新宿からわずか13kmの桃源郷 森と水田に囲まれた調布市「深大寺エリア」の知られざる魅力とは

新宿駅からわずか13kmの場所に残る「武蔵野の原風景」。それが調布市の深大寺エリアです。その詳しい魅力について、ライターの野村宏平さんが解説します。


周辺に漂う幽玄な雰囲気

 東京都調布市の観光地といえば、深大寺(じんだいじ、調布市深大寺元町)がよく知られています。

 創建は奈良時代の733(天平5)年。東京都では浅草寺に次いで2番目に古い寺で、その名は水の神である「深沙大王(じんじゃだいおう)」に由来するといわれています。厄よけや縁結びなどのご利益があるとされ、初詣に行こうと考えている人も多いことでしょう。

深大寺南町にある水田の夏の風景。中央奥は野草園。右奥の森はカニ山(画像:野村宏平)



 国分寺崖線(武蔵野段丘南側のへりに沿って続く長い崖)に包まれる形で位置する境内や門前は森の緑と湧水に恵まれ、山寺のように幽玄な雰囲気を漂わせています。隣接する広大な都立神代植物公園も人気のスポットです。

 ただ、深大寺や神代植物公園は多くのガイドブックで紹介され、ネットにも情報があふれていますので、ここではあまり知られていない周辺地域にスポットを当ててみたいと思います。観光地ではなくても、この近くには隠れた見どころがいくつも存在しているのです。

「深大」と「神代」の違い

 深大寺門前から東に向かう坂道を登っていくと、三鷹通りに出ます。横には市立深大寺小学校とケヤキの大木がそびえる青渭(あおい)神社が並んでおり、向かい側には都立農業高等学校の神代農場の門が見えます。

 この農場は木々に囲まれた谷にワサビ田やニジマスの養殖池などがあり、非常に興味深い場所です。以前は週1回、一般公開されていたのですが、現在は新型コロナウイルスの影響で公開中止となっているのが残念です。

 ところで深大寺や深大寺小学校の「深大」と神代植物公園や神代農場の「神代」──いずれも読みは「じんだい」ですが漢字が異なります。この点に疑問を持った人も多いのではないでしょうか。

 深大寺というのは寺の名称ですが、かつては村の名称としても使われていました。現在の調布市深大寺元町、深大寺北町、深大寺南町、深大寺東町および三鷹市深大寺(飛び地)などが旧・深大寺村の範囲です。

 1889(明治22)年春に市制・町村制が施行され、三鷹の飛び地を除く深大寺村は近隣の佐須(さず)村、柴崎村、大町村、金子村、入間(いりま)村、下仙川村、北野村の一部と合併して、より大きな村に生まれ変わることになりました。現在の調布市の野川以北にほぼ該当するエリアです。

1929(昭和4)年に発行された地図(左)。神代村の記載がある(画像:国土地理院、時系列地形図閲覧ソフト「今昔マップ3」〔(C)谷 謙二〕)

 このとき問題となったのが村名でした。面積では旧深大寺村が群を抜いて大きかったのですが、その名を踏襲すると、他の村は吸収合併されたようでおもしろくありません。そこで「じんだい」の音を残し、「かみよ」とも読める「神代村」という新しい村名が採用されたといわれています。その後、神代村は1952(昭和27)年に町制が施行され、1955年、南側の調布町と合併して調布市となりました。

 つまり「神代」というのは、もと神代村(町)だったエリアを指す地名なのです。そのため、京王線の仙川駅近くには都立神代高校や神代書店、つつじヶ丘駅近くには神代団地や神代郵便局、調布市役所神代出張所(旧・神代町役場)、柴崎駅近くには神代湯や市立神代中学校など、広い範囲に「神代」を冠した施設が散らばっています。

エアポケットのような水田と里山風景

 神代農場の南側、歩道橋の下から脇道に入り、谷間に広がる農場を眼下に眺めながら進み、住宅街を抜けると、やがて中央自動車道をまたぐ池の上橋という陸橋が行く手に見えてきます。

