東京はなぜ「怪談」イベントが盛んなのか? トークライブからツアーまで、その最前線に迫る
根強い人気を誇る「怪談」。近年では、怪談ライブやツアーも数多く開催されています。怪談が娯楽コンテンツとして注目を集め続ける背景には、どのような理由があるのでしょうか。レジャー市場の調査分析を行う文殊リサーチワークスの中村圭さんが解説します。怪談ブームの変遷 近年、都内で怪談ライブや怪談ツアーが増加しています。2019年も7月に入るとさまざまなライブやツアーが開催されます。 怪談人気は根強い。写真はイメージ(画像:写真AC) 怪談は古くから存在しているコンテンツで、江戸時代には落語や講談などでさまざまな演目が登場し、庶民の身近なエンターテインメントとして定着してきました。古典怪談は現在も変わらず根強い人気があります。 近年の新しい流れとして1990年代から身近でリアルな怪異体験を扱った怪談が多く現れ、『新耳袋 現代百物語』(木原浩勝・中山市朗、角川書店)シリーズや『「超」怖い話』(加藤一他、竹書房)シリーズなどの怪談本が人気となり、これらの怪談を総称して「実話怪談」と呼ばれるカテゴリーが確立されました。 2000年代からはインターネットの普及に伴い、怪談や心霊スポットをまとめた個人サイトが数多く登場し、都市伝説のブームとも重複して拡大していきました。いわゆる怪談ブームの到来です。 2010年前後には「ねとらじ」などのインターネットラジオやYouTube Live、ニコニコ生放送などで怪談を語る怪談ラジオが多数放送され、怪談ラジオで人気を得たネットDJが中心となってリアルで怪談オフ会、百物語会を行うようになりました。 また深夜放送や地方局での怪談番組で怪談を語る「怪談師」が登場し、怪談バブルと呼ばれる時代を迎えます。 「自分も体験するかも」、短くて身近な実録怪談が人気 今人気のある実話怪談は、自分もしくは友人・家族・同僚など実在する人物の実際の体験(フェイクも含む)を題材にしたもので、夜寝ている時、仕事・学校の帰り道、エレベーターの中、トイレの中など、ありふれた日常空間が舞台になっています。 そのため自分も同じような体験をするかもしれないという臨場感があり、恐怖が日常生活まで持続する効果があります。 また、怪異体験自体に興味を持たれているわけで、小説のように文学的な文脈が必ずしも必要とはされず、比較的誰でも投稿しやすく、参加の敷居が低くなっています。そのためネット上では次から次に新しいコンテンツが供給されている状況です。 短いストーリーが多いことからちょっとした時間で気軽に楽しめることも魅力で、比較的客層を選ばないこともあって、怪談本は駅の売店やコンビニなど書籍の販売スペースが限られる店舗でも数冊陳列されています。 身近で手軽に楽しめる機会が多いといえるでしょう。このような状況から、コアファンからライトファンまで怪談のファンは裾野が広がり拡大しています。 都内で続々開催される怪談ライブ都内で続々開催される怪談ライブ 怪談ライブはライブハウスなどで怪談師が怪談を語る単発のトークライブ形式が一般的なものです。 都内では多彩な怪談イベントが開催されている。写真はイメージ(画像:写真AC) 語り部である怪談師は芸能人や実話怪談などの怪談作家、プロの怪談ユニット、怪談ラジオのDJや怪談サークルのメンバーの他、落語家や講談師が務めることもあります。人気のある怪談師のライブはチケットが早々に完売するほどの人気です。 その先駆的な存在で怪談ライブの人気の火付け役となったのが稲川淳二氏の「MYSTERY NIGHT TOUR 稲川淳二の怪談ナイト」です。同ツアーは2019年で27年連続の開催となり、7月~10月の4か月間、首都圏を中心に北海道から沖縄までほぼ全国をツアーします(料金前売り5500円、当日6000円)。 話す怪談は怖い話から感動できる話、笑える話と多種多様で、独特な語り口のファンも少なくありません。都内ではなかのZERO大ホール(8月10、11日)、メルパルクホール東京(9月28、29日)などで開催予定です。 また、『新耳袋』の著者のひとりである中山市朗氏は「中山市朗 Dark night 東京」(7月13日、新宿劇場パティオス、料金前売り4000円、当日4500円)などのライブを都内で開催します。 老舗怪談メールマガジン「逢魔が刻物語」を主催し、怪談本や怪談番組などマルチに活躍している雲谷斎氏は「TOKYO闇語りスペシャル」(6月15日、Naked Loft、料金前売り2500円、当日3000円)を開催しました。 また人気怪談ユニット怪談社も「実話語り 怪談師の夜 月」(7月14日、浅草東洋館、料金前売り3000円、当日3500円 ※前売り段階で当日分も完売)などのライブを開催予定。こちらは女性人気が高いことが特徴です。 ネットラジオやYouTubeなど自己表現しやすい環境の中、一般個人で怪談を発表している人も多く存在しています。そこからプロの怪談作家や怪談師になる人も出てきて、複数人で100人規模の怪談オフ会を開催することもあります。 怪談を活用したツアーも怪談を活用したツアーも 怪談ツアーは怪談に縁のある地に赴き、怪談師の怪談を聴きながら食事を楽しんだりするプランです。はとバスは2013年からコースに怪談バスツアーを加えています。2019年6月現在、コースは「講釈師と行く 夜の怪談クルーズツアー」、「お寺で聞く 怪談の夕べ」、「料亭「花蝶」で聞く 迫力の立体怪談」の3種類。 怪談を活用するツアーが増えている。写真はイメージ(画像:写真AC) クルーズツアー(8月7~10日、12日、14日、25日、料金大人9980円、子ども8980円)は都内の怪談に縁のあるスポットを巡り、幽霊画を鑑賞、日本橋からの夜の東京湾クルーズで講釈師による怪談ライブを楽しむ約7時間のコースとなっています。 怪談を活用したツアーははとバスだけではありません。 渋谷の街を盛り上げることを目的として、パナソニック、ロフトワーク、カフェ・カンパニーの3社が立ち上げた複合施設「100BANCH」は、プログラムのひとつとして「世にも奇妙な怪談ツアー」(渋谷区内6月~7月、料金1800円)を企画。 同ツアーは渋谷の街をツアーガイドと共に巡り、ポイント毎にそこで起きた言い伝えや怪談を聴くことができます。 ホラーの観光資源化が進む このようなツアーが都内で現れてきている背景のひとつには、都内におけるシティーツーリズムの活発化が挙げられます。 現在都内には国内外から大勢の観光客が流入しており、新しい体験型シティーツーリズムが求められています。怪談は大抵人がいるところで発生するもので、大都市であるほど何かしらの怪談が存在しており、コンテンツには事欠きません。 ホラーやミステリーはファンがその舞台となる土地に強く興味を持つため、観光資源なりやすい傾向があります。これらのコンテンツは比較的性別、年齢を選ばないので、幅広い層に訴求することができるでしょう。 また、さまざまな分野から怪談師が排出されて選択肢が増え、比較的ツアーなどの企画がイメージしやすいことも挙げられます。 ホラーブームを追い風に今後もさまざまなイベントの創出が期待されるでしょう。
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