女性たちが高性能スマホより「ガラケー」に愛着を持ったワケ 平成と令和「デコ文化」の違いから考える
2020年夏、話題を呼んだ「デコマスク」 一瞬コレはなんだろう? と思ってしまった、カラフルでキラキラした宝石のような物体。 東京を中心に全国の女子中高生の間で「アベノマスク」をデコるのがはやっているらしい――。 「#アベノマスク」でInstagramを検索すると、コロナ禍とは思えないぐらいポジティブなマスクが筆者の目に入りました。 このマスクを見た人の中には「私たちの頃の『デコ電』と似ている……!!」といった感想が見られましたが、筆者もそう感じたひとりです。 今回は現代の「#アベノマスク」と平成の「デコ電」文化を比較して語ろうと思います。 デコ文化の発祥はいつの頃? そもそもデコ電とは、華やかなデコレーションを施した平成当時のガラケー(携帯電話)やPHSのこと。このデコ電やデコ文化が始めに登場したのは、一体いつ頃なのでしょうか。 「過剰装飾」といったくくりでは80年代のヤンキー文化から存在しますが、「デコ電」なるものが登場したのは今からさかのぼること20年超、1997(平成9)年のPHSの時代になります。 ただこの頃は、近年のシールやラインストーンを使用した「デコ」という雰囲気ではなく、どちらかというとネイルアートのようなペイントが中心でした。 デコって盛るというよりもペイントの器用さを競うようなそんな雰囲気があり、雑誌の誌面などでも「デコる」より「アート」や「カスタム」という言葉を使用しています。 PHSが主流の時期、若い女性たちは「デコ」ってオリジナリティーを出すよりも、アンテナを光らせたり伸ばしたり、電波状況を良くしたり着メロを自作したりすることに夢中でした。 携帯電話が現代のデコマスクに近いような「デコる」対象となったのは、1999年のiモード、EZweb、J-skyが登場した頃です。 大量のストラップを付けた女性たち大量のストラップを付けた女性たち パソコン間でのやり取りが当たり前だったeメールの送受信が可能になった携帯電話が登場したことにより、携帯の人気と普及は一気に加速していきました。 当時の画像を見ると1999(平成11)年の携帯に施されたデコは、現代の「#アベノマスク」に近い雰囲気があるように感じます。 「携帯」そのものに若い女性たちが興味を持ったのはもちろんですが、デコ文化をより加速させる流行が起きたのも同じ頃。 マニキュアやシールに「ラメ」ものが一気に増え、またハイビスカスの「レイ」が流行するなど、カスタムするのに適したアイテムがぐんと増えました。 パカパカふたつ折り仕様の携帯など、PHSに比べてカスタムしやすいデザインが増えたというのも一因でしょう。 さまざまな個性を放つデコ電の数々を紹介するムック本、その名も「デコデン」(画像:Tajimax、ブティック社) またネックピースなどの登場や、ストラップの種類が豊富になったことにより携帯のアクセサリー感覚が強まったのかもしれません。 ひとり1台の携帯が当たり前になり、より身近な存在になったことで、ストラップを大量につけたり、シールを貼ったりとデコ文化が浸透し、それによって携帯に対する愛着がさらに増した時代でした。 この時期の、身近なものからアイデアを生み出し創造する、というスタンスは現代のデコマスクと近い感覚があるのではないでしょうか。 デコ文化が全盛期だった2000年代デコ文化が全盛期だった2000年代 さらにデコ電の文化を追ってみましょう。 2000年代以降の「デコ電」を見ると、30代の筆者と同世代、もしくは少し年下の世代にとっては、この頃のカスタムこそ現代に続く「デコ電」「デコる」という認識に近いかと思います。 2000(平成12)年に突入してからは、以前は高値で手に入りにくかった「ラインストーン」が手芸店などでより気軽に購入できるようになり、瞬く間に携帯デコにも使用されるようになりました。 この辺りから、ただシールを貼ったり、ラメマニキュアを塗ったりするという行為から、ラインストーンを駆使した「デコり方」が流行しました。 それに併せて当時は、デコり方の方法を教えるいわゆる「レシピ本」もたくさん出版されました。 携帯のデコり方を指南するムック本「デコデン」「デコデン&デコグッズ」(画像:Tajimax、ブティック社) またこの「デコる」ということ自体そのものが、きちんとひとつの「スキル」として認められ、当時はスクールなどもたくさん増えたのも大人世代にとっては記憶に新しいはず。 最初は女子高生のちょっとしたカルチャーだったものが職業にまでなったのは、あらためて考えるとすごいことだと感じます。 ここから2010年あたりまで「デコ文化」が最も熱い全盛期を迎え、さまざまなものをデコるトレンドが定着していきました。 スマホケースより自作のデコガラケースマホケースより自作のデコガラケー 最近は以前のような過剰装飾なデコはやや下火の印象があるものの、「デコる」という行為自体は、現代では「DIY」という形にも広がり、まだまだ健在だと筆者は見ています。 YouTubeなどで100均のグッズをデコったり身近なアイテムをDIYしたりする動画を見ると、「カスタム」や「デコる」という行為は今もなお、私たちを魅了しているのかもしれません。 以前のような加熱した過剰装飾ではなくても、もともとあったシンプルなアイテムをオリジナリティーあふれるモノへと昇華させることで、モノへの愛情もより深まります。 思えば筆者も、ガラケーを自らデコっていた時期の方が、今のスマホよりも愛着がありました。 スマホはもちろん便利で日常生活には欠かせないのですが、結局のところスマホのデバイスを愛してるのであって、しょっちゅう取り替え可能なスマホケース自体には正直ガラケーほどの愛情はありません。 失敗しないように緊張し、ワクワクしながらデコっていたガラケーの方がひとつの作品を完成させたような達成感があります。 当時、筆者自身がデコったガラケー(画像:Tajimax) 2020年8月、アーバンライフメトロのサイトで「#アベノマスク」の記事を読んだとき、筆者の時代と同じようなちょっと90年代っぽさを彷彿とさせるデコ感覚に驚きました。 ですが、最も驚いたのは、もともと愛着があったモノをデコったのではなく“興味対象外”なものをあえてデコったというところです。 平成と令和のデコ、最大の違いは平成と令和のデコ、最大の違いは この点は、かつてのガラケーのデコ電との大きな違いと言えるのではないでしょうか。 「映え」目的ももちろんあるとは思いますが、ちょうど世の中が不安に包まれている中の「#アベノマスク」は、とてもカラフルでキラキラしたものに映ったのは筆者だけではないと思います。 アベノマスクの配布当初、世間には賛否両論がありました。それをポジティブなアイテムに変換させて昇華したのは、本当に目からウロコ。 今回の女子中高生たちのアイデアには、大人も見習うところが多いと思います。 オリジナリティーや他の人と差をつけるといった、いわゆる自分のためだけのデコではなく、今回のように周囲を巻き込んでひとつのトレンドにしたデコには、カルチャーの新たな可能性を感じさせられます。
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