お金持ちしか住めない土地に現れた「超庶民派店舗」の数々 文京区・江戸川橋駅周辺【連載】東京商店街リサーチ(8)

有楽町線「江戸川橋駅」近くには生鮮品から日用雑貨まで幅広く買える「地蔵通り商店街」があります。その魅力と周辺環境について、フリーライターの荒井禎雄さんが案内します。

中心は文京区関口1丁目

 今回「商店街がある街」として取り上げたいのは、有楽町線の江戸川橋駅の周辺です。文京区の関口1丁目を中心として、北は護国寺、南は神楽坂と、歴史ある街に囲まれたこの地域には、実は「THE生活型商店街」と評すべき商店街が生き残っています。

地蔵通り商店街には、なぜか薬局、クリニック、整体などが固まっている(画像:荒井禎雄)



 何となく「オフィスビルが多そう」「住宅は少なそう」といったイメージを持たれているであろうこの土地に、奇跡的に生じたエアポケットのように存在する商店街。今回はそんな不思議な江戸川橋駅周辺をご案内いたします。

●立地

 文京区関口は1~3丁目までありますが、1丁目とそれ以外の間には神田川が流れており、1丁目だけがほぼ低地となっています。2丁目と3丁目には崖や山と言うよりない急坂があり、古くから東京(江戸)でも有数の難所として知られていました(目白坂および新目白坂)。

 そのせいか、関口1丁目の人口が約5000人なのに対して、2丁目や3丁目は1000人ほどしか住んでいません。これは地形の厳しさから宅地に適さないという理由のほかに、椿山荘や肥後細川庭園など、大昔から景勝地や庭園、または武家屋敷といった使われ方をしていたため、宅地化できる場所がそもそも限られていたという理由もあります。

 また南側の神楽坂方面へ目を向けると、東西線の神楽坂駅近くにある赤城神社周辺には、江戸時代の昔から「峻悪にして車通すべからず」とまで言われた難所・赤城坂が待ち構えています。

 神楽坂駅から見て西側の新宿区山吹町や天神町も、江戸川橋通り沿いの北野神社より北側は平らな場所が多いのですが、そこから南に向かうと一気に坂がちになります。

 このように、移動の楽な平らな場所は江戸川橋駅を中心とした神田川に近い一部にしかなく、それ以外は古くから知られた難所だらけという、非常にピーキーな造りをした土地であると言えます。

江戸川橋駅近くの雑居ビルは「初見殺し」

●商店街と特徴

 関口1丁目と山吹町の境目に子育地蔵尊があり、そこから東へ向かって1本道の商店街『地蔵通り商店街』が伸びています。地蔵通り商店街は文京区内までなのですが、通り自体は文京区を出ても続き、新宿区の改代町や水道町まで飲食店を中心にお店が点在しています。これらを合わせると結構な長さになり、江戸川橋駅のすぐ近くにこのように立派な商店街があることに気付いていない人も多いはずです。

 商店街の一番の特徴は、実は多種多様な業種がそろった「生活型商店街である」という点です。こうした立地の商店街は、時代の流れで飲食店街・飲み屋街と化し、辛うじて通りの名称だけ生き残っているというケースが多いのですが、地蔵通り商店街は肉野菜などの生鮮品から日用雑貨まで、さまざまな品物を扱う生活型商店街としての役割を維持しています。

 和菓子屋、お茶屋、米屋といった古い商店街の中心的存在だったお店はもとより、輸入食材の専門店やコーヒー豆屋など、若い世代にも需要がありそうなお店もあり、周辺にはマルエツやコモディイイダといったスーパーマーケットも。

 このように買い物環境は一通りそろっているため、土地のイメージとは違った庶民的な暮らしができる穴場的存在だと言えるでしょう。

 神社仏閣や庭園、大金持ちしか住めないようなお高い土地、急坂に苦しめられる難所……といったイメージとかけ離れた、昔ながらのリーズナブルな1本道商店街という違和感が、この商店街の最大の魅力でしょう。

 商店街受難の時代と叫ばれ始めて何年もたちますが、決して商店街を維持しやすいとは言いにくい立地で、ここまで活気と業種の幅を保(たも)てているのは驚異的と言うよりありません(薬局だけ妙に多い点は気になりましたが)。

 商店街とは話が変わりますが、江戸川橋駅から地上に上がってすぐの場所に、江戸川橋ビルという面白い雑居ビルがあります。ここは言うなればカルト的な人気を誇るニュー新橋ビルの江戸川橋版とも呼ぶべき建物で、1階にはチェーン店を中心としたお店が入っており、地下にはコモディイイダと江戸川橋駅の改札があります。このビルの上層階はマンションになっており、3LDKのファミリー向けのゆったりした物件が中心になっています。

江戸川橋ビルの洋食屋(?)三好弥は、和食から中華から何でも作ってくれる名店 (画像:荒井禎雄)



 この江戸川橋ビルは外から見ても相当年季が入っていると分かる建物なのですが、中に入るとさらにカオスで、お店・駅・マンション・オフィスと、用途ごとに区分けされているために、どこから入ってどこへ向かえばいいのか全然分からない、「初見殺し」のビルになっています。

 蛇足ながら、筆者(荒井禎雄、フリーライター)は最初、コモディイイダの入り口が分かりませんでした。「江戸川橋駅」に降りて行くだけとしか思えない、東京メトロの看板が付いた階段の先に、まさかスーパーの入り口があるだなんて。

 こういうほんのりした違和感が街の至るところにちりばめられているのが、江戸川橋駅周辺の特徴なのかもしれません。

江戸川橋駅周辺のワンルーム家賃は約9万円

●交通機関

 地図で見ると東西線の神楽坂駅も近そうに見えますが、事実上、有楽町線1択です。上で述べているように、江戸川橋駅と神楽坂駅の間には難所が待ち構えているので、アシスト機能付きの自転車がない限りは、日常