白い車体に映えるウインドブルー! 世界的デザイナー「山本寛斎」は鉄道もデザインしていた
7月21日に亡くなったファッションデザイナーの山本寛斎さんは、鉄道のデザインも手掛けていたのをご存じでしょうか。その詳細について、フリーランスライターの小川裕夫さんが解説します。お茶の間にも知られた有名デザイナー 世界的なファッションデザイナーとして活躍していた山本寛斎さんが2020年7月21日(月)、急性骨髄性白血病のため亡くなりました。76歳でした。 山本さんは多くの賞を受け、ファッションデザイナーとして世界を股(また)にかけて活躍。 たびたびテレビにも出演するなど、お茶の間にも知られた有名デザイナーでした。 2010年に登場。「AE形」と名付けられた京成スカイライナー(画像:写真AC) 娘の山本未來さんも女優として活躍しており、たびたび親子共演もあり、テレビ画面を通じて仲むつまじいことでも有名です。 ファッションデザイナーの山本さんですから、手がけているのは基本的に“服”です。 しかし、卓抜したセンスを生かしてファッション以外の分野、しかもファッションとは縁の遠い分野でも才能を発揮していました。 2010年デビューの「スカイライナー」をデザイン 山本さんが手がけた異色の分野、それが鉄道車両のデザインです。 在りし日の山本寛斎さん(画像:キョードーメディアス) 山本さんがデザインを担当した鉄道車両は、東京と成田空港を結ぶ京成電鉄の特急列車です。 京成電鉄の特急列車は、代々「スカイライナー」を名乗っています。 山本さんが手がけたスカイライナーは「AE形」と呼ばれる車両で、2010(平成22)年にデビューしています。 それまでのスカイライナーは、白色をベースに赤と青のラインが入ったカラーリングでした。 一方、山本さんがデザインしたAE形は、それまでのカラーリングからガラリと雰囲気を一新させています。 白をベースにウインドブルーと呼ばれる藍色を使用。 藍色はラインのような帯状に使うのではなく、先頭車両では全面的に使用されています。 京成電鉄が社運をかけた「AE形」 これまでにない大胆な配色は、鉄道ファンを驚かせるだけではなく、沿線住民にも大きなインパクトを与えました。 京成電鉄のイメージが、山本さんのデザインしたAE形によって大きく変わったのです。 京成スカイライナー(画像:小川裕夫) AE形は、京成電鉄が社運をかけて開発した新型特急車両でした。 そうした事情もあり、山本さんもAE形のデザインを考えるにあたり、長い時間を費やしてさまざまなデザイン案を考えたようです。 他者との熾烈な争いが生んだ最高時速他者との熾烈な争いが生んだ最高時速 苦心の末に生まれたAE形は、素晴らしい車両に仕上がりました。 そのため、鉄道業界のみならず広く評判を呼ぶことになります。 デビューした2010年には、グッドデザイン賞を受けました。 2011年には鉄道愛好家で組織されている鉄道友の会から、毎年優れた車両に贈っているブルーリボン賞を獲得します。 鉄道友の会は愛好家団体ですが、国鉄の元副総裁である天坊裕彦さん、JR東海の元社長でもある須田寛さんなどが会長を務めたこともある権威ある団体です。 山本さんがデザインしたAE形は、最高時速が160km。 在来線の特急列車では、かなりのスピードを出せます。 これは、成田空港駅へのアクセスで京成電鉄がJRと熾烈(しれつ)な争いをしているからです。 夕焼けに向かうスカイライナー(画像:写真AC) また、近年はバスとの競争も激しくなっています。 そうした競争を勝ち抜くため、AE形は車内がゆっくりとくつろげる空間を実現。 これは、体の大きな外国人がリラックスして乗車できることに配慮して設計されているからです。 またそれまでの成田空港は、都心から遠いと思われがちでした。 AE形は、日暮里お駅から成田空港まで最速で36分という所要時間もウリにしています。 AE形の登場によって、成田空港は一気に近くなったのです。 鉄道の「門外漢」による傑作 AE形がデビューした頃は、今ほど格安航空会社(LCC)が身近ではありませんでした。 しかし歳月とともにLCCを利用する旅行者が増え、成田空港に向かうスカイライナーも盛況になりました。 それと同時に訪日外国人観光客も増えているため、外国人にもおなじみの鉄道になりました。 また、山本さんはスカイライナーの車両デザインのみならず、新ロゴマークや京成電鉄職員の制服も同時に手がけています。 在りし日の山本寛斎さん(画像:キョードーメディアス) 山本さんはあくまでもファッションデザイナーであり、鉄道の「門外漢」でした。 鉄道車両のデザインを手がけたのは京成が最初で、そして残念ながら最後になっています。 しかし、山本さんの卓抜した才能により素晴らしい車両が生まれ、それらは多くのデザイナーの手本になっています。 AE形が登場から10年が経過していますが、その輝きは失われていません。いまだ人気の高い車両として、多くの人に愛されています。
- 乗り物