移転のきっかけは東日本大震災
新宿通りに面した17階建ての上智大学6号館(千代田区麹町、以下ソフィアタワー)のなかに、なぜか銀行の本店が入っています。銀行のATMならどの大学でも見かけますが、本店が入っているのは日本国内でここだけです。
ソフィアタワーに入っている銀行は、あおぞら銀行です。1階の一部分に同行の店舗と受付が、7階から16階まで本店機能が入っています。なお2階から6階までは上智大学です。
あおぞら銀行はこれまで、シニア富裕層の資産運用サポートを中心とした業務を行い、日本国内に20店を展開してきました。2017年3月期末の預金残高(単体)は約2.9兆円、貸出金残高(単体)は約2兆6000億円と中規模レベルの銀行で、2017年5月にソフィアタワーへ移転する前には、千代田区九段南に本店を構えていました。
あおぞら銀行がソフィアタワーへの移転を決めたのは、2011年3月に発生した東日本大震災がきっかけでした。
「東日本大震災を機に、耐震性が高く、非常用のバックアップ電源装置が整ったビルへ移転しようという意見が社内で出たのです。話し合いを重ねて、交通アクセスの良さや賃料水準を考慮に入れた結果、上智大学のソフィアタワーが条件に合ったのです。
また、弊行がお支払いする賃料が、上智大学に通う留学生や、地方出身の学生に向けた奨学金の原資になるという計画を知ったことも、入居の後押しとなりました。こちらは、銀行業の持つ社会的責任といった観点からです」(あおぞら銀行 広報室)
ソフィアタワーは2014年11月に着工、2017年1月に竣工しました。あおぞら銀行の移転は、それから4か月後のことでした。
入居1年、早くも生まれたシナジー効果
7階から16階までの本店部分は「AOZORA MUSEUM(あおぞら・ミュージアム)」というデザインコンセプトのもと、国産材を使った家具や「伝統工芸×青」でまとめたアートワークを採用し、「日本各地を元気にする」というメッセージを空間的に演出しました。
タワー入居から約1年が経過し、共同研究や提携講座の開催、あるいは同行への上智大生のインターンシップなど、上智大学とのシナジー効果は早くも生まれています。
共同研究では、シニア層の消費動向などを数値化した「あおぞら上智シニア消費指数」を開発。提携講座では2017年度秋学期から「バンキング基礎演習」を開講しています。
「『あおぞら上智シニア消費指数』は、シニア層向けビジネスに強い当行と、上智大学の持つ心理学、経営学、経済学などの知見を統合して実現したもので、毎月その結果を発表しています。現在、シニアマーケティングの新たな指標として、流通関連企業の営業活動に使用されています。
『バンキング基礎演習』は当行の行員が教壇に立ち、銀行業務全般から金融論、金融とITを融合させた『FinTech(フィンテック)』から現場での苦労話まで、幅広く講義を行っています。講義には、銀行の内情を描いた有名ドラマをテーマにするなどして、学生たちが興味を持ってくれるような工夫もしています」(あおぞら銀行 広報室)
「バンキング基礎演習」は2018年秋にも開催を予定しています。ほかにも、あおぞら銀行が招いた海外の視察団と上智大学の学生が交流したり、大学周辺の清掃を共同で行ったりするなど、さまざまな分野で連携していて、「関係は予想以上に深まっています」と、上智大学の広報担当者は話しています。
今後の大学は「収益の多角化」を目指す方向に
あおぞら銀行では今後、上智大学とともに金融教育に関連するイベントやセミナーを強化して、さらなるシナジー効果につなげていきたい考えです。
このような事例は今後、一般企業の大学テナントへの入居を後押しするのでしょうか。ソフィアタワーのコンサルティングを担当する三井不動産では、次のように予測します。
「マーケット基盤である18歳人口が減少する経営環境下で、収益源の多角化を目指す大学の動きは今後顕著になっていきます。上智大学はオフィスビルの収益を財源として、教育研究環境のさらなる充実と、大学のブランド力向上を図れるようになりました。
国立大学・私立大学に関わらず、キャンパス内に産学連携施設を整備したり、企業を誘致したりといった事例は今後も増えていくでしょう」(同社ソリューションパートナー本部公共法人室)
大学キャンパスというプラットフォームを有効活用しながら生まれるビジネスや新しい学びに、今後も目が離せません。
●上智大学 四谷キャンパス 6号館 ソフィアタワー
・住所:東京都千代田区麹町6-1-1
・交通アクセス:丸ノ内線・南北線「四ツ谷駅」から徒歩5分