列車風から排水対策まで 都営大江戸線を支える「スゴい技術力」をご存じか
東京環状線から一転、大江戸線へ 2020年、全線開業から20周年を迎えた都営大江戸線。部分開業以来、長らく「12号線」と呼ばれていた名称は、路線名称は東京環状線、愛称は「ゆめもぐら」となる予定でした。 しかし石原慎太郎都知事(当時)が「寝てても何回まわっても同じところに戻ってくるのを環状線っていうんだよ」と待ったをかけたため、公募で第2位だった「大江戸線」に決まりました。 当時は大江戸という響きに仰々しいイメージがあったものの、今ではすっかり定着しています。それにしても、「ゆめもぐらにならなくて本当によかった」と胸をなでおろした人は筆者だけではないでしょう。 都営大江戸線の床面案内シート(画像:写真AC) 東京のさまざまな街をつなぐ大江戸線は、すっかり都民の路線として愛されています。中でも、新宿区内の牛込柳町駅や牛込神楽坂駅付近は都電が廃止されて以来、都心にもかかわらず駅のない「陸の孤島」状態でしたが、開通で状況は一変。最近では駅周辺にマンションも目立つようになっています。 最も深い場所にある六本木駅 さてこの大江戸線の最大の特徴といえば、多くの駅で地下深くを走っていることでしょう。 六本木駅の入り口(画像:写真AC) 中でも、六本木駅は日本でももっとも深い場所にある地下鉄駅です。この駅のホームは2層構造になっており、下の階にある大門・両国方面のホームは地下42.3m。改札を通り、エスカレーターなら3回、エレベーターなら2回の乗り継ぎが必要です。 東京に住む人なら分かると思いますが、この上り下りだけで「一仕事」を成し遂げたような気分になります。 「列車風」軽減のために「列車風」軽減のために そんな大江戸線ですが、深さの理由は、計画が決まり工事が始まったのがほかの地下鉄よりも後だったからです。 地下鉄路線図(画像:東京都交通局) 工事にあたってはリニアモーター方式の小型車両を導入。小さなトンネル工事で、従来より急勾配や急カーブでも走行できるように建設されました。 また、新たなスタイルゆえに生じる問題にも対処が行われました。 想定されたひとつが、列車が走行することで起こる「列車風」です。構造上、風が通り抜ける場所がないため、列車が通過するだけでホームや階段に強い風圧がかかり乗客が転んだりしてしまう可能性もありました。 そこで実際の建設にあたって、列車風がどのように発生し、周囲に影響を及ぼすかを都営新宿線を使って実測を行いました。 これにより、列車が走行すると前方の空気が圧縮され、進行方向の駅に空気が流れること、逆方向の駅の空気を吸い込むことがわかったのです。 そこで日本鉄道技術協会(江東区亀戸)に委託し、「大江戸線環境解析プロジェクト」としてソフトウエア「SEAS」を開発。列車風の発生予測を立て、駅構内の施設配置の見直しが行われました。 SEASは温度変化なども取り込んで風の発生を予測できるソフトウエアでしたが、さらに「New-SEAS」も開発され、大江戸線以外の路線計画でも使用されました。 ちなみに、New-SEASは走行車両や人の乗降などによって発生する熱変化もシミュレーションし、最適な空調を予測できる優れものです。 排水にも高度な技術が排水にも高度な技術が さらに列車風を軽減するため、大江戸線は列車の進行方向へと送風する換気装置をトンネル内に設置しています。 またこれだけ駅が深い位置にあると気になるのは、トンネル内に染みだしてくる地下水や、駅の水道、トイレの排水への対応です。もちろん、下水管ははるかに上を通っているため、公共下水道への排水はポンプを設置して行われています。 このポンプですが、駅に配置するだけでは勾配のあるトンネル内にたまった水を排出することができません。そこで、トンネルの途中にある線路の下に中間ポンプ所と呼ばれる施設が配置し、対応しています。 2015年に出版された『大江戸線建設物語―地下鉄のつくり方 計画から開業まで』(画像:成山堂書店) このように、大江戸線は単に地下深くを掘り進んでレールを設置したのではなく、その維持管理にも高度な技術が使われていたのです。 今や大江戸線は便利なだけでなく、遅延も少ない極めて信頼性の高い路線となりました。それを実現した技術力には敬意を表さざるをえません。
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