一概に責められない? 都立高受験「男女別定員」が維持されてきた複雑な事情
全国の公立高校で唯一、共学校の男女別定員を設けている都立高校。東京都教育委員会が先日発表した男女別定員の見直しは、今後をどう変えるのでしょうか。教育ジャーナリストの中山まち子さんが解説します。都立高校の男女別定員は1950年から 東京都教育委員会は9月24日(金)、都立高校の入学試験における男女別定員を見直すことを明言しました。都立高校は全国の公立高校で唯一、共学校の男女別定員を設けています。 高校受験する生徒のイメージ(画像:写真AC) その発端となったのが、NHKが2021年3月25日に報じた「首都圏ナビ」の「都立高校入試の“男女別定員制” 同じ点数なのに女子だけ不合格?」で、男女による合格ラインの点数の違いを取り上げました。 かいつまんで言えば、男女別で定員が決まっているため、同じ性別のなかから内申点と入試の点数の高い順に合格者を出しており、その結果、女子の方が都立高校の合格ラインの点数が高くなっている、という内容でした。 もちろん、全ての学校で女子の合格ラインが高いということはありませんが、昨今の男女平等の流れに逆行していると捉えられる可能性もあります。 都立高校の男女別定員の歴史は長く、「早稲田大学 教育・総合科学学術院 学術研究(人文科学・社会科学編)第62号)2014年3月」に記載されている「都立高等学校における男女別入学定員の変遷」(小野寺みさき)によると、導入は1950(昭和25)年からとなっています。 制度が緩和されつつも、50年以上にわたり都立高校では男女別定員を定めた入試が実施されていたことは事実です。これまで問題視されなかったわけではありませんが、完全撤廃には至りませんでした。 そのようなことからも、今回の決定は一歩前進したといえるでしょう。 他県とは異なる東京都の受験事情他県とは異なる東京都の受験事情 都内の公立高校の入試で、いまだに男女別定員があることは、一見すると時代錯誤のように受け止められますが、他の地域と同じように語れない事情もあります。 23区を中心に中学受験が盛んな東京には、多数の私立中学が存在しています。東京都生活文化局のホームページ内にある資料「東京都の私学行政」には、182校ある私立中学の内訳が書かれており、 ・共学校:82校(45.1%) ・女子校:68校(37.4%) ・男子校:32校(17.6%) という結果が出ています。 また、231校ある私立高校では ・学校:119校(51.5%) ・女子校:81校(35.1%) ・男子校:31校(13.4%) となっています。 都内私立学校の割合(画像:東京都生活文化局のデータを基にULM編集部が作成) 近年、男子校・女子校で男女共学化の動きもありますが、このデータからわかることは、都内の私立学校の場合 「女子の方が進学先の選択肢が多い」 ということです。 私立学校では完全中高一貫化の動きもあり、一概に女子が有利であると断ずることはできませんが、前述の通り、東京都は私立学校が多いため、他の地域と同じように語れない事情が存在し、男女バランスには熟考を要します。 東京都教育委員会は私立学校と連携して「高等学校就学計画」を策定し、都立高校や私立高校の募集人員を決めています。なお、都内の公立中学卒業生の人数等を基に作成された令和4年度の就学計画では都立高校4万600人、私立高校2万7600人を想定しています。 男女別定員を撤廃した後に起きること男女別定員を撤廃した後に起きること 男女別定員の是正については、東京都教育委員会が令和4年度入学者選抜(全日制普通科)から段階的に行うことが決定しています。その第一段階として「男女合同で決定する割合10%」を全校にまず拡大、第二段階で20%、第三段階で男女合同定員に移行するとしています。 東京都教育委員会ではそれに伴い、男女合同定員になった場合の、男女の合否人数のシミュレーションを発表。各方面からの声に応じるよう、資料では学校名を伏せた形で2021年度入試における男女別の合格者数の差、合格最低点の差も公表しています。 その結果、110校中56校で女子の合格最低点が男子より上回り、差は最大122点であることがわかりました。反対に男子が上回ったのは18校にとどまり、差は最大204点でした。 男女平等のイメージ(画像:写真AC) シミュレーションによると、男女別定員の撤廃後、女子の合格者数は現行より600人増加し、男子は600人減少するという結果が出ています。 ただ、学校によっては男女の生徒比が急激に偏ってしまう問題点もあります。また前述のように、男子の受け入れ校が女子より少ないことも問題点であり、一気に物事が解決するとはいえません。 半世紀にわたり男女別定員のあった都立高校の入試ですが、テレビ番組やインターネット上の声を受けて、改革にかじを切りつつあることは事実です。これからの都立高校の入試はさまざまな意味で、注目に値します。
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