花粉症ゼロ・無電柱化――小池都知事の卓抜した「ネーミングセンス」が東京を変えた 良くも悪くも

2016年東京都知事選挙で当選した小池百合子都知事。「無電柱化」「花粉症ゼロ」などキャッチーな言葉を使って、自身の公約を打ち出したことでも知られます。そんな小池知事の持つ「ネーミングセンス」とその実際について、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。


それまでの政治家にはなかった資質

 舛添要一都知事の辞職によって、2016年に都知事選が実施されました。激戦を制して当選したのは、衆議院議員を辞職して出馬した小池百合子都知事です。それから、3年。小池都知事の任期は、残すところ1年を切りました。来年の今頃、小池都政は2期目に入っているか、もしくは新しい都知事が誕生していることになります。

定例記者会見に臨む小池百合子都知事(画像:小川裕夫)



 小池都知事が選挙戦で掲げた公約はいくつかあります。その中で、特に世間からの耳目を集めた政策が「無電柱化」と「花粉症ゼロ」でした。

 電柱を地中に埋めることで景観をよくする、地震などの災害時に倒壊するリスクをなくすといった理由から小池都知事は無電柱化の効用をPRし、都知事に就任してからは肝いり政策として積極的に推進しています。

 小池都政から始まったように思われている無電柱化ですが、実は小池都知事が就任するはるか前、鈴木俊一都知事時代から東京都は取り組んでいました。決して、小池都知事発案のオリジナル政策ではありません。

 電柱を地中に埋設する工事は通常よりも費用も莫大かかるうえ、工事期間も長期になります。そうした理由から、一気に進めることができませんでした。そのため、鈴木都政から始められていた電柱の埋設工事は都民に気がつかれないほど進捗スピードは遅く、目立たなかったのです。

 衆議院議員時代から、小池都知事は電柱の地中埋設化を訴えていました。都知事に就任してからは、電柱の地中埋設化のスピードを上げました。そうした政策スピードを上げたという点は大きな功績といえます。

 また、小池都知事は同政策を「無電柱化」と言い換えました。これにより、電柱の埋設工事は都民の耳にも届くようになり、広く認識されるようになったのです。

 電柱の埋設工事を無電柱化と言い換えた小池都知事のネーミングセンスは、それまでの政治家にはなかった資質です。

「花粉症ゼロ」は、林業政策の失敗が出発点

「花粉症ゼロ」も同様です。

スギから花粉が飛ぶイメージ(画像:写真AC)



 例年2月頃から飛び始めるスギ花粉による花粉症は、都民のみならず多くの国民が罹患します。花粉症はもはや、国民病といっても過言ではないレベルです。

 花粉症を引き起こすスギは、昭和20年~30年にかけて全国各地で盛んに植林されました。これは、戦災復興で住宅用建材が大量に不足していたからです。しかし、スギが住宅用建材として使用できるまで成長するには約30年の歳月がかかります。

 その間、日本政府は外材を輸入することで木材を調達しました。安価に輸入された外材は、林業従事者を圧迫。昭和30年代まで活況を呈していた林業は、昭和40年代から衰退を始めます。

 林業が衰退していく現象は、東京都で顕著に現れています。

 東京都は人口が多いゆえに、戦災復興でも大量の住宅用建材が必要でした。それらを賄うため、多摩山林に大量のスギが植林されています。

 多摩山林のスギは、植林から50年以上が経過。従来なら住宅用建材に適した大さに生育しており、伐採されているはずです。しかし、外材に押されて国産材の需要は低く、また林業従者の高齢化や減少もあって多摩山林は伐採されないまま放置されました。こうして、多摩山林のスギは単に都民を苦しめる存在になったのです。

進む無花粉スギへの植え替え

 究極的なことをいえば、スギをすべて伐採すれば花粉症は一気に解決します。しかし、そう簡単に伐採することはできない事情があります。

 山林の木を伐採すると土砂崩れを引き起こす原因になり、その被害は甚大です。また、多摩山林には水源涵養(雨水を地面に吸収して水源を保ちながら、川の水量を調節すること)という役割もあります。そのため、むやみにスギを伐採するわけにもいきません。間伐・伐採は計画的に進めなければならないのです。

 農林水産省や林野庁は研究を重ねて、花粉が飛散しない無花粉スギの開発に成功しました。現在、多摩山林のみならず全国各地で無花粉スギへの植え替えが進められています。花粉症に悩まされる人たちにとって朗報ではありますが、これも一気に進めるわけにはいきません。少しずつ植え替えていくしかないのです。

 小池都知事の「花粉症ゼロ」は、林業政策の失敗が出発点です。しかし、これも小池都知事のオリジナル政策ではありません。

理論上、「花粉症ゼロ」は不可能

 東京都が花粉症対策に乗り出したのは、石原都政まで遡ります。その理由は、石原都知事が花粉症に罹患し、花粉症のつらさを実感したことでした。

都知事選で、衆議院議員だった若狭勝(左)さんとアルピニストの野口健さん(中央)の応援を受ける小池百合子候補(画像:小川裕夫)



 東京都は“花粉の少ない森づくり”と銘打ち、花粉症対策として多摩山林に植えられたスギを無花粉スギへと植え替える事業を推進しました。小池都知事は同政策を継承したに過ぎません。それでも、“花粉の少ない森づくり”を「花粉症ゼロ」と言い換えたことで、都民のみならず全国民が注目するほどの話題を集めました。

 花粉症はスギ花粉による症状が多くを占めますが、ヒノキやシラカバでも花粉症を引き起こします。そのため、すべてを無花粉スギに植え替えても花粉症を撲滅することはできません。理論上、「花粉症ゼロ」は不可能な話です。

「花粉症ゼロ」は、あくまでも政策の方向性を示すキャッチフレーズでしかありません。そのため、訴求力優先・わかりやすさ重視という面が濃くにじみ出ていることは否定しません。

 それでも、「花粉症ゼロ」というキャッチフレーズを生み出した小池都知事には卓抜したネーミングセンスがあるといえるでしょう。

 小池都知事が掲げた「花粉症ゼロ」によって、都民・国民が花粉症について考える一助になったことでしょう。

「花粉症ゼロ」は、単に花粉症を撲滅するという政策ではありません。その先には日本が抱える、東京都が直面する林業の問題があるのです。


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