二度と同じ模様が作れない 麻布十番の万華鏡専門店、創業24年で「見た」ものは

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二度と同じ模様が作れない 麻布十番の万華鏡専門店、創業24年で「見た」ものは

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アーバンライフ東京編集部

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1994(平成6)年に日本初の万華鏡専門店としてオープンした、麻布十番の「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」は万華鏡を販売する一方、「見る」ことに強くこだわっているお店です。

「しっかり見る」ことの力から得たもの

 仕事や子育てなどで慌ただしく過ぎていく現代女性の毎日。目の前のことに振り回されるあまり、ひとつの物事に対して集中する機会は、自然と少なくなりがちです。そんななか、「見る」という行為を通して、自身の未来を見つけた女性がいます。

アンティーク調で統一された「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」の店内(2018年8月16日、國吉真樹撮影)



「(昭和)63年の冬に(娘の)貴紀は生まれた。授乳1日目、赤ん坊を胸に抱きながら涙があとからあとから流れ出て止まらない。ただ見つめているだけで涙があふれ出してくる。(中略)このとき以来『しっかり見る』と言う行為がもたらす力の可能性を知ることになるのである」(いけばな専門誌「華道」1999年4月号)

 この文章を書いたのは、荒木路(みち)さん。荒木さんは「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」(港区麻布十番)の代表で、前身となるカフェ「昔館」時代から数えて約35年間、麻布十番を見続けてきました。

荒木さんが連載を持っていたいけばな専門誌「華道」のバックナンバー(2018年8月16日、國吉真樹撮影)
現在のお店の前身となるカフェ「昔館」のマッチ。芸能人からコピーライターまで、著名人がしばしば訪れたという(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 荒木さんは当時を振り返ってこう話します。

「娘が生まれて少し成長したときにも、『しっかり見る』ことの力を感じたんです。子どもって目線が低いじゃないですか。娘と遊ぶとき、同じように目線を低くして床や地面を直視すると、ノミやアリなど、普段目にしないものが見えてくるわけです。

 小さいものが目の前に迫って見えてくる感じというか、普段とは違う世界なんですね。『しっかり見る』って、こういうことかって改めて感じたわけです」(荒木さん)

店内で笑顔を見せる荒木路さん。24歳から28歳まで、テレビCMや映画などに出演する女優だった(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 ちょうどそのころ、テレビ番組でニューヨークの万華鏡販売店を知った荒木さん。これまで抱えていた思いと、筒のなかを「しっかり見る」ことで楽しむ万華鏡の存在が、その時につながったといいます。

 さっそく、アメリカとのビジネスに詳しい友人男性に、段ボール50箱分の万華鏡を買い付けてもらいました。「しっかり見る」行為は、荒木さん自身の未来を指し示していたのです。

アメリカから届き始めた万華鏡を並べていた、1994年9月頃の店内の様子(画像:万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館)
オープン当初の外観。デザインは、当時同じアパートの住人だった現代美術家・日比野克彦さんが監修した(画像:万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館)

 1994(平成6)年に日本初の万華鏡専門店としてオープンした「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」。現在では、10坪の店内に、海外アーティストや日本人アーティストの作品、同店のオリジナル作品など計約300種類の万華鏡を取りそろえています。

 価格帯は1500円から数百万円までと幅広く、来店客の6割は女性です。同店では作品を販売するだけでなく、万華鏡作りのワークショップや、企業を対象にした万華鏡に関するさまざまなコンサルティングを手掛けています。

 店舗のある麻布十番は、世界的な人気を誇るアニメ「セーラームーン」の聖地として知られており、2017年には出演キャラクターのコスプレをしたオーストラリア人が来店したこともあるとか。

 また、同店のSNSを見た人が来店するなど、「かつては40代以降がメインだった」(荒木さん)客層は近年少しずつ変化し、若者の割合が増えているといいます。

多種多様な万華鏡の世界、オイルの入った製品も

 ここで「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されている万華鏡をご紹介します。

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されている「テレイドスコープ」(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 まずは、覗いた光景を万華鏡模様に変える「テレイドスコープ」です。

