「銀座ウエスト」名物は親子の"ウエスト”サイドストーリー? | 老舗レトロ喫茶の名物探訪(2)
銀座西5丁目の交差点にほど近い喫茶店「銀座ウエスト」には、高級志向ながら若い女性も数多く訪れます。人気の理由は、名物である自家製ケーキの美味しさ、そして、先代社長と 現社長の「親子の絆」にもあるようです。戦後間もなくステーキコースを出す高級レストランとしてスタート「銀座ウエスト」本店の個性的なケーキが並ぶショーウインドウ横の扉。押し開けた先には、すっと背筋が伸びるような空間が広がります。 「レトロ」というと古ぶるしいものをイメージしがちですが、同店のレトロは品格ある「昭和クラシック」の趣です。背もたれの長い、焦げ茶色のベロア生地の椅子には白いヘッドレストカバー、テーブルにはパリッと糊の利いた白いテーブルクロス。そのスタイルは「70年間変わっていません」と同社2代目社長、依田龍一さんは話します。 銀座ウエストの外観(2018年9月6日、宮崎佳代子撮影)高級レストランのような内装(2018年8月22日、宮崎佳代子撮影) 店内はクラシック音楽が流れ、一見して高級レストランのような雰囲気。1947(昭和22)年、同店が高級レストラン「グリル・ウエスト銀座」としてスタートしたと聞くと、納得がいきます。 そのメニューは、ビーフステーキをメインに据えたフルコース。ハワイで成功を収めたシェフが腕を振るい、「今の物価だと5万円くらい」という料金設定にもかかわらず、食糧難で美味しいものに飢えていた富裕層から好評を博し、大いに賑わったそうです。 しかし、創業からわずか半年でぜいたく規制の都条例によって方向転換を迫られます。そのためシェフが店を去ってしまい、洋菓子とコーヒーを主体とした喫茶店として再スタートしました。高級路線を維持するため、クラシック音楽を流すようになり、レコードプレーヤーの横にレコードを裏返すだけのアルバイトを常駐させていたそうです。 若い女性たちをも惹きつける、「本物志向」の自家製ケーキ ウエストはリーフパイが有名ですが、自家製ケーキも喫茶部門の看板。トレイに盛られたケーキの種類の豊富さに、思わず目移りしてしまいます。 一番人気はシュークリーム。コクと風味豊かなカスタードクリームがたっぷり入っていて、食べ応えがあります。ミルフィーユはテイクアウトできない喫茶限定メニュー。リーフパイのようなサクサクした食感が楽しめる生地に、2層に重ねたカスタードクリームと美味しさの余韻を残して口溶ける生クリームとの相性を堪能できます。看板商品のリーフパイと人気のシュークリームの「美味しいとこどり」をしたような一品です。季節限定のケーキが充実しているのも、訪れる毎の楽しみを与えてくれます。 喫茶店内限定のミルフィーユ(420円、以下全て税別)。出す直前にパイ生地にクリームを載せることで、サクサクした食感を保っている(2018年8月22日、宮崎佳代子撮影)カスタードクリームたっぷりのシュークリーム (380円)(2018年8月22日、宮崎佳代子撮影)。 ウエストのコーヒーは、苦味が少なくマイルドな味わい。これは、ケーキの味わいを引き立てるためだそうです。コーヒーと紅茶はおかわり無料のため、居心地よくゆっくりとおしゃべりに興じることができます。しかも非日常感たっぷり。週末は若い女性がとても多いというのが頷けます。 ただ、コーヒーと紅茶は1000円越え。ケーキもセットで注文すると概ね1300円以上となります。喫茶店としては高い印象を受けますが、「銀座は本物を出していれば、わかっていただけるところですから」と依田社長は胸を張ります。 ケーキは職人がひとつひとつ手作りし、果物はできる限り国産で、旬のものを使用。店を訪れた9月初旬、ミルフィーユに添えられていた大粒のシャインマスカットは、冬はイチゴに変更するそうです。 アップルパイは原料の「ふじりんご」の出荷時期のみラインナップ。モンブランの栗も国産、ケーキの原料となる小麦粉やバター、生クリームなどは最上の物を選定し、高くなることを恐れずに本物の美味しさを提供する。ただし、真摯に「適正価格」を守る。父である先代社長からの教えとして、大事にこれらを守っていることが、今につながっていると依田社長は話します。 100%和栗を使用したモンブラン(470円)(2018年8月22日、宮崎佳代子撮影)シフォンケーキの生地でフルーツを包んだフルーツシフォンロール(470円)。しっとりとしたスポンジとフルーツ、生クリームのコンビが絶妙(2018年8月22日、宮崎佳代子撮影)ゴルゴンゾーラ レモンパイ(420円)。クリームに混ぜたゴルゴンゾーラが、香りと味わいの優しいアクセントに(2018年8月22日、宮崎佳代子撮影)親子の"ウエストサイドストーリー”も名物のひとつ? 喫茶の名店ウエストは、さまざまな著名人とのエピソードがあります。 昭和30年代、毎日のようにやってきたのが永六輔さん。駆け出しの頃でまだ事務所を持っておらず、ウエストを仕事場のように利用していたといいます。携帯電話などない時代、仕事先に連絡先としてウエストの電話番号を知らせていたとか。「居心地がよかったのでしょうかね」と依田社長は笑みを浮かべます。 小説家の林芙美子さんは、ウエストが毎週発行している店の栞(しおり)に載せる、一般募集の詩やエッセーの初代選定者でした。無報酬で引き受け、書評も書いていたとのこと。林さん宅に何人もの編集者が原稿催促に詰めるなか、依田友一社長(当時)がやってくると真っ先に書斎に通した…というエピソードがあるそうです。 この投稿募集は現在も続いていて、掲載は通算で3632週(2018年9月6日時点)。現在は社内で、「肩が凝らず、お茶を飲みながら共感できるようなもの」を選んでいるといいます。 銀座という激戦区で紆余曲折を乗り越えてきた先代社長のさまざまな信条や接客スタイルを依田社長が今も大切にしていることに、親子ならではの絆が感じられました。それが、高級感がありながら温かみのある居心地に繋がっている。そんな親と子の銀座”ウエストサイドストーリー”も、この老舗喫茶の隠れ名物なのかも知れません。 ●銀座ウエスト 銀座本店 ・住所:東京都中央区銀座7-3-6 ・アクセス:地下鉄各線「銀座駅」C2出口から徒歩約5分 ・営業時間:月曜〜金曜 9:00〜22:00(売店のみ〜23:00)、土曜・日曜・祝日 11:00〜20:00
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