急成長の傘シェアリング、24歳の若き社長を支える「おおらかな国際感覚」とは
大学を中退して起業 近頃、マスコミでもよく取り上げられている雨傘のシェアリングサービス「アイカサ」。東京と福岡で展開されており、見聞きしたことのある人も多いと思います。 サービス内容は、街中に設置されシェアリング用スポットで傘をレンタルでき、好きなスポットに返せるという仕組み。都内では現在、渋谷、上野、品川を中心に100か所にスポットが設置されています。 現在、都内でさまざまなシェアリング事業が展開されていますが、傘のシェアリングサービスは日本初。運営するNature Innovation Group(渋谷区渋谷)の代表取締役、丸川照司(しょうじ)さんに話を聞きにオフィスを訪れました。 Nature Innovation Group代表取締役の丸川照司さん(2019年6月、宮崎佳代子撮影) 同社は現在、渋谷でシェアリングオフィスを利用しています。机と机の間にゆったりとスペースをとった広々としたオフィスの一角で、丸川さんはパソコンに向かっていました。第一印象は「若い」ということ。現在24歳で、アイカサを始めるために大学を3年の時に中退したそうです。 「傘のシェアリングをやろうと思った時に、これ以上、大学を続けても何かが大きく変わることのない時代だと考え、中退して起業することを選びました」(丸川さん) 起業メンバーは、友人ひとりと、クラウドファウンディングのサイトで傘のシェアリングをやろうとしている人を偶然に見つけ、声がけして3人でのスタート。まず、10年ほど前に行われていた「シブカサ」の提携店への聞き込みから開始したそうです。シブカサとは、学生の有志グループが渋谷でビニール傘を回収し、デザインに手を加えて提携店で無料レンタル傘として貸し出すというサービス。その利用状況などを調べて回ったそうです。 そしてベンチャーキャピタルなどからの出資調達を得て2018年12月から同サービスを開始。東京と福岡合わせて50か所のスポット設置からスタートし、半年で200か所に増えました。当初用意したシェアリング用の傘の本数も、1000本から5000本(ストック分含む)までに増加。そのうち、東京に設置しているのは3000本だそうです。 傘はビニール傘ではなく、傘骨や生地のしっかりしたものを特注。使用する傘に貼り付けられたQRコードを、アイカサのアプリで読み取ると暗証番号が送られてきます。その番号を傘の柄に取り付けられた暗証ロックに合わせると、ロックが解除されて傘を開けるようになっています。 丸川さんがこの事業を始めた発端は、「中国」にあったそうです。 ビニール傘の購入額は400億円、「ニッチといえ魅力的でした」ビニール傘の購入額は400億円、「ニッチといえ魅力的でした」 丸川さんが傘のシェアリングに目をつけたのは、中国で同サービスが行われているのを知ったことから。日本の状況を調べたところ、まだどこも行っていないとわかりました。しかも調査によると、ビニール傘の年間購入額は全国で約400億円。 大崎にあるコンビニに設置されたアイカサのスポット(画像:Nature Innovation Group)「ニッチな市場とはいえ、この規模感は魅力的なものでした。都内でも年に約2000万本ものビニール傘が購入され、その多くが短い期間で使い捨てられています。傘のシェアリングはその無駄をなくす上に、傘を持ち歩かなくていいという人々の生活を便利にするもので、不可欠性も高いことに事業性を見出しました」 傘のレンタルは1回70円で、ラインのアプリを使用します。課金上限を月420円をとしていて、それ以上は使い放題。返却までに時間がかかったり、レンタル回数が増えることで、ビニール傘を買った方が結果的に安くついたということを避けるために、この金額を上限に設定したそうです。 現在、都内でスポット設置のオファーが絶えず、毎日大忙し。スタッフはアルバイトを含めて13人に増えました。次なる目標は、オフィスを持つことかと思いきや、「あまりその必要性を感じてないので、当面は今のままでいいと思ってます」とあっさり。 目下の目標は、東京オリパラまでにシェアリングサービスのスポットを全国に1000か所設置、傘の本数を3万本に増やすこと。その先には、ビニール傘の使用者をゼロに近づけることを見据えているといいます。今後、競合がでてくる可能性について聞くと、「あると思いますが、気にしていません」とこちらもあっさり即答。 記者の言葉に敏感に反応し、すぐにネット検索する好奇心の旺盛さを持ちながら、どこかあっけらかんとしたおおらかさを持ち合わせている丸川さん。台湾人と日本人の血を引き、6割が日本、4割がシンガポールなど東南アジアでの育ち。大学はマレーシアに進学したことなどを聞き、そのおおらかさは国際感覚からくるものと感じました。 これからの時代、「仕事」に求められることとは?これからの時代、「仕事」に求められることとは? アイカサの使用者は20〜30代が圧倒的多数だそうです。「ラインでアプリをダウンロード」と聞くと使いこなせるか不安に思う中高年者もいるかもしれませんが、とてもシンプルでわかりやすくなっていました。 傘が使用できるスポットを探す時、「スポットを確認」の項目にタッチすると、現在自分がいる位置とその周辺の傘シェアリングのスポットが表示されます。返す時は、「傘を借りる/返す」の項目にタッチして、スポットについているQRコードを読み込み、返しておしまい。記者もアプリをダウンロードして登録し、やってみると、極めて簡単でした。 アイカサのアプリ。傘はアプリを使って暗証ロックが解除されることで開く。現在地をもとに最寄りのスポットを表示してくれる(画像:Nature Innovation Group)「今、いろんなシェアリングの事業があるので、そういった人たちと提携することでさらなる独自性を生み出し、利用者のメリットを広げることで日本全国で傘のシェアリングを定着させたいですね」。そう話ながら目をキラキラさせる丸川さんにとって、「仕事」とはどういうものなのか訊きました。 「便利な環境を用意すること、世の中を便利にすることです。ビニール傘のメリットは本当に少なくて、家にもオフィスにも溜まってる、業者も処分に困ってる。構造的にリサイクルも難しいので、いかにリサイクルするかを考える以前に、1本の傘を皆で使う方が多くの人たちにメリットを生みます。無駄な消費を減らすことでメリットを生むモデルが、私にとって仕事に大切な要素です」 今、平均的な労働時間は1日12時間程度とのこと。大学生が就職先を選ぶ際に、休みの取りやすさを大きな要因とする人が多いことについての見解を尋ねました。 「好きなことであれば、『仕事』という感覚が薄れて、楽しめるものだと思います。まず会社自身が、人がやりたいような仕事を作ることが大切なのではないでしょうか。単純作業はこれからの時代、ロボットができることなので、人にはロボットにはできないような創造力が必要な仕事を与える。そうすることで、休みとかに関係なく、仕事をやりがいで選んで楽しんで働けるようになるのではないかと思います」 若さゆえのバイタリティーや、新時代のリーダーにふさわしいしなやかさ、国際感覚を併せ持つことを知り、アイカサの今後の進化と展開が楽しみになりました。東京は今、梅雨の真っ只中。突然の雨に遭った時、ビニール傘を買う前にアイカサのサービススポットが近くにないか、ぜひチェックしてみてください。
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