90年代~令和、目まぐるしく変化した「モテ服」30年史 でも唯一変わらなかったコトとは?
デートのとき、どんな服装をすべきか問題 たとえファッションにあまり興味がなくても、デートのときには相手の好みに合わせた服装に挑戦してみる、というのは、誰しも一度は経験があるのではないでしょうか。 もともとその系統の服装が好きならば問題ないのですが、普段着ている服と全く違うとなると、着こなしのルールが分からず混乱するものです。 その混乱やルールを分かりやすく解説するために、定期的に雑誌に掲載される「モテ服・デート服特集」。女性のみならず男性も、この「モテ服特集」に救われた人はどれほどいるでしょう。 そんな一般的に言われる「モテ服」のルールも、90年代以降のトレンドを追うと大きな進化がありました。今回は90年代からの2020年現在までの「モテ服」の変遷(へんせん)を振り返りたいと思います。 大人っぽさとセクシーさが交差する90年代 男子も女子も、高校生が高校生には見えないほど「大人っぽい」格好をしようと頑張っていた90年代半ばから後半。 やはり、この頃は安室ちゃん(歌手の安室奈美恵さん)とキムタク(元SMAPの木村拓哉さん)の2大カリスマの存在が若者に少なからぬ影響を及ぼしていました。 安室ちゃんのように女の子はセクシーで大人っぽく、男の子はキムタクのようワイルドでカッコよく……といった価値観が、当時多くの若者の定番。 女子の場合、ベロア素材やサテン素材のトップスやパンツスーツ、ミニスカートにロングブーツにハイブランドと、高校生にしてはなかなか強気な大人のセレクトです。 大人なデートスポットが東京に次々と登場大人なデートスポットが東京に次々と登場 後(のち)のモテ服・デート服で鉄板となる「白色を着て女の子らしくフワフワした……」といった要素はこの頃は微塵(みじん)もなく、かわいらしさよりもセクシーさ大人っぽさをアピールするのがこの時代の「モテ服」でした。 今振り返ると、普段は制服姿をはじめとする“女子高生ブランド”を最大限に生かしつつも、デート服やモテ服の私服には高校生に見られたくないという思いが垣間見え、大人っぽさやセクシーさを前面に打ち出しているというギャップが興味深く感じられます。 また90年代の東京は、数多くのデートスポットの名所がオープン。特に湾岸エリアが盛んになり高校生でも大人に混じって気軽に楽しめる夜景スポットやデートスポットが増えたことも、こうしたファッションが人気となった一因かもしれません。 現代も「映え」という言葉が生まれるくらいデートスポットは日々アップデートされていますが、この時代は今やド定番となった名所が“注目のニュースポット”として数多くオープンし、日々デートを楽しむネタに尽きなかったという時代背景もあったのでしょう。 「カワイイ」を受け入れるようになった00年代 あゆ、こと浜崎あゆみを筆頭にアーティストブームはもちろん、アイドルブームやモデルブームも再燃した2000年代。 この時代の一番の特徴は、女性たち自身が素直に「カワイイ」を受け入れられたことだと筆者は考えます。 雑誌『東京ストリートニュース!』1997年発売号(左)と、『CanCam』2006年12月号。10年の間に、「モテ服」のトレンドにも大きな変化が(画像:Tajimax、学習研究社、小学館) それまでどこか敬遠されてきた「女の子らしさ」「ぶりっ子」「カワイイ」が、ごく自然にポジティブに受け入れられていくという変化がこの時代には起こりました。 あゆのようなギャルファッションも当時まだまだ男女の支持は高かったものの、一方で大ヒットしたドラマ『やまとなでしこ』(2000年、フジテレビ系)の松島菜々子さんが演じた主人公・神野桜子のコンサバティブなファッションや、雑誌『CanCam』モデルのエビちゃん(蛯原友里さん)ブームもあり、それまでの「カッコイイ」路線から「カワイイ」方向へ、「モテ服」の指標も変化していきました。 「カッコイイ」と「カワイイ」の共通点「カッコイイ」と「カワイイ」の共通点 それまでの「黒」「ブラウン」を使用したカチッとした大人っぽいセクシーな装いに替わって流行した、「白」「キャメル」「パステルピンク」をふんだんに使用した装いは、それまで“我慢”していた女性たちの「カワイイ」欲をマグマのごとく噴き出させたように筆者は感じます。 白トップスにロングヘアの巻き髪、リボンやビジューが使われたトップス、ノースリーブニットや清楚なツイード素材、キャメル色など、一気に「カワイイ」方向へかじを振り切った時代でした。 