 この橋を渡らずに手前にある砂利道を左に折れてみましょう。私道のような細い道なので気が引けますが、ここは東京都が選定した「雑木林のみち」のコースにもなっています。

 少し進むと道幅はさらに細くなり、両側を金網越しの樹木に挟まれた下りの急坂になります。山道のような丸太の階段を下りていくと、谷底の広場に到達します。

雑木林のみち。この先の急坂を下ると、深大寺自然広場がある(画像:野村宏平)



 深大寺自然広場(深大寺南町)と名付けられた公園の北端部です。木々で囲まれた広場の脇には、隣接する神代農場から湧き出たマセ口(ませくち)川という小川が流れています。

 奥には中央道の高架橋が横切っており、車の騒音に興をそがれますが、その下をくぐり抜けると、約300種類1万本以上の野草が生い茂る野草園の入り口があります。開園期間は3月1日から10月31日までなので冬季は入園できませんが、金網越しになかを垣間見ることはできます。

 野草園の東側には「ひきずり坂」と呼ばれる舗装道が通っています。その由来については諸説あるようですが、調布市教育委員会発行の『調布市文化財報告書 調布の古道・坂道・水路・橋』では、「上部はかなり急で、また距離が長いので、荷車のときは加速を押さえるため後ろをひきずるようにしながら下ったことによる名らしい」とされています。

 ひきずり坂の向こう側にも深大寺自然広場が続いていますが、こちらは「カニ山」と呼ばれる里山エリアです。麓を流れるマセ口川にかつてサワガニがたくさんいたため、この名前がついたそうです。

 山といっても国分寺崖線の一部なのですが、自然が豊かで、奥には雑木林に囲まれた広場やかまど・水洗場を備えたデーキャンプ場(予約制)も設けられています。のんびりと散策したり森林浴をしたりするには最適の場所といっていいでしょう。

 カニ山からひきずり坂に戻り、樹木に覆われた坂道を下りきると視界がひらけ、すばらしい風景が目の前にあらわれます。都内ではいまや珍しくなった水田が残っているのです。

 水田越しに望む里山はまさに武蔵野の原風景。視線を少し横にずらせば住宅が立ち並んでいるのですが、この一画だけはまるでときが止まってしまったかのようです。新宿駅から直線距離にしてわずか13kmの近郊住宅街のなかに、こんな場所がエアポケットのように残っているのは奇跡といってもいいでしょう。景色を眺めているだけで心が癒やされる場所です。

祇園寺と野川

 水田の前から市立柏野小学校の脇の道を200mほど南下すると、佐須街道というバス通りに出ますが、この道路沿いでも、のどかな風景を見ることができます。

 竹林に面してはるかかなたまで続く一面の畑(一部水田)と、そのなかをゆったりと流れる用水路。こんもりと茂った鎮守の杜が島のように浮かび上がり、見る角度によってはまるで昔話の舞台のようです。

 この田園地帯の西側に静かにたたたずんでいるのが祇園寺(佐須町)です。深大寺と同じく満功上人(まんくうしょうにん)が開創した寺で、深大寺より古いという説もあります。入り口には朝鮮石人の像が向かい合う形で配置され、このあたりが渡来人と縁の深い地であることを示しています。

祇園寺。右奥にそびえる大木が「自由の松」(画像:野村宏平)



 また、多摩地域は明治時代、自由民権運動が盛んだったところで、1908(明治41)年にはこの寺で自由民権運動の犠牲者を弔う追悼集会が開催されました。このとき板垣退助が記念植樹したと伝えられる「自由の松」が、現在は大木となって境内にそびえています。

 祇園寺から少し歩くと野川のほとりに出ますが、その両岸は桜の名所としても知られています。600m以上に渡って桜並木が続き、桜が最盛期を迎える夜には年に1度3時間だけ、照明機材の会社がボランティアでライトアップするのが恒例になっていました。日程は直前にならないと発表されないため、最初は地元住民のみの楽しみでしたが、年を追うごとに多くの人が集まるようになり、近年では一大イベントになっていました。

 2020年と2021年はコロナ禍のため中止になってしまいましたが、以前のような美しい夜桜を見られるときがまた戻ってきてほしいものです。


【写真】懐かしい、そしてなぜか落ち着く――調布市「深大寺エリア」の風景(13枚)

画像ギャラリー

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