水上バスで隅田川・荒川をめぐる「いちにちゆらり旅」体験ルポ 都心で堪能する8時間35分の船旅とは(後編)

東京水辺ラインが運行する、隅田川から荒川、そして東京湾をへて再び隅田川にもどる周遊コース「いちにちゆらり旅」。同コースの体験した文筆家の広岡祐さんが詳細をリポートします。


乗船2時間、いよいよ東京湾へ

 東京都公園協会(新宿区歌舞伎町)が運営する東京水辺ラインの水上バス周遊コース「いちにちゆらり旅」。

 隅田川から荒川、そして東京湾をへて再び隅田川に戻る、知る人ぞ知る長距離航路です。全行程を乗り通すと、何と100㎞以上。8時間35分という乗船時間は、竹芝桟橋から伊豆大島までの客船の船旅に匹敵します。

 筆者(広岡祐。文筆家、社会科教師)は2020年、コロナ禍で運休が続いていたこのルートが久しぶりに運行された際に乗船しました。今回は後半の旅程を紹介します。

※ ※ ※

 乗船した水上バス「あじさい」は、隅田川から新河岸川に立ち寄り、岩淵水門を抜けて荒川に入りました。岩淵リバーステーション(北区志茂)の出発は定刻の11時12分。乗船から2時間、いよいよ船は東京湾を目指します。

荒川河川敷の眺め(画像:広岡祐)



 荒川に入ってまず気がつくのが、川幅の広さ。流れの幅だけでも200mはありそうです。両岸の河川敷も広いため、架かっている橋はどれも隅田川より長い印象です。空も広く、雄大な眺めが続きます。 

 この川は日本の近代史上、空前の大工事で誕生した人工河川なのでした。

難工事・荒川放水路の開削

 奥秩父を源流に持つ荒川は、その名の通り古来幾度となく洪水を繰り返してきた暴れ川です。そして今回、岩淵水門までさかのぼってきた隅田川は、江戸時代の河道付け替えで、荒川の下流部となった部分なのでした。

 江戸時代が終わり、首都東京は人口が急増。洪水の被害は今まで以上に拡大します。1910(明治43)年夏の台風では、東日本を中心に大水害が発生し、川沿いに市街地と工場地帯が密集していた荒川下流部でも大きな被害が広がりました。

 政府の設けた臨時治水委員会は、全国の河川改修と砂防計画を決議。荒川では1911年から新たな放水路の開削に着手します。東京湾までは22km。東京の土木工事としては、大正期最大のものでした。

荒川を下る。進行方向にスカイツリーが小さく見える(画像:広岡祐)



 敷地の買収から堰堤(えんてい。河川の水をせき止め土砂災害を防ぐ構造物)の構築、浚渫(しゅんせつ。川底の土砂を取り除くこと)と工事内容は膨大で、用地買収は1300世帯に及びました。放水路の建設で分断された綾瀬川、中川などの新流路建設と、水門築造も同時に行われています。

 関東大震災の被害や、第1次世界大戦にともなう物価高騰などで工事は困難を極め、完成は予定を大幅に超過した1930(昭和5)年のこと。工期は20年、のべ300万人を動員した大事業でした。

荒川河口部から東京湾へ

 気持ちのいい川風を浴びながら荒川を下り、いよいよ東京湾へ。葛西臨海公園に到着しました。東京ディズニーランドのお城がわずかに見えます。乗船から3時間40分。船室に降りてお昼ご飯を食べることにします。

葛西臨海公園に到着(画像:広岡祐)



「あじさい」は江東区新木場を右手に、砂町南運河を通って東京湾を進みます。深川の木場から移転した施設で、かつては貯木場いっぱいに浮かんだ丸太を見ることができました。東京ゲートブリッジ(同区若洲、2012年開通)が、恐竜のような姿を見せています。

 お台場に近づくと、新設された東京国際クルーズターミナル(同区青海)に停泊中の客船・にっぽん丸(2万1903t)を見ることができました。2020年7月に外国船を迎えてオープンする予定でしたが、昨今の情勢で延期となってしまいました。

 すぐとなりには船の科学館(品川区東八潮)が見え、まるで豪華客船が2隻並んでいるようです。かつて子どもたちに大人気だった船の科学館、本館展示は休止中でしたが、10万t級の客船を模したという純白の建物は今なお魅力的です。

 13時45分、お台場到着。家族連れを中心に、新しい乗客が乗り込んできました。

 レインボーブリッジをくぐると、1991(平成3)年に竣工した晴海客船ターミナル(中央区晴海)が見えてきます。ここは気の毒な施設で、2年後に完成したレインボーブリッジの内側にあったため、メガクルーズ船と呼ばれる新時代の巨大な客船が通過できず、その役割を前述の東京国際クルーズターミナルに譲ることになったのでした。

 さらにその背後に建つ建物は、2020東京五輪・パラリンピックの選手村として建設されたものです。

ふたたび隅田川へ

 浜離宮庭園(中央区)の発着場を通過し、「あじさい」は隅田川へと入ります。左手に旧築地市場の遺構が見えます。

 隅田川下流域は、21世紀に入って大きく変貌しました。川沿いに立地していた工場や倉庫が次々と移転し、高層マンションが林立する街並みとなったのです。

 それでも川に架かる戦前の名橋は健在で、重要文化財に指定されている勝鬨橋(かちどきばし、1940年)・永代橋(1926年)・清洲橋(1928年)など、水上バスでは川面からその美しい姿を楽しむことができます。

永代橋。桁下が低く、通過時にはスリルがある(画像:広岡祐)



 14時45分、吾妻橋をくぐって、墨田区役所前発着場(同区吾妻橋)に戻ってきました。乗客のほとんどは下船し、船内に残ったのは乗り通し客を含めて数人ですが、新たなカップルが乗船してきました。

「あじさい」は再び隅田川をさかのぼり、新河岸川の小豆沢発着所(板橋区小豆沢)まで往復します。この最後の行程は別料金になります。船内に戻り、2度目の風景を楽しみながら1杯やることにしました。

文庫本と昼寝、至福のひととき

 出発から5時間半、ほとんど立って写真を撮影していたのですが、風を受ける開放的なデッキだったせいか、あるいは気候のちょうどよい日だったせいか、不思議なほど疲労感はありませんでした。

 ソーシャルディスタンスが徹底していて、船内の定員を大幅に抑えていたこともあるのでしょう。運行関係者のご苦労がしのばれます。

 ほろよい気分で船内の時間を過ごし、文庫本のページを開き、気持ちよく昼寝も楽しみながらさらに3時間。至福のひとときになりました。

撮影を終えて一息(画像:広岡祐)



 17時45分、総延長100㎞を越える東京の船旅が終わりました。

 東京の街を水面の視点から再発見した、小さな(大きな?) 1日となりました。 コロナ禍が収束し、またこのユニークな小旅行が楽しめる日が来ますように。


【画像】都心の「水上旅」ルートを時系列で見る(20枚)

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