日本酒「販売量減でも、飲む機会は首都圏で3割アップ」 背景にイメージの変化
アルコール飲料のなかでも販売量が著しく減少している日本酒。そのような日本酒が東京などの首都圏で飲まれているといいます。いったいなぜでしょうか。日本酒をワイングラスで楽しむトレンド 飲酒人口の減少や健康志向、チューハイやワインなどの他アルコール飲料の人気に押されて、日本酒(清酒)の消費が落ち込んでいます。 女性が日本酒に注目している(画像:写真AC) 日本酒業界の監督官庁である国税庁の「酒のしおり」によると、その販売量は二十数年間で半分以下になっていることが分かります。 日本酒の販売量のデータ(画像:国税庁「酒のしおり」のデータを元にULM編集部で作成) その一方、東京や神奈川、千葉、埼玉といった首都圏の飲食店では日本酒が飲まれる機会が増えているようです。いったいなぜでしょうか。 払しょくされつつある過去のイメージ 調査会社「NPD Japan(エヌピーディー・ジャパン)」(港区高輪)のシニアアナリストで、外食産業に詳しい東さやかさんによると、首都圏で2017年に日本酒が飲まれた機会は前年と比べ約27%増えたとのこと。これは近年ブームと言われるサワーやワインの伸びを上回っており、特に和風居酒屋やバーなどでの伸びが顕著だといいます。 「その理由は、若い蔵元が同世代の女性を意識した商品作りやプロモーション活動を積極的に行っているためです。日本酒を飲むシーンや世代が変わり、日本酒をワイングラスで楽しめる店が増えています。もはや『年配者の飲み物』といったイメージはありません。その注目度合いは、国際的なワインコンクールに今年新たに日本酒部門が創設されたことからも分かります」(東さん) また、清酒大手の宝酒造(京都市伏見区)によると、「若い女性を中心に日本の国酒である日本酒を外国人に説明できないと『恥ずかしい』『少しずつ勉強しよう』という意識が高まってきている」とのことです。 日本酒をワイングラスやシャンパングラスで楽しめる店も都内に増えている(画像:写真AC) インターネットを使った市場調査を手掛ける「Cross Marketing(クロス・マーケティング)」(新宿区西新宿)が2016年3月に行った調査でも、20代女性の40%以上が日本酒を「飲んでみたいと思う」と肯定的な印象を持っていることが明らかになっています。 若者は自宅以外でお酒を飲む傾向がある若者は自宅以外でお酒を飲む傾向がある 東さんによると、現在女性に人気の日本酒は「スパークリング(発泡)タイプの商品」といいます。 先述の宝酒造は2011年から、スパークリング清酒「澪(みお)」を発売し、シリーズ化を押しすすめています。 「若年層を中心に『おしゃれ』で『飲みやすい』ことが評価され、定着しています」(同社) 宝酒造が2011年から発売している「澪」シリーズ(画像:宝酒造) 同社は「澪」を重点商品として育成することで、スパークリング清酒の市場拡大を目指すといいます。「澪」や「澪」<DRY>のほか、「澪」<GOLD>や「澪」<WHITE>といった限定商品を展開することで、ブランド全体の活性化につなげていく構えです。 今後は、LINEやInstagramなどのSNSを使って、「澪」に合う飲用シーンや食との相性を訴求していくといいます。 スパークリング清酒を飲んだことがある割合(画像:宝酒造「日本酒に関する意識調査」のデータをULM編集部で加工) 全国の蔵元からなる日本酒造組合中央会(港区西新橋)が2017年、全国3000人を対象に行った調査では、若年層は中~高齢層に比べ自宅以外で飲酒する頻度が高いことが分かりました。 同社もその追い風を受ける格好で、新商品の「澪」<BRUT辛口>を飲食店で先行発売し、飲食店で「澪」を飲む体験を積極的に押し出すことで、商品の認知につなげていくといいます。 一ノ蔵が展開するスパークリング清酒「すず音」(画像:一ノ蔵) 1998(平成10)年からスパークリング清酒「すず音」を展開する一ノ蔵(宮城県大崎市)も次のように話します。 「近年の試飲会では、女性がさまざまなお酒を積極的に試されており、以前に比べ女性の日本酒ファンは増えていると感じます。また、SNSで女性が日本酒の情報を発信するようになり、日本酒のイメージが変わってきました」(一ノ蔵) 同社は今後、積極的な新商品開発を行っていくとのことです。 減少する販売数を背景に、日本酒メーカーがどのような展開を見せていくか、今後が期待されます。
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