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されている「ワンドスコープ」(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 続いて、透明な棒(ワンド)のなかに入ったガラスビーズが液体のなかを流れる様子を楽しむ「ワンドスコープ」です。「ドライワンド」と「オイルワンド」(容器のなかをオイルで満たしたもの。オブジェクト(対象物)のゆっくりとした動きが特徴)の2種類があります。

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されている「ドライチェンバースコープ」(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 これは、筒の中のオブジェクトがさまざまな動きを見せる「ドライチェンバースコープ」。40年以上前にハンドメイドされた西ドイツ製のガラスを使用。ワンドスコープ同様、「ドライチェンバースコープ」と「オイルチェンバースコープ」の2タイプがあります。

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されている「マーブルスコープ」(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 先端に取り付けられたマーブル(ガラス球)を回して見る「マーブルスコープ」は、360度自在に動かせるマーブルの模様を楽しむ一品。マーブルを交換することで、異なった模様を楽しめます。

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されている「ドラムホイール」(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

「ドラムホイールスコープ」は、さまざまな色のガラスが埋め込まれた先端のドラムセルを、指先で回転させながら楽しむ万華鏡です。

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されている「オルゴールスコープ」(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 箱の側面にオルゴール付いた「オルゴールスコープ」。ゼンマイを回して音楽が流しながら、スイッチを入れて明かりを点灯させて楽しむ万華鏡です。

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されている変わり種の万華鏡(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 エルク(シカ科)の角を使ったものや、飛べない鳥・エミューの卵を使った変わり種商品のほか、さまざまな万華鏡がところ狭しとディスプレイされています。

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されているさまざまな万華鏡(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

「本当にこれが万華鏡?」と疑いたくなるような万華鏡もたくさんあります。

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で販売されている、ユニークな形の万華鏡(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 さまざまなタイプの万華鏡を見るほどに、これまで持っていた先入観が覆されていきます。

「万華鏡は一度回すと、二度と同じ模様が現れない『非日常』の空間なんです」(荒木さん)

東日本大震災によって気づかされたこと

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」には、もうひとりキーパーソンがいます。店長の石原達也さんです。デザインを学んでいた大学生時代、カフェ「昔館」でアルバイトをしていた石原さん。その縁もあって、オープン当時から「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」で働いています。

「ドライチェンバースコープ」を覗く石原さん(2018年8月16日、國吉真樹撮影)



 石原さんには持論があります。

「万華鏡をひと言で表すと『想像するもの』。小さな覗き穴のなかに広がる、誰にも邪魔されることのない世界。そのなかで過去を思い出したり、未来を描いたり、さまざまなものに対して思いを馳せることができます」

万華鏡の歴史や文化などについて説明する石原さん(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 そんな石原さんが20年近く万華鏡に携わっていて、気づかされたことがあるといいます。それは「癒し」としての万華鏡です。

「2011年に東日本大震災が発生した後、お客さんから『万華鏡は癒しだ』という声をよく聞くようになりました。私のなかではあくまでも『想像するもの』でしたが、お客さんからそのような言葉が出たということは、『癒し』としての要素も強いのではないか? と感じるようになりました。万華鏡業界に長年身を置いているつもりでしたが、お客さんから新たな価値を教えられたんですよ」

「万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館」の外観(2018年8月16日、國吉真樹撮影)

 そう言うと、お店のレジで作業を始めた石原さん。その様子を見ていると、10秒ほどしたのち顔を上げてこう言いました。

「同じ模様が出てこない、新しい模様が絶え間なく出る。ひょっとしたら万華鏡というのは、人間の人生そのものかも知れませんね」

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新しい模様が絶え間なく現れる万華鏡(画像:万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館)

 万華鏡は人生そのもの――。それは万華鏡を「しっかり見る」ことに力を費やしてきた人たちがたどり着いた「結論」なのかも知れません。

●万華鏡専門店 カレイドスコープ昔館
・住所:東京都港区麻布十番2丁目13-8
・交通アクセス:南北線麻布十番駅から徒歩3分
・電話番号:03-3453-4415
・営業時間:11:30~20:00(平日)、11:00~18:00(日曜・祝日)
・定休日:火曜

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