この時代を改めて振り返ったときに面白いと感じるのは、本当はあまり好みでない「モテ服」を無理して着ていたのではなく、この時代の「モテ服」的要素が当時の流行そのものとイコールであり、女性たちの価値観とイコールでもあったというところです。 人気だったアパレルブランドや当時の『CanCam』から垣間見えるのは、「モテ服」という男性からの評価を意識させるワードを使用しつつも、なんだかんだ一番自分が着たい装いを着ているように見える多幸感。 この00年代のほんわかとした多幸感は一見、外見と内面における価値基準の一致という変化が起きたように感じられますが、とはいえ90年代も、無理をして男性の好みに合わせた「セクシー」「大人っぽい」装いをしていたわけでは決してありません。 90年代半ば~後半はアーティスト・モデルブームもあり、「カワイイ」よりも「クールでカッコイイ」「セクシーで大人っぽい」が女性たち自身の指標でもありました。 1997年の雑誌『東京ストリートニュース!』。「キレイめ」「オトナっぽく」といったワードが並ぶ(画像:Tajimax、学習研究社) 当時の雑誌『東京ストリートニュース!』のデート服特集をよく見ると、デート服で男子が指名するのは、女子のカリスマだった安室ちゃんのようなセクシーな服装だったり、朋ちゃんこと華原朋美さんのような大人っぽいパンツスーツといった、女子にとってまさに「旬」な服装です。 00年代からの「カワイイ」ブームでも思うことですが、そのとき女の子があこがれる「旬」な女性の装いを男性も意識している点はとても興味深い点です。 より細分化され深化する現代の「カワイイ」より細分化され深化する現代の「カワイイ」 2000年代以降の「カワイイ」ブームは、年々パワーアップして令和の現在も続いてますが、令和に入り特に感じる新たな変化は、モテ服が「よりマニアックに追求されている」というところです。 マニアックとは、より細分化され、深化していっている、といった意味。 近年のパーソナルカラー診断や骨格診断ブーム、人気Youtuberの動画配信などが定着し、それまでのファッション雑誌が示してきたその時代の「モテ服」のルールから、自分にとっての「似合う最適なモテ服」が綿密にセレクトできる時代になったというのが現代ならではの特徴です。 筆者の場合、パーソナルカラーはイエローベースのオータムで、骨格タイプはストレート。肩幅が嫌になるくらいがっちりしているのですが、この場合、従来の「モテ服」にあったようなパステルカラーやアンサンブルといった定番のコンサバティブなファッションは残念ながら似合いません。 平成の「モテ服」が似合わず苦しんでいた理由が今になってようやく分かり、十数年越しに当時の悩みがスパッと解決したわけです。 ファッションにおいて流行らしい流行がないと言われる近年でも、田中みな実さんのような服装や乃木坂46などのアイドルっぽい服装、ファッションセンスで注目を集めるセクシー女優やキャバ嬢の私服など、人気のファッションアイコンはさまざまに存在します。 2020年の秋冬コレクションを着こなす田中みな実さん。女性からの人気も高いのが彼女の特徴(画像:Vis、ジュン) どれも一見、男性陣の支持が高いもののように見えますが、実は女性支持も圧倒的に高いのです。 婚活本のマニュアルに記載されているような、男性が好むとされる女性のステレオタイプな服装というのは、実際はあまり参考にされておらず、女子には女子が好む「カワイイ」の指標がちゃんとあって、それぞれ研究を重ねてその目標に向かって日々アップデートしている印象です。 自分の「好き」こそが「モテ服」最重要基準自分の「好き」こそが「モテ服」最重要基準 もはや現代の「モテ服」の概念は、男性のみならず女性からもモテないと「モテ服」というポジションにはなり得ないのではという気さえします。 自分自身の好きを基準にした「カワイイ」の追求は、他者の評価を気にした追求よりも楽しく充実したものでありそうです。 そう思うと結局のところ、「モテ服」というのはあるようでないもののように筆者は思います。 「モテ服」という言葉はこの世にあれど、言い変えれば「自分が一番カワイイと思う服」「自分の気分が盛り上がる服」こそが着る本人を最も輝かせ、いつの時代も最強の「モテ服」たり得るのかもしれません。
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