東京の中心・銀座になんと「番外地」があった! 場所は銀座インズ周辺、いったいなぜなのか

  • ライフ
  • 有楽町駅
  • 銀座駅
東京の中心・銀座になんと「番外地」があった! 場所は銀座インズ周辺、いったいなぜなのか

\ この記事を書いた人 /

昼間たかしのプロフィール画像

昼間たかし

ルポライター、著作家

ライターページへ

東京を代表するエリア・銀座に正式な住所のない場所があります。いったいなぜでしょうか。ルポライターの昼間たかしさんが解説します。

銀座の一等地のナゾ

 自治体同士の境界線が決まっていない「境界未定地域」。その帰属先について論争になっている地域は全国のあちこちに存在します。

 近年話題になったのは、東京湾の「中央防波堤埋立地」です。ここは大田区と江東区が40年あまりにわたって帰属を争ってきましたが、2019年の東京地裁の判決で

・江東区:79.3%
・大田区:20.7%

とする判決が下されています。

 この埋め立て地はもともと、東京都で排出されたゴミを使って作られました。大田区では「かつて漁場だった」ことを理由に、江東区では「東京のゴミ処理を江東区が担ってきた」ことを基に争っていました。しかし、判決が確定したことで争いは終結しました。

中央区銀座西2ー2先にある「銀座インズ」(画像:(C)Google)



 しかし、東京の街にはもっと長らく境界が決まっていないエリアが存在します。それが、銀座の東京高速道路(通称KK線)の高架下にあるショッピングセンター「銀座インズ」のエリアです。

 この場所は住所が存在せず「中央区銀座西2ー2先」といった形で「先」を付けることで対応していますが、正式な住所ではありません。いわずもがな銀座は1丁目から8丁目までで、銀座西という住所はそもそも存在しません。こうなっている理由は

「高速道路に沿って中央区と千代田区、港区の境界が画定していない」

ためです。

 このエリアはもともと外濠を埋め立てて建設されましたが、その際、区の境界が設定されなかったために、このようになっています。東京高速道路の会社設立は1951(昭和26)年、道路の供用開始は1959年ですから、約60年近くも境界論争が続いています。

原因は過去の税制

 どうして、境界が決まらないのでしょうか?

 このエリアはおしゃれな飲み屋街として知られる「コリドー街」を含むため、たびたびメディアに取り上げられていますが、たいていは

「かつては各区で論争にもなったが」

と過去形で語られがち。現在は特に話し合いもなく、なんとなく境界が決まっていない状態になっています。なにしろ境界未定地域にあるのはショッピングセンターだけなので、住民はゼロ。税収が増えるわけでもないので、特に争う必要がないというわけです。

東京高速道路(通称KK線)の建物状況(画像:東京高速道路、国土交通省)



 しかし、かつては境界未定地域から得られる税の種類が今よりも多かったため、そうではありませんでした。

 地方自治体の財政を安定させるために、以前の日本では市町村税を積極的に導入していました。そのため、このショッピングセンターから電気・ガスの使用者に対して課す「電気ガス税」などを徴収していました。

千代田区と中央区の言い分

 加えて1980年代までは、東京都の徴収する固定資産税(都税)もいずれは区税になるという可能性がありました。

 地価日本一の銀座の目と鼻の先にあるエリアから得られる税収は膨大なものと予想されていたため、各区は「ここはうちの土地だ」と激しく主張していたのです。

1947年頃の現在の「銀座インズ」周辺。かつては川が流れていた(画像:国土地理院)

 当時の主張は、次のようなものでした。

「『もともと2つの区にまたがる川にかかる橋などでは、都心に近い方の区の所有になるという不文律があるんです。それと、外濠は、そもそも城を守るためいできたという経緯もある。主体はこちらですよ』(千代田区役所総務部)と一方が語れば、もう一方も『うちは埋立地を面積で分けようといっている。都の第二庁舎横の高速道路の曲がり角で分ければ、半分になる。当然中央区はフードセンターと西銀座デパートのある側をいただきます。第一あそこは中央区の空襲で焼けた焼土を使って埋め立てたものなんです」(中央区役所企画部)と語って、真っ向から対立したまま』」(『平凡パンチ』1983年9月12日号)

 帰属が決まっていないからといって無税にするわけにはいかず、電気ガス税は境界を争っているふたつの区で折半。「たばこ消費税」は店の間口がどっちを向いているかで決めるといった形で処理されていました。

区役所「後任者へ先送りにしている」

 しかし結局、固定資産税は区税にならず、1989(平成元)年の消費税導入で電気ガス税も廃止されました。

 理由はさまざまですが、これらの制度変更で得られる利益が少なくなったことが、境界争いを鎮静化させている面もあります。

銀座の商業施設の上を走る東京高速道路(画像:写真AC)



 実際、境界を争っているうちのひとつの区の区役所で話を聞いたところ

「今更話をまとめても成果は少ないので、人事異動のたびに後任者に先送りすることが何十年も続いている」

といいます。

 この先も、このエリアは都心のナゾ地域として人々の興味をそそりそうです。

関連記事