ついに1000円を超えた都内の最低賃金 人件費高騰は「地獄の片道切符」か、日本復活への起爆剤か

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ついに1000円を超えた都内の最低賃金 人件費高騰は「地獄の片道切符」か、日本復活への起爆剤か

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日沖健

日沖コンサルティング事務所代表

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10月から1000円を超え、1013円となった都内の最低賃金。そのもたらす効果について、日沖コンサルティング事務所代表の日沖健さんが解説します。

東京都の最低賃金は突出

 東京都内の最低賃金が10月から前年比2.84%引き上げられて1013円となり、史上初めて1000円を突破しました。人手不足を受け、今後も最低賃金の引き上げが続くと予想されます。最低賃金の引き上げは、暮らしや社会にどういう影響をもたらすのでしょうか。

東京都内のイメージ(画像:写真AC)



 まず最低賃金制度とは、最低賃金法という法律に基づき国が賃金の最低限度を定め、企業など使用者は、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならないとする制度です。法律なので、違反した使用者には罰則が課されます。

 地域の労働市場の実態に合わせて都道府県単位で時間当たりの最低賃金が設定され、毎年改定・公表されています。2019年10月の改定で、東京は全国一高い1013円。東京に次いで高いのは神奈川県の1011円。逆に最低は青森・沖縄など15県の790円。全国平均は901円です。同じ日本でも、最高の東京は最低と比べて28.2%、全国平均と比べて12.4%高く、東京の高賃金が突出しています。

パート・アルバイトの働く時間が減る

 最低賃金の上昇で影響を受けるのは、どういうタイプの働き手でしょうか。

 正社員の給料は、最低賃金よりもはるかに高いので、最低賃金の引き上げで直接の影響が及ぶのは、最低賃金に近い低賃金で働くパート・アルバイトです。最低賃金が上がればパート・アルバイトにとってハッピーだと思われるかもしれませんが、そうとは限りせん。

 日本では年収103万円を超えると所得税の支払い義務が、年収130万円を超えると社会保険料の支払い義務が発生します。そのためパートタイマーはよく、これらの基準を超えないように労働時間を調整します。時給が上がってもこの基準は変わらないので、さらに労働時間を減らさなくてはいけません。

 12月が近づき、企業の人事部門には「今年はあと何日働けますか?」という主婦パートからの問い合わせが届いているそうです。

外国人に雇用がシフトする

 それ以外の一般的なパート・アルバイトにとって、今回の最低賃金の引き上げは、基本的には朗報です。しかし場合によっては、マイナスに働くかもしれません。

東京都内のイメージ(画像:写真AC)



 最低賃金制度は、日本人だけでなく日本で働く外国人にも適用されます。ただ、外国人留学生や外国人技能実習生の雇用には抜け道や違法行為が横行しており、賃金は低水準です。法務省の調査によると、外国人技能実習生の実に7割近くが最低賃金未満で働いています。最低賃金の引き上げを受けて、人件費アップで苦しむ企業は、低賃金の外国人留学生や外国人技能実習生の雇用をますます増やすことでしょう。

 つまり日本人のパート・アルバイトは、外国人留学生や外国人技能実習生に取って替わられます。最低賃金の引き上げは、パート・アルバイトの雇用を脅かす可能性があるのです。

営業時間の短縮と無人化が広がる

 最低賃金の引き上げは、パート・アルバイトをたくさん雇用している飲食業・小売業などの姿を大きく変えるかもしれません。

 まず企業は、低賃金の外国人留学生や外国人技能実習生の雇用を増やします。ただ、「外国人技能実習生は実質的に人身売買だ」という国際的な批判が高まっており、現在の制度がそのまま長く続くことはないでしょう。将来、低賃金の外国人労働者に頼れなくなったら、企業が取るべき対策はふたつです。

 ひとつは、事業活動の縮小です。すでに人手不足で深夜営業を取りやめる小売店・飲食店が増えています。こうした動きが、最低賃金の引き上げで今後さらに広がることでしょう。もうひとつは、人を使わない経営です。コンビニの無人店舗やスーパーの無人レジが出始めています。今後、小売業だけでなくさまざまな業種で、無人化が加速することでしょう。

 最低賃金の引き上げで、小売店・飲食店を中心に東京の風景は大きく変わりそうです。

最低賃金の引き上げは日本経済復活の起爆剤

 最低賃金の引き上げは、日本経済にとって良いことでしょうか、悪いことでしょうか。

 韓国の文在寅(ムン・ジェイン)大統領は、最低賃金を2018年16.4%、2019年さらに10.9%も引き上げました。その結果、韓国では人件費の高騰で倒産する中小企業が続出し、失業率は急上昇し、経済は危機的な状況に陥っています。

東京都内のイメージ(画像:写真AC)



 この事実から、日本でも「最低賃金を引き上げるべきではない」と主張する専門家が目立ちます。一方、イギリスのように、最低賃金を引き上げて経済が活性化した国もあります。

 功罪両面があり判断が難しいところですが、個人的には最低賃金の引き上げは良いことだと考えます。最低賃金を引き上げると、企業は業務の自動化・合理化を進めるので、生産性が上がります。低賃金に頼って何とか生き延びてきた限界的な企業が淘汰され、残った企業は付加価値の高い事業を目指すようになります。結果として、日本は豊かになります。

 一時的に失業や倒産が増えて社会が混乱するものの、最低賃金の引き上げは日本経済を甦らせる起爆剤になることでしょう。

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