「ポケモン」「エヴァ」に並ぶロングヒット! 90年代キシリトールガムの知られざる歴史
いまやすっかり定番となったキシリトールガム。その歴史について、フリーライターの猫柳蓮さんが解説します。普及は1990年代から 筆者は2020年10月、当ウェブサイトで 「今やお口の定番「のどあめ」 普及の発端は首都圏「駅の売店」だった」 という記事を書き、その経緯を紹介しました。 のどあめは1980年代、禁煙の波とともに駅の売店で普及した商品です。そして1990年代、もうひとつの定番商品として存在感を示したのがキシリトールガムでした。キシリトールガムは、現在もガム全体のなかで売上上位の商品で、Yahoo!ショッピングのランキングを見ても上位を独占しています。 なおキシリトールは、ソルビトールやマルチトールと同じ「糖アルコール」という甘味炭水化物の仲間で、白樺や樫の木などから抽出されるキシランヘミセルロースから工業的に製造されています。 白樺はフィンランドのシンボルであり、メーカー大手のロッテ(新宿区西新宿)のウェブサイトには「なぜキシリトールといえばフィンランドなのか?」というページもあります。 このページにも記されているように、フィンランドでは虫歯予防の一環として国を挙げて大々的にキシリトールを奨励しており、その結果、キシリトールの本場となりました。そればかりでなく、キシリトール製造によって国家財政まで好転しています。 キシリトール100%の商品をあまり見ないワケキシリトール100%の商品をあまり見ないワケ 前述のとおり、キシリトールが日本で知られるようになったのは1990年初頭から。1994(平成6)年には、カナダのガムが輸入され虫歯予防に画期的な効果があり、日本でも食品添加物として許可される見通しであることが報じられています(『DIME』1994年4月7日号)。 キシリトールガム(画像:写真AC) 厚生省(当時)がキシリトールを食品添加物として認可したのは、1997年4月です。待ちに待った各社は早速、。 ・キシリトールガム、キシリトールタブレット(ロッテ、キシリトール55%以上配合) ・キシリッシュ(明治製菓、キシリトール40%配合) ・トライデント(ワーナーランバート、キシリトール入り) を発売しました(『東京新聞』1997年5月25日付朝刊)。しかし、消費者は疑問に思いました。 「なぜ100%じゃないのか」 と。 厳密に言えば、キシリトール100%のガムは当時も現在も発売されていましたが、主流にはなっていませんでした。というのも、キシリトールは砂糖より高価なため、駅の売店やコンビニエンスストアの棚に置かれる商品よりも、高価になります。 また硬さも市販の商品の倍近くなるため、気軽に噛めません。そのため、100%のガムは基本的に歯科医院専用として販売されています。 1970年代に注目していたロッテ さて、各社が一斉に参入したキシリトール市場ですが、当時もっとも高い売上を記録したのはロッテでした。同社は現在もガム市場の6割を占めていますが、当時の資料でも6割です。 実のところ、ロッテは日本では誰もキシリトールを知らなかった1970年代から既に注目していました。当時は、砂糖に比べて原価が10倍近く高くなることから商品化を断念していましたが、いずれ普及の機会が来ることをにらみ、準備を進めていました。 白樺(画像:写真AC) ガムやあめなど菓子類について、ロッテは「キシリトール」「XYLITOL」の商標を得ていますが、出願したのは1976(昭和51)年7月。売れるまで、実に20年近くの雌伏(しふく)の期間があったわけです。 ガム市場の6割以上がキシリトール商品にガム市場の6割以上がキシリトール商品に キシリトールガムが登場するまで、ロッテのガムでもっとも売れていたのはミントを使った「グリーンガム」でした。ところがキシリトールの人気はすさまじく1997年中に売上では同等に並んでいます(『日経トレンディ』1997年12月号)。 ロッテは当初の売上予想を100億円としていましたが、10月には150億円に上方修正。明治製菓でも35億円の売上となっています(『読売新聞』1997年12月6日付夕刊)。 そのほか各社を含めると、1997年中にはガム市場の6割以上がキシリトール配合の商品で埋め尽くされました。 キシリトールの主な供給元であったフィンランド・カルター社の日本法人・カルターフードサイエンスには、飲料やパンまで100を超える会社から問い合わせが殺到したといいます。 キシリトールガム(画像:写真AC) なお、1997年はキシリトールガムだけでなく、歴史に記録されるさまざまなヒット商品がブームになりました。もっとも話題になった「たまごっち」は短命に終わったものの、「ポケットモンスター」「新世紀エヴァンゲリオン」「油そば」など、ロングセラーになったり、定番になったりしたものが少なくありません。 キシリトールガムの快進撃は、いったいいつまで続くのでしょうか。
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