ディスカウント店「ドン・キホーテ」が由緒正しい「八重洲地下街」に出店できた理由
コロナ禍でテナント撤退が相次ぐ東京駅構内の八重洲地下街。そんななか、ドン・キホーテが同所に先日オープン。いったいなぜでしょうか。都市商業研究所の若杉優貴さんが解説します。おなじみの歌とペンギンの看板 コロナ禍における企業のリモートワーク導入で、人の姿がまばらになった東京駅周辺。そんななか、東京駅近くにありそうでなかったあの大手チェーン店が2021年5月21日(金)、2店舗も出店。コロナ禍にもかかわらず店舗網を拡大する動きが話題となっています。 出店場所は、東京駅と直結する八重洲地下街の東京駅八重洲中央口や大丸東京店を出てすぐのところ。地下街のメインストリートであるメインアベニューを曲がると、おなじみの歌とペンギンの看板がわれわれを迎えてくれます。 そう、新たに地下街に出店した店舗とは、あのディスカウントストア「ドン・キホーテ」(以下、ドンキ)なのです。 旅行気分が味わえる店づくり 東京都内各地で見かけるドンキですが、東京駅前に出店するのは史上初。5月21日に開店した2店舗はそれぞれが向かい合うかたちで出店。2店といっても、店舗面積は合わせて169平方メートルと一般のドンキよりも小さな規模で、両店とも異なる商品を販売しており、それぞれ ・お菓子ドンキ ・お酒ドンキ という、のれんが掲げられています。 「お菓子ドンキ」の入り口には世界各地の輸入菓子が広がり、入り口からちょっとした旅行気分に(画像:パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス) ドン・キホーテを運営するパン・パシフィック・インターナショナルホールディングス(目黒区青葉台)は、この新業態について「巣ごもりにピッタリな『めっちゃ面白いドンキ』」であると説明しています。 その面白さを実感するために店に足を運ぶと、店内には狭いながらも一般のスーパーではあまり見かけない珍しい商品――例えば、お菓子ドンキでは輸入菓子やご当地おつまみが、お酒ドンキでは輸入酒やクラフトビールが充実しているほか、何が出てくるかわからない「ミステリースパークリングワインBOX」や「ウイスキーガチャガチャ」などもありました。コロナ禍のなかちょっとした面白さに加えて、旅行気分も味わうことができる店づくりであることが伺えます。 ちなみに、店内で気軽に旅行気分が味わえる店づくりは海外のドンキ店舗でも見られ、その手法を逆輸入したといえそうです。 八重洲地下街の「救世主」になるか八重洲地下街の「救世主」になるか なぜコロナ禍のなか、ドン・キホーテは東京駅前に出店できたのでしょうか。 東京駅(画像:若杉優貴) ドンキが出店した八重洲地下街が開業したのは1965(昭和40)年6月のこと。東京駅直結という好立地であり、開業直後から多くの客でにぎわいを見せる人気ショッピングスポットとなりました。 この八重洲地下街の一番の特徴は、 ・立地の良さ ・店舗数の多さ です。 店舗面積は約1万5600平方メートル(東京ドームの3分の1)、店舗数は約180店と都内の地下街では最大となっています。 地下街に直結する大手百貨店の大丸が主要株主ということもあってか、駅ビルやファッションビルで見られるようなアパレル店や雑貨店なども多く出店。特にドンキが出店した東京駅八重洲中央口近くは、これまであまり長期の空き店舗が生まれることはありませんでした。 有名チェーン店が相次ぎ撤退 一方、来街者の多くがビジネスや旅行・観光客であったため、新型コロナ感染拡大の影響は大きく、2020年には「45デジタルコンビニ」や「サンドッグイン神戸屋」などが、2021年に入ってからも「Soup Stock Tokyo」「上島珈琲店」「CAFE de CRIE」「杵屋そじ坊」など有名チェーン店が相次ぎ撤退。 新規出店する店舗が全くない訳ではありませんでしたが、地下街の規模の大きさ故に、その多くが長期間空き店舗となっており、後継店舗の誘致が進んでいない状況でした。 お菓子ドンキが出店した区画はレディスアパレル「AS KNOW AS PINKY」が、お酒ドンキが出店する区画は老舗喫茶店「ティールームアポロ」が営業していましたが、いずれもコロナ禍のなか閉店。 その後は催事スペース(期間限定で「ORIHICA」のポップアップ・ハーフプライス業態「ORIHICA HALF MARKET」などが出店)に転用されていました。 「お菓子ドンキ」には昆虫フードも(画像:パン・パシフィック・インターナショナルホールディングス) 今回ドンキが出店した場所はこれまで空き店舗が出にくいような好立地であり、コロナ禍でなければ「向かい合わせ2店舗」という好条件で出店することは難しい場所であったといえます。 都心店はますます増えるか都心店はますます増えるか ドン・キホーテといえば渋谷駅前のパチンコ店跡に出店したMEGAドン・キホーテ渋谷本店(渋谷区宇田川町)のように、これまでも空き店舗を利用するかたちでの好立地への出店を得意としてきました。 特に2020年以降は東京駅前・八重洲地下街のように、コロナ禍の影響を受けて空き店舗となった場所への出店が目立っています。 例えば4月には、下北沢駅から徒歩約3分の場所にあった下北沢最大のゲームセンター「エムエムランド」(2021年1月閉店)の跡に3フロアの大型店を出店。 下北沢では駅チカの大型ゲーセン跡がドンキに(画像:るた) 東京都心以外でも、2020年11月には千葉県柏市にある人気ショッピングセンター「セブンパークアリオ柏」館内の生活雑貨店跡に、2月には名古屋市の一等地・サカエにあった大型ファストファッション店の跡にも出店しています。 「時代の落とし子」の行方とは 一方でドン・キホーテといえば、業界ではその臨機応変さに加え、その経営判断の速さも有名です。それゆえ、短期間で店舗移転や統合となった例も少なくありません。 都内でも2017年2月に開店したドン・キホーテ神保町靖国通り店が約8か月後の同年10月に、2018年5月に開店したドン・キホーテ赤坂見附店が約9か月後の2019年2月に閉店。 目立つ立地だっただけに「開店したと思ったら閉店した」と話題を呼んだドン・キホーテ神保町靖国通り店。現在はカラオケとコンビニに(画像:若杉優貴) ドンキは店舗ごとに品ぞろえを変える「個店経営主義」も特徴であり、例えばこの赤坂見附店の閉店時には徒歩圏にあるドン・キホーテピカソ赤坂店の充実化を図るなど、同社が短期間のうちに臨機応変な対応を行うことで、 ・地域にあった店づくり ・店舗網づくり を行っていることが伺い知れます。 コロナ禍だからこそ生まれた「時代の落とし子」ともいえる八重洲地下街の小型ドンキ2店。コロナ禍が長引くなか、八重洲地下街以外にもエキチカ一等地でありながら空き店舗を抱える商業ビルや地下街は数多くあります。 小さなドンキが都内各地のターミナル駅チカに次々と増えていくことになるのか、はたまた再び都心一等地の家賃が高騰した際にはすぐに別の場所へと移転・統合することとなるのか――今後の動きが注目されます。 緊急事態宣言が延長されるなか、八重洲地下街は6月現在も新店舗の誘致が進んでおらず、空き店舗が20区画ほど残っています。今回出店した「お菓子」「お酒」に続いて、さらに専門店的かつユニークな品ぞろえを意識した「○○ドンキ」が地下街全体に広がったとしたらそれも面白いのですが、果たしてどうなるのでしょうか。
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