夜のバスも題材に 若者たちがいま「エモい短歌」にハマる理由

現在の短歌ブームの背景にあるもの。それはいったい何でしょう。コピーライターのカシハラヒデコさんが解説します。


口語を使った作品が人気

 五七五七七の5句31音からなる短歌は現在、文系サブカルの「定番趣味」といえるほど定着しています。例えば、2021年末の今野書店(杉並区西荻北)のベストセラー(12月12日付)では

・1位『あなたのための短歌集』木下龍也
・2位『開局70周年記念 TBSラジオ公式読本』武田砂鉄
・3位『郭公の巣』中村典子
・4位『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬
・5位『言葉を失ったあとで』信田さよ子

と、短歌集が1位に。また、ジュンク堂書店池袋本店(豊島区南池袋)の文芸文庫担当(11月29日付)では

・1位『同志少女よ、敵を撃て』逢坂冬馬
・2位『おおあんごう』加賀翔
・3位『あなたのための短歌集』木下龍也
・4位『山下智久写真集 CIRCLE』
・5位『100万回死んだねこ 覚え違いタイトル集』

と、3位にランクインしています。

 短歌は数年前からブームの兆しを見せていましたが、大ブレークは2021年から。ジュンク堂の文芸担当者はその理由について、

「書き手の年齢が下がっているのと、高尚なイメージがなくなってきたから」

と指摘します。

 学校で習った昔ながらの短歌ではなく、現在の主流は話し言葉をそのまま使った「現代短歌」。前出の『あなたのための短歌集』からいくつか挙げると、

「ふりむけば君しかいない夜のバスだから私はここで降りるね」
「もがくほどしずむかなしい海だから力を抜いて浮かんでいてね」

などが、いまどきなのです。

夜のバスのイメージ(画像:写真AC)



 さらに短文形式の短歌とツイッターの相性はとてもよく、「岡野大嗣(だいじ)さんや木下龍也さんなどの人気歌人はバズりやすい」(同担当者)のもブームをけん引する要素だといいます。

 たしかに、ツイッターで短歌に触れる人たちが急速に増えているのを実感します。数年前には、イラスト付き短歌がバズりました。

短歌は「イントロのない文学」

 また、現代短歌は短い言葉で恋愛などを追体験できるため、読者の共感を得やすい特徴もあります。身の回りで起こる等身大の姿が映し出されたり、心の琴線に触れる「はっ」とするような「エモさ」も見えたりします。

 短歌は言葉をそぎ落として作り、オチをはっきりと書きません。そのため、読む人が自由に解釈でき、いろいろと想像を膨らませられるのも醍醐味(だいごみ)です。

冬の海のイメージ(画像:写真AC)



 小説でも「エモさ」を感じるものはありますが、オチがはっきりしているため余韻に浸れません。一方、短歌は何度も読み返しても、そのたびに異なる感情を得られます。

 昨今のヒット曲にはイントロがほとんどなく、映画や動画でもすぐ本題に入るのが必須条件となっています。そういう意味では「イントロのない文学」の短歌がはやったのは、ある意味当然といえます。さらに、不況とコロナ禍で

・お金のかからない娯楽
・ひとりでできる芸術
・道具のいらない遊び

が、広まりやすい状況だったという事実も否めません。

メディアで盛り上がる短歌

 30年前にキャッチコピーブームがありましたが、広告の人気がなくなった現在、その席に短歌が座ったともいえ、ブームは必然だったといえるでしょう。

『出没!アド街ック天国』(テレビ東京系)ではかつて、特集した町のキャッチコピーを出演タレントに作らせるコーナーがありました。最近のNHKの街歩き番組には、キャッチコピーの代わりに短歌を作らせるコーナーが登場しています。これは驚きの類似性です。

カラフルな石の数々(画像:写真AC)



 もともと言葉遊びに夢中になりやすい、言葉の奥行きに見果てぬ可能性を求めたい国民性があるのかもしれません。さらに、世界には詩はあっても、短歌や俳句、川柳、都々逸などのバリエーションはありません。

 余談ですが、短歌ブームの次は自由度の高い川柳のブームが来ると考えられます。それも「現代川柳」。川柳といえばサラリーマン川柳がメジャーですが、現代川柳はもっと文学的。この潮流が徐々に高まっているのです。


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