鼓膜でなく「骨」を通して音を聞く「骨伝導イヤホン」 音楽鑑賞のメリットデメリット

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鼓膜でなく「骨」を通して音を聞く「骨伝導イヤホン」 音楽鑑賞のメリットデメリット

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鼓膜を介さずに耳近辺の骨を通して音を聞く「骨伝導イヤホン」。近年、音楽用製品の性能が進化し、注目が高まっています。骨伝導で音楽鑑賞をするメリットとデメリットを検証してみました。

最大のメリットは耳を塞がない「ながら聴き」

 人が音を感じるには、外耳で音を集め、鼓膜がその振動をキャッチし、中耳で増幅させ、内耳で電気信号に変換して音を脳に伝えます。そこに人の「技術力」が加わり、もうひとつの方法が生み出されました。外耳や中耳を介さずに、頭蓋骨や軟骨といった「骨」を通じて音の振動を内耳に届ける「骨伝導」です。

骨伝導イヤホンの使用イメージ(画像:BoCo)



 これは当初は、音が聴こえない、あるいは聴きづらい人々の補聴器として技術開発されてきました。しかし、17年ほど前から音楽鑑賞用にも製品開発され、近年性能が大幅に進化し、健聴者からも注目とニーズが高まっています。

 骨伝導イヤホンのメーカーは、海外製品ではAfterShokz(アフターショックス)、国内ではBoCo(ボコ。中央区八重洲)などがあります。

 BoCoはこの7月、世界初となる完全ワイヤレスの新製品開発にクラウドファンディングを活用。目標額を100万円に設定したところ、募集からわずか12時間で1000万円集まったことを発表しています。支援総額は6000万円を突破(9月15日現在)。その注目の高さが窺われます。

 同社の製品を使い、骨伝導で音楽を聞くメリットとデメリットを検証してみました。

 骨伝導イヤホン使用の最大のメリットに、イヤホンから流れてくる音楽と、他の音を同時に聞ける「ながら聴き」が挙げられます。耳をふさがないため、双方の音を同時に聞くことができるのです。この「ながら聴き」、どんなケースで役立つのでしょうか。いくつかの例を挙げます。

 会社で音楽を聴きながら仕事をしてもいい場合、あるいは何らかの録音を聞きながら仕事をする際、人から話かけられても聞こえない、といったことを防ぎます。

 地下鉄車内で使用してみると、音楽と同時に車内アナウンスもしっかりと聞きとれました。路上でも車が近づいてくる音や工事現場近くなど危険を知らせる音や声も聞こえるので、安全性につながると感じられました。

 旅先では、その土地ならではの生活音や、波音など自然が奏でる音を聞きながら音楽も楽しめ、旅情を一層高めてくれることも。小さな子供が寝ている時に音楽を聞いていても、目覚めた時の声や泣き声にすぐ気づいてあげられるのも安心です。

 実際に使ってみると、便利さ、安心安全性を色々発見します。

骨伝導とハイレゾ対応イヤホンで音を聞き比べてみた

 では、音質についてはどうでしょうか。骨伝導イヤホンとハイレゾ対応イヤホンで音楽を聞き比べてみました。

有線タイプの骨伝導イヤホン装着イメージ(画像:BoCo)



 これについては、高音質音源用に技術を駆使して作られたハイレゾ対応イヤホンの方が、ディテールや奥行きなど音質面で勝っています。記者が使用しているハイレゾ対応イヤホンと比べて、低音部の振動にも骨伝導イヤホンは物足りなさを感じました。音質の遜色は、使用製品によっても異なります。

 しかしながら、骨伝導イヤホンを初めて使ってみたとき、思った以上に高音から低音まで音の広がりを感じたのも事実。BoCoの製品は、再生周波数帯域4Hzから40000Hzの広帯域と音質を実現しています。ソニーのオーディオ事業部で開発・設計を行っていたメンバーが開発に携わっているそうです。ちなみに、発売中のソニーのハイレゾ対応のイヤホン(2万円代)においても、再生周波数帯域が4Hzから40000Hzの製品がありました。

 WHO(世界保健機関)とITU(国際電気通信連合)が2018年3月、音響機器の製造や使用に関する新国際基準を発表しました。これは、スマートフォンなどの個人用音響機器の利用や娯楽施設等で大音量の音を聞き続けることで、難聴になるリスクが高まるというレポートに基づくものです。

 WHOは、現状のままでは世界の若者(12~35歳)の半数近くに当たる11億人が難聴に陥る危険性があると警告。同事務局長のテドロス・アダノム氏は、「失った聴力は元には戻らないことを理解しなければならない」と注意を呼びかけています。

 骨伝導は鼓膜を使わないため、難聴リスクを減らせるのか、あるいは耳への負担を少しでも軽減できるのかについて調べてみました。しかし、骨伝導でも大音量によってダメージを受ける内耳の「蝸牛(かぎゅう)」に振動が伝わるため、難聴リスクを減らすという医学的エビデンスは見つかりませんでした。

 BoCoの製品開発担当者は、「周囲の音が大きいところで音楽を聴こうとすると、自然と音量も上がってしまいがちな中、骨伝導イヤホンを使えば音量を過度に上げなくても聞きやすいです」と話します。使用しているうちに音がさらによく聞こえるようになり、ボリュームダウンにつながったとの声も寄せられているとのこと。

完全ワイヤレス機構と小型化、進化の続く骨伝導

 現状、「ながら聴き」による安全性が一番のメリット考えられる骨伝導イヤホン。前述のBoCoのクラウドファンディングを活用した新製品「earsopen(R) “PEACE”」は、世界初の完全ワイヤレス機構と小型化により、装着感がより少なく音楽を楽しめるようになります。

心臓部のデバイス直径10mmという小型化により実現した、BoCoの「i」型デザイン採用の新商品「earsopen® “PEACE”」(画像:BoCo)



 同社の新製品は骨伝導の心臓部であるデバイスを、わずか直径10mmという円柱状の振動子(しんどうし)にした特許技術により実現したもの。耳介(外耳の一部)内壁に振動を伝え、より多くの人が聞こえを実感できる新開発構造により、頭部全体に振動を伝える製品としています。

 WHOは、中・高所得国の12~35歳の年齢層について、85デシベルで1日8時間、100デシベルで15分を超える音を聴くと危険として、音量を下げたり、連続して聴かないよう休憩をとったり、スマホなどオーディオ使用は1日1時間までに制限することなどを勧告してきました。

「85デシベル」と聞いてもピンと来ない人も多いことでしょう。環境省の資料によると、目安として70〜80デシベルが地下鉄(都心)の車内、80〜90デシベルがパチンコ店内の騒音レベルとしています。飛行機の離着陸時の真下については、110〜120デシベルとする学会発表の資料もあります。

 この数字からすると、地下鉄構内や空港で働く人たちは、耳に負担がかかりやすいことがわかります。空港の滑走路近辺で働く人たちは、かなりの騒音のため、通常は耳栓をしているそうです。

 骨伝導イヤホンが今後さらに進化し、耳栓と併用して通信手段として活用できるようになれば、騒音の大きな職場での作業の効率化などにつながることが期待できます。

 音楽鑑賞用にも今以上に進化を遂げる可能性があり、今後、注目がさらに高まることは間違いないでしょう。しかしながら、何にせよ大音量での音の聴きすぎは難聴リスクを高めるので、気をつけたいものです。

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