「そごう・西武」をセブン&アイが売却――いま決まっていること・今後予想されること

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「そごう・西武」をセブン&アイが売却――いま決まっていること・今後予想されること

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若杉優貴

都市商業研究所

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セブン&アイHD傘下の大手百貨店「そごう・西武」が売却され、米ファンド×ヨドバシ連合が全株式を取得しました。そのため近い将来「そごう・西武」旗艦店へのヨドバシカメラの出店が見込まれています。サービスや店舗構成はのように変わっていくと予想されるのでしょうか。都市商業研究所の若杉優貴さんが前後編に分けて解説します。

セブン&アイ傘下だった「そごう・西武」、売却でどう変わる?

 流通大手「セブン&アイHD」(本社:東京都千代田区)が、傘下に収めていた大手百貨店「そごう・西武」の全株式を、ソフトバンク系の投資ファンド「フォートレス・インベストメント・グループ」(本社:米国)に約2,000億円超で売却することを2022年11月11日に発表しました。

 「フォートレス・インベストメント・グループ」は「そごう・西武」買収のパートナーとしてヨドバシカメラの持ち株会社「ヨドバシHD」(本社:東京都新宿区)と提携、同社も買収するための資金を拠出しています。

>>関連記事:デパートから専門店街に生まれ変わる「立川高島屋」――テナント構成はどうなる?

「そごう・西武」買収のキーマンとなったヨドバシカメラ。 (ヨドバシカメラ マルチメディア新宿西口本店)(画像:若杉優貴)



 もともと「そごう」は1830年に大坂・難波で古着商「大和屋」として創業、「西武百貨店」は1940年に東京・池袋で武蔵野鉄道(のちの西武鉄道)傘下の百貨店「武蔵野デパート」として創業したことを起源としており、どちらも日本を代表する老舗百貨店でした。

 そごうは2000年の経営破綻により西武百貨店の支援のもとで経営再建が進められ、2003年にそごうと西武百貨店の中間持株会者「ミレニアムリテイリング」(のちの「そごう・西武」)が発足、両社は経営統合することとなりました。当初はかつての親会社であった西武鉄道グループとの接近も見られましたが、2006年に野村グループが保有するミレニアムリテイリング株式をセブン&アイHDが約2000億円超で取得するかたちで大手流通グループの一員となりました。

 「そごう・西武」の店舗は、国内百貨店のなかでも有数の売上を誇る旗艦店「西武池袋本店」、「そごう横浜店」、「そごう千葉店」をはじめ全国各地に10店舗、それに加えて小型店が3店、海外FC店が約40店弱ありますが、これらは今後どうなるのでしょうか。

 今回は、2回にわたって「今の段階で分かっていること」と「今後の予想される動き」をまとめていきます。

西武池袋本店。西武百貨店の創業店にして本店。(画像:若杉優貴)

1.「セブンアイとの提携サービス」の多くが消える可能性

 そごう・西武はセブン&アイ入り後に店舗網のさらなる縮小を伴う合理化(28店舗→10店舗)を行いつつ、統合直後の2007年にはセブン&アイのプライベートブランド「セブンプレミアム」と電子マネー「nanaco」を導入、さらに2010年代以降は総合スーパー「イトーヨーカドー」との共同アパレル開発、セブン&アイの店舗融合型通販サイト「オムニセブン」への参加など、グループによるシナジー効果を狙ったさまざまな経営改革をおこなってきました。

 今回のセブン&アイ離脱によって、消費者目線でも分かる「すぐに変わるであろうこと」は「セブンプレミアムの販売停止」などといった「セブン&アイとの提携サービス・商品の消滅」でしょう。

 そごう・西武の一部店舗の直営売場では、売却を前にすでに(2022年11月時点で)セブンプレミアムの取り扱いが停止されており、今後も段階的に縮小していくものとみられます。なお、かつては食品以外にもセブン&アイグループのスーパー「イトーヨーカドー」と共同開発したアパレルブランド「セットプルミエ」などがありましたが、こちらは2017年までに廃止されており、現在は販売されていません。

 また、セブン&アイは傘下各社による総合通販サイト「オムニセブン」について、そごう・西武以外も含めて2023年1月に一旦運用を終了することを発表しています。そのため、現在のような「イトーヨーカドーとそごう・西武の商品を同じサイトで比較・購入することができる」という状況も変わることになるでしょう。

そごうの店頭に掲げられていた「オムニセブン」のPR看板。 百貨店らしい装飾に囲まれたセブン&アイの広告は「統合の象徴」の1つだったといえます。(そごう川口店、閉店済み)(画像:若杉優貴)

 このほか、そごう・西武の店舗では、食品売場に西武百貨店系列だった高級スーパー「ザ・ガーデン自由が丘」を導入しているところが複数みられます。

 ザ・ガーデン自由が丘を運営する「シェルガーデン」は長らく「そごう・西武」の子会社でしたが、2020年に株式の9割をセブン&アイHDが取得(残る1割は「そごう・西武」が保有継続)して子会社化。今年(2022年)10月にはヨークフーズ(旧・食品館イトーヨーカドー)とザ・ガーデンの融合店舗が生まれるなど、セブン&アイ色を強めています。そのため、近い将来にはセブンプレミアムの取り扱い中止などのみならず「デパ地下の構成自体が大きく変わることになる」という可能性もあります。

多くの「そごう・西武」食品館には食品スーパー「ザ・ガーデン自由が丘」が出店。(そごう柏店、閉店済み) 同店は長らく西武百貨店系でしたが、2020年4月よりセブン&アイHD子会社に。(画像:若杉優貴)

2.「ロフト」はそごう・西武から切り離される

 西武百貨店・セゾングループ時代から傘下となっている大手雑貨店「ロフト」は、セブン&アイが株式を取得し、「そごう・西武」から切り離されます。

 そごう・西武の多くの店舗にはテナントとしてロフトが出店していますが、すぐに撤退などならずとも、将来的には「ロフト売場の縮小、もしくは店舗移転」などといった動きがあるかも知れません。

西武百貨店とともに歩んできた大手雑貨店「ロフト」は現在も「そごう・西武」の多くの店舗に入居しています。(西武所沢店) 今後セブン&アイが株式を取得し、そごう・西武から切り離されます。(画像:若杉優貴)

3.一部店舗に「ヨドバシカメラ」が出店

 今回の買収にあたって、ヨドバシHDはそごう・西武の一部店舗の不動産を取得、百貨店内に同社の家電量販店「ヨドバシカメラ」を出店するとしており、さらに一部では「ヨドバシカメラは首都圏旗艦店の下層階に出店したい意向」であると報道されています。そのため、SNS上では「池袋西武のデパ地下が無くなりそうで悲しい!」「コスメは何処で買えばいいの?」といった声も聞かれます。

ヨドバシカメラの出店候補になっているとみられる「そごう千葉店」。 下層階には写真に写る「ルイ・ヴィトン」などさまざまな高級ブランドが出店しています。(画像:若杉優貴)

 現在、そごう・西武の旗艦店各店の下層階は、集客の要である食品館(デパ地下)や化粧品(いわゆるデパコス)売場、さらに売上の要である高級ブランドショップで占められています。

 「西武池袋店」や「そごう千葉店」はいずれも国内百貨店売上の上位に位置するほどの店舗であり、仮に下層階の百貨店売場を閉鎖するとなれば、そごう・西武全体の業績にも大きく影響を及ぼすことになるでしょう。
そのため、例えヨドバシカメラが下層階に出店したいという意向を示しているといえども、現時点では「デパ地下やデパコスの売場が全て無くなる可能性が高い」とは言い切れません。

 ヨドバシHDは、そごう・西武の具体的な改装計画などについては「詳細が決まり次第適宜発表をさせて頂く」と発表するにとどまっています。今後、業績への影響や消費者の声なども踏まえたうえで、店舗の将来像がかたち作られていくことになるでしょう。
次回は、こうした「そごう・西武各店舗の将来像」について探っていきたいと思います。

【後編に続きます】(後日公開予定)

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