骨で音を聞くってどういうこと? 「骨伝導式イヤホン」がもたらす新たな選択肢とは

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骨で音を聞くってどういうこと? 「骨伝導式イヤホン」がもたらす新たな選択肢とは

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近年、音楽を骨で聞く、骨伝導式イヤホンが増えています。骨伝導に特化したベンチャー企業 「BoCo」に、骨伝導によって増える「新しい選択肢」について話を聞き、試しました。

音を「骨」で聞く時代が到来か? 増える「骨伝導式イヤホン」

 移動しながら、好きな音楽が聞ける。その点において、イヤホンの登場は画期的でした。ですが、耳の穴は左右にひとつずつしかありません。イヤホンを入れると、耳がふさがってしまい、聞き取るべき周囲の音を聞き漏らしてしまう――。そう感じたことがある人は、少なくないのではないでしょうか。

骨伝導イヤホンを使用しているところ。ジョギング中にも気軽に楽しめるという(画像:BoCo)



 近年、そんな悩みを払拭するかのように、耳を塞がずに音楽を楽しめる「骨伝導」式のイヤホンが登場しています。骨伝導とは、言葉のとおり、骨を伝って音楽を聞く仕組み。鼓膜を介さず、音が聞き取れるといいます。

 形状は、首に下げたり、耳にかけたり、イヤリングのように取り付けたり。一般的に「イヤホン」と呼ばれるものとは少し異なり、ワイヤレスも少なくありません。

 そんな骨伝導の製造に焦点を置く、急成長中のベンチャー企業もありました。その名もBoCo(ボコ、中央区八重洲)。社名はずばり、骨伝導の英語「Bone Conduction(ボーン コンダクション)」の略なのだとか。2015年に創業したばかりで、社員数は約30人ですが、年商10億を達成しています。

 同社はなぜ骨伝導に特化し、広めようとしているのでしょうか。話を聞き、記者自らも骨伝導イヤホンを体験したところ、骨伝導がもたらす「新たな選択肢」が見えてきました。

骨伝導が生み出す「3つめの選択肢」とは?

「私達のミッションは、音と人との関係をより良くしていくことだと考えています」

 ひとつひとつの言葉に力を込めながら、話してくれたのは、同社代表取締役社長の謝端明(しゃ はたあき)さんです。

「これまで、音楽を聞く時の選択肢は、スピーカーのある環境下で音を聞くか、イヤホンを耳に入れて聞くかの二択でした。ただ、スピーカーで聞く場合には、周囲の了承が必要になりますし、イヤホンで聞く場合には、周囲の音が遮断されてしまいます。

 ですが、骨伝導によって、もうひとつのソリューションが生まれました。骨伝導では、従来のイヤホンでは実現しなかった『ながら聞き』が可能なのです」

 骨伝導は先述のとおり、耳の穴を塞がずに音楽を楽しめるため、音楽を聞きながら、周囲の音を聞き取ることができるといいます。

「どんな使い方がおすすめですか?」と聞いたところ、「私達が『これ』と断定するのではなく、ユーザーそれぞれが、思い思いの使い方をしてくれたら」とのこと。

「生活をより良くするために、活用してもらい、このデバイスによって、豊かになってもらえたらと考えています」

最高技術責任者は48歳で、異業種から骨伝導の道へ

 BoCoは、骨伝導に関わる特許技術を30数件を持っているといいます。うち30件を「発明」したのが、同社の最高技術責任者 中谷任徳(にんどく)さん。謝さん曰く「彼は(良い意味で)『宇宙人』なんですよ」とのこと。

BoCoが開発した骨伝導のデバイス。実際のサイズは豆粒大(画像:BoCo)



 中谷さんが骨伝導デバイスに出会ったのは19年前、48歳の時でした。当時、働いていたのは保険会社。大学も文系で、工学に触れた経験は全くなかったといいます。ですが、「初めて『耳以外で音を聞く』ということを体感し、以来骨伝導の存在が頭から離れなくなってしまいました」と話します。

「当時の骨伝導の音質はあまり良くありませんでした。ですが、改良次第で、音域がもっと広がるように思ったんです」

 そこで、保険会社を退職し、骨伝導の研究をしようと決意。同僚からは「今になってなぜ」と大反対を受けたといいます。ですが「妻に言ったら『(骨伝導を)やれば?』と。それで一気に決めました」とのこと。

「私は工学系の知識は全くありません。なので、技術を持つ知人にイメージを伝え、試してもらいました。通常、知識が蓄積されてくると、例えば『AとBを組み合わせるのは到底無理』などの予測がつくようになるものです。ですが、私はそういう概念を全く持っていませんでした。それが逆に良かったのかもしれません」

 50歳を前にしての未知への挑戦は、そう出来ることではないと感じ、「すごい決断ですね」と投げかけたところ、「決断としたというよりも、ごく自然にこうなっていったんです」と中谷さん。「色々と偶然が重なり、謝さんとも知り合い、会社を始めることになりました」と穏やかに話します。

「彼は本当に凄いんですよ」と嬉しそうに話す謝さん。2人の関係性もまた、同社の骨伝導開発の中枢であると感じました。

「骨伝導イヤホン」記者が体験してみた

 とはいえども「骨で音を聞く」というのは、一体どんな体感なのでしょうか。どんなに状況の説明を受けても、実感しないとわからない――。そう思い、記者も体験してみました。使用したのは「ワイヤレス骨伝導イヤホンearsopen(BT-5 CL-1002)」(税込1万9310円)。

試してみた、ワイヤレス骨伝導イヤホンearsopen「BT-5 CL-1002」(2019年6月、ULM編集部撮影)



 bluetoothで、スマートフォンなどの電子機器とつないで使います。接続されたのを確認し、イヤホンを耳に入れる……のではなく、イヤリングのように軽く耳たぶに着けたところ、音楽が聞こえてきました。

 耳が塞がれていないのに、自分にしか聞こえていない。着けてすぐは、初めての体感になかなか慣れず、不思議でなりませんでした。ゆえに、つい気になったのが音漏れです。ですが、隣の席の人や、すれ違った人に確認したところ、総じて「音漏れしていないですよ」との返答が。

 音質に関しては、曲を構成しているさまざまな要素が、丁寧に聞き取れるように感じました。たとえば、木琴とドラムとギター、それぞれの音が把握できる印象です。ボリュームを最小にした際にも、音を認識できたことには驚きました。

 周囲の音が通常どおりに聞こえる位のボリュームに設定し、そっと音楽を楽しんでいたところ、「同時に聞ける音が、1種類から2種類に増えた」ように思いました。新たな選択肢が増えたのだと、実感した瞬間です。

 かつて思い描いた「近未来」が可視化されたようなデバイスは、年々増えているように思います。骨伝導もまた、そのひとつなのかもしれません。

 なおBoCoでは、今後も骨伝導デバイスの開発を活発に進めていくとのこと。7月中旬には、同社のブランドearsopenの最新機種となる「FIT BT-1」(税込1万9310円)を新たに発売。より臨場感のあるサウンドを実現したほか、ランニング中に雨が降っても大丈夫な防水設計がされているそうです。

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