「人の顔色なんて意味なくない?」 元ひきこもり店長が教える、ゆるゆる処世術【連載】東京・居場所さがし(8)

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「人の顔色なんて意味なくない?」 元ひきこもり店長が教える、ゆるゆる処世術【連載】東京・居場所さがし(8)

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いしいまき(漫画家、イラストレーター)

約1400万人もの人が住んでいるのに、ほとんど交わることのない東京は「孤独」を感じやすい街といえるでしょう。たったひとり暮らす大都会で、どうすれば自分の居場所を見つけられるのか。漫画家でイラストレーターのいしいまきさんが「脱ひとりぼっち」の方法を模索します。

「相手に嫌われるのでは」という不安

 例えば誰かと話をするとき、「これを言ったら嫌われてしまうのではないか」と言葉を飲み込んだり、「あのときのひと言で相手を不快にさせたのではないか」と後から思い悩んだりした経験、ありませんか?

 人との距離の取り方、ちょうどいい関係の築き方は、なかなか簡単ではありません。でも、あれこれ気を遣い過ぎて無理をするよりも、自分らしく自然に振る舞う方が結果として心地よい「居場所」を見つけることにつながるのかもしれない――。

 そんなことを思わせてくれる男性に出会いました。

※ ※ ※

 東京都心の繁華街から電車で30分弱。準急と各停だけが止まる郊外の駅近くに、小さなバーがあります。カウンターが5席、テーブルはふたつ。今回はこのバーの店長・ひかるさんのお話です。

 ひかるさんは現在32歳。もともと10年ほどデザイナーとして会社に勤めていたのですが、2019年8月にバーを開いたとのこと。

 筆者(いしいまき。漫画家、イラストレーター)は以前からツイッター上で存在を知っており、「大人がゆるく繋(つな)がれるバーをやっています」というプロフィル文やその来歴、発言を見るにつけ、なんだか面白そうな人だなと思っていました。

 なぜ彼は、デザイン会社を辞めて郊外でバーを開くことにしたのか? 居場所に関する彼の考えを知りたくて、今回インタビューさせてもらいました。

「『友達』は、あまり好きじゃない」

 バーに入るとひかるさんが笑顔で出迎えてくれました。

 店内は赤い照明やちょうちんが独特の雰囲気を醸し出しています。台湾の夜市のイメージでしょうか。

 駄菓子がテーブルに置いてあって、チャージ料を払うと食べ放題だそう。駄菓子をお客さんが他のお客さんにとってあげたり、懐かしさから会話のきっかけになったりしているようでした。店内のメニュー表もおしゃれで見やすく、さすがはプロのデザイナーという感じです。

 さてそんなメニュー表からチョコミントハイボールをオーダーし、お話を聞きます。

「『知らない人』と会うのが好き」。ひかるさんはそう言います。

「『友達』という関係があまり好きじゃないんですよね、小さい頃からのずっと仲良しの友達っていないです」。

 そんなひかるさんは、中学くらいまで引きこもりだったそう。

その後「人と関わりたい」思いが爆発

 明るくよく笑う今のひかるさんからはなかなか想像できないけれど、「友達か、無関心か」くらいしか関わり方の選択肢がない小中学校での生活は、ひかるさんの肌に合わなかったのかもしれません。

 けれどその後、原宿の専門学校に通うと、周りは面白い人であふれており、もっと人と関わりたいとの思いが爆発。一念発起し、人に声をかけまくるようになります。

「だから人はいくらでも性格を変えられると思っています」

 以来、人と人がつながっていくことに幸せを感じるようで、社会人になってからはイベント団体を立ち上げてバーベキューをしたり、フットサルをしたり、旅行したりと、いろんな人と関わる機会を作りました。

誰でもくつろげる自宅のような居場所

 このお店をつくったひとつのきっかけも、

「例えば家でひとりで映画を見るより、僕は誰かと見た方が面白いと思うんですよ。でも家の近所だけで探すと見つからない。だからツイッターとかで声かけをするんです」

「だけど知らない人に家の住所を知られたくはない(笑)。だから店という形にしてるんです」。

 なるほど、ひかるさんにとってお店とは、公開してもいい、誰でも来ていい自宅のような感覚なのですね。

ひかるさんにとって自分のバーは、誰でも来ていい自宅のような場所(いしいまきさん制作)



 お店はひかるさんにとって確かに居場所でしょう。しかし、皆が楽しそうに過ごしている店内を見ると、しっかりとお客さんにとっても居場所になっているなと見受けられました。

 それは彼自身の魅力によるものも大きいのかなと、話をしながら感じます。

 ひかるさんの考え方やお話は独特です。例えばあるお客さんはキャンプ好きで、火を見るのが好きだとひかるさんに語ったそうです。

「だから『火を見るのが好きならコンロの火を見るんじゃだめなんですか? なんでわざわざキャンプに行くんですか?』と聞いてみたんです」

自分の性格を初対面から明らかにする

「あおってるわけじゃないんですよ(笑)」と、ひかるさん。

「僕は準備が面倒だなと感じるけど、その人は準備のめんどうくささを押してまでキャンプに行って火を見てるわけですよね。だから純粋にその人自身にとっての、キャンプでないと感じられない魅力を知りたかったんです」

 なるほど……自分と違う考えの人との会話をすごく楽しんでいるよう……。

 確かにこういう風に尋ねられると不快に思う人もいるかもしれません。

 ですが、ひかるさんは終始ニコニコと笑顔でよく笑い、あくまで「僕はこう思いますが」と相手と自分を分けて話をするので、わたし自身は聞いていて不快になりませんでした。むしろすごく面白い。

 相手に関心を持っていろいろな話を聞きたいと思う性格は、バーのマスターに向いているなと感じました。

 ひかるさんは言います。

「今日この場しか会えない関係性って面白いですよね」

「最低限の礼儀はもちろんわきまえてるつもりですけど、お世辞や接待は苦手です。そういうことも初対面のときから知ってもらうと得ですね。それで来なくなったお客さんもいるかもしれないけど、それはそれでいいと思っています」

 うーん、さっぱりしてます。筆者はめちゃめちゃ人の顔色を窺ってしまい、胃をいたくするタイプなのでなんともうらやましいです。

嫌な経験にくよくよしない気の持ち方

 お店を立ち上げてから新型コロナもあり大変だったと思いますが、「自分にとって不快なことはしない方がお店の維持につながる」という確かな指針の下お店を運営しているようです。

 この風通しのいい居心地のよさを求めて、お客さんも集まっているのかもしれません。

ちょっとした話題のきっかけにと、客席に置いてある駄菓子。お客さんの評判も上々のよう(いしいまきさん制作)



「居心地のいい場所を見つけるのは得意だと思います」

「もし職場で自分にとって不快なことがあったとしても、その会社やバイト先が悪いんじゃなくてただ自分に合わなかっただけ。また居場所を見つければいいんです」

 そう言ってからっと笑うひかるさんを見ていると、なんだか自分も軽やかに人と関わってみようかなと思えるのでした。

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