスミソウなどを使った定番作品が20点以上販売されていました。

 第一園芸のオリジナルブランド「クニエ カトリ」が誕生したのは2018(平成30)年3月。前年の2017年にスタートした同社内の部門横断プロジェクトに香取さんが参加したことがきっかけでした。

結実した、小さなアイデア

 2018年に創業120周年を控えていた第一園芸は、社内でインターナルブランディング(自社の理念を社員にあらためて意識させるための取り組み)を2017年にスタートさせました。

 広報部にいた香取さんは事務局の一員としてこのプロジェクトに参加。新商品を企画する分科会に加わり、自身も「プリザーブドフラワーを使ったアクセサリーを展開する」というアイデアを提案したそうです。

 もともと趣味でアクセサリーを作ることがあったという香取さん。アイデアの元になったのは以前、社内でプリザーブドフラワーを扱う部門へ訪ねた際に、切り落とされて捨てられてしまう花のかけらが残っているのを見つけ、もらって帰った経験だったといいます。

「骨董市で買った視力検査用のメガネレンズをペンダントトップに見立ててプリザーブドフラワーと淡色パールを付けてみたら、けっこう様になって周りからも評判がよかったんです。そのときのことを思い出してプロジェクトで提案してみたら、あれよあれよと言ううちに商品化が決まって、18年3月の新店舗オープンに間に合うよう急いで準備を進めることになりました」

オリジナルのボタニカルアクセサリーをデザインする香取邦枝さん(2019年11月28日、遠藤綾乃撮影)



 商品化の決め手となったのは、同じような商品を展開している競合他社が見当たらなかったこと、また商品化に必要な素材がすでに社内にあるものだったこと、そして小さなアクセサリーは試作がしやすく小回りが利くことだったといいます。

 街で見かけるボタニカルアクセサリーは、素材の花びらや葉を保護用の分厚い樹脂で固めたものがほとんど。一方「クニエ カトリ」の商品は、樹脂を薄く丁寧に塗り重ねていくことで素材そのものの質感を保っているため、触れたときの手触りも楽しめるのが特長です。

「これほど柔らかい質感を保とうとすると、強度が足りなくて壊れてしまうことがあるので、商品化はなかなか難しいと思います。長年ドライフラワーやプリザーブドフラワーを扱ってきた社のノウハウや技術を生かせたことがカギになりました」(香取さん)

世界にひとつだけ、という特別感

 これまでに商品化したのは70点近く。パステル調が多い春夏向けと、深みのある色が特徴の秋冬向けと、現在は年2回、新作を発表しています。

 なかには素材となるプリザーブドフラワーが廃番となって、二度と生産できないものも。また、ひとつひとつ手作業で作っているため商品ごとに少しずつ表情が違い、「世界にひとつしかない」アクセサリーというところも女性たちに受けているのだといいます。

香取さんがデザインしたピアスやイヤリングが並ぶ店頭の売り場(2019年11月28日、遠藤綾乃撮影)



 商品化を目指す過程では、「なぜ花は人を魅了するのか」「花を身に着けることにはどのような意味があるのか」といった根源的な意味まであらためて問い直したのだそう。

「花って、部屋の中に飾ることはあっても身に着けることはこれまであまりなかったんです。例えばブローチとして胸に付けると、何かの式典の参加者のようでちょっと大げさになってしまう。でも『パーソナルスペースに花があること』は本来、自然の中で生きてきた人間にとって癒しになるもののはず。もっと気軽に身に着けられる花を、というのが私たちの目指した方向性でした」(香取さん)

 ブランドのコンセプトは、「自然をさらりと身につける」。普段着のなかに何気なく華を添える商品であるようにと、価格帯も数千円から1万円未満とアクセサリーとしては比較的安く設定しているそうです。

 取材後、白バラとアジサイのフープピアス(税抜7200円)をひとつ購入してみました。ゴッホ展とのコラボ商品として作られた「ROSE」。淡い白の花びらは触れればクニャリと柔らかく、風にカサカサ揺れる音を間近に聞くと、懐かしいような高揚するような、ほかのアクセサリーにはない不思議な気持ちが芽生えてくるのを感じました。

「クニエ カトリ」のアクセサリーは、「ビアンカ バーネット」店頭などで販売中。ゴッホ展とのコラボ商品は、会期中の2020年1月13日(月祝)まで上野の森美術館ミュージアムショップでも購入できます。

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