「昼休みに水辺でまったり」は効果アリ。居心地が良くなる隅田川、将来はこう変わる

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「昼休みに水辺でまったり」は効果アリ。居心地が良くなる隅田川、将来はこう変わる

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アーバンライフ東京編集部

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浅草や両国、佃など隅田川の各所で、水辺の憩いの場の整備が進められています。東京都は2020年の東京五輪に向けて、水辺の空間から新たな魅力を発信しようとしています。

そもそも「水辺」にはストレス軽減効果が

 天気の良い平日の昼下がり。銀座線浅草駅からほど近い隅田川の河川敷では、整備された遊歩道で思い思いに昼休みを過ごすスーツ姿の人が多く見られます。
 
 近年、隅田川の沿岸では「隅田川テラス」と呼ばれる、遊歩道や植栽などを備えた親水空間の整備が進められ、さらに、沿川の開発と合わせて「スーパー堤防」の整備が進められており、憩いの場として多くの人に親しまれています。

浅草・吾妻橋付近にある「スーパー堤防(吾妻橋地区)」の「隅田川テラス」の様子。昼休みを過ごすスーツ姿の人びとが見られる(2018年7月4日、ULM編集部撮影)



 実際、普段いる場所を離れて水辺で過ごすことは、「ストレスを和らげる効果も期待できる」と専門家はいいます。

「現代社会において、ストレスの原因そのものを取り除くことは簡単ではなく、日々セルフケアを行っていく必要があります。そのためには、Rest(休む)、Relax(リラックスする)、Recreation(リクレーション)という、3つのRが効果的なのですが、水辺の環境はそれらを一度に満たしてくれる場所なのです」

 こう語るのは、精神科医で杏林大学名誉教授の古賀良彦さん。昼休みという比較的短い時間であっても、水辺で過ごすことでリラックス効果が得られるといいます。

「普段いる場所とは別の空間に身を置いて、積極的に身体を動かしたり新鮮なものを見たり聞いたりすることで、ストレスによって歪んだ精神を立ち直らせることができるのです。川沿いの遊歩道や公園で読書をしたり音楽を聞いたりして過ごすのも良いでしょう」(古賀さん)

浅草・吾妻橋付近の「スーパー堤防(吾妻橋地区)」。きれいに整備された遊歩道では、ビジネスマンや観光客、ランナーなどさまざまな人が行き交う(2018年7月4日、ULM編集部撮影)

 専門家も認める水辺のリフレッシュ効果。「隅田川テラス」などは、周辺の企業などで働く人、地域の住民だけでなく、東京を訪れる観光客などにとっても魅力的な空間といえるでしょう。
 
 実は、東京都が隅田川で整備している水辺空間は浅草だけにとどまらず、両国、佃、越中島、築地などのエリアにも広がっています。隅田川周辺はいま、人びとを引きつける魅力にあふれた空間へと生まれ変わろうとしているのです。

江戸時代の「水辺のにぎわい」取り戻す

 人びとの憩いの場がどんどん増えている隅田川ですが、江戸時代の隅田川の水辺もまた、にぎわいのある魅力的な空間だったといいます。

「水上交通が栄えた江戸時代、川のそばにはたくさんの市場や船着場があり、多くの人が行き交っていました。なかでも隅田川は、春は花見、夏は花火という風に、文化的イベントの中心でもありました。時おり洪水などに悩まされながらも、江戸の文化は川とともに形成されてきたのです」

 東京都の河川堤防や水辺空間の整備を担当する、東京都建設局河川部・低地対策専門課長の冨澤房雄さんはこう話します。

葛飾北斎の浮世絵本「絵本隅田川両岸一覧」に、大勢の人でにぎわう隅田川の様子が描かれている。画像は「両国橋」の様子(国立国会図書館蔵)

 やがて明治、大正期にかけて、交通手段が鉄道や自動車に取って代わられ、それとともに水上交通が衰退し、水辺のにぎわいは失われていきました。昭和の高度経済成長期には川の水質悪化が深刻化し、名物の隅田川花火大会が中止される時期もありました。
 
 度重なる水害から街を守るために整備された堤防は、コンクリートの直立堤防で、水辺と人びとを隔てるような無機質な空間となっていました。

 そこで東京都は、江戸時代のような水辺のにぎわいを取り戻そうと、隅田川の水質が改善され始めた昭和50年代から緩傾斜型堤防や「スーパー堤防」の整備に着手。従来の堤防より幅が広く傾斜がゆるやかで、地震や高潮に強い「スーパー堤防」の整備は、親水性の向上も目的としており、生き物への配慮もされながら進められています。

隅田川の新川箱崎地区の「スーパー堤防」。無機質な景観だった従来の防潮堤(左)から、災害に強く、水辺への親しみやすさも両立した空間(右)へと変化した(画像:東京都建設局河川部)。

「『スーパー堤防』によって川の景観も開放的になり、平常時は人が水辺まで近づくことも可能になりました。親水空間の整備が進んだことで、水辺に人が集まる場ができてきたのです」(冨澤さん)

 整備された水辺空間を活用したいという機運が高まるなか、いくつかの社会実験を経て、河川敷地占用に関する規制が2011(平成23)年に緩和され民間企業によるオープンカフェやレストラン、ホテルのオープンテラスなども設けられました。

隅田川の浅草付近の堤防にあるオープンカフェ(2018年7月4日、ULM編集部撮影)。

「隅田川を中心とした河川のにぎわいづくりは、浅草、両国などの周辺地域との結びつきや地域の活性化が重要です。『スーパー堤防』の整備や水辺への導線づくりなどを進めるとともに、民間企業による活用などはしっかりと地元の合意を取ることが重要であると考え、理解を得るように心がけています」と、冨澤さんは話します。

2020年に向けて、さらに広範囲を整備

 2020年の東京五輪に向けて、東京都はさらに新しい水辺空間を生み出そうとしています。そのひとつが、浅草エリアと東京スカイツリー周辺を結ぶ「北十間川プロムナード」。東武スカイツリーラインの敷地と、それに平行する北十間川を一体で整備し、完成すると散策や買い物、飲食などを楽しみながら両エリアを行き来できる遊歩道が誕生します。

「北十間川プロムナード」の整備イメージ(墨田区ウェブサイトの画像をもとにULM編集部作成)。



 また、両国エリアでは船着場にホテルやレストラン、船運待合室、子育てひろばなどの機能をもつ複合施設を整備。中~下流域の「隅田川テラス」では、夜間のデートやジョギングなどにも安心して利用できるよう照明を設置したり、水門などでテラスが途切れる場所に橋をかけてテラスを連結したりと、さらなる水辺の魅力アップをはかっています。

 オリンピック・パラリンピックが開かれ、世界中から東京への関心が集まる2020年に向けて、「隅田川を水の都・東京としての新たな”顔”にしていきたい」と、冨澤さんは話しています。快適で、リラックスできて、誰もが思い思いに楽しめる隅田川の水辺は、江戸時代をルーツとしつつも、新しい東京の魅力を感じられる場所になるでしょう。

●隅田川テラス
・場所:台東区・隅田公園、吾妻橋付近、両国橋付近、江東区・清洲橋付近、中央区・佃大橋付近、勝どき橋付近など隅田川両岸全域(上流部に未整備区間あり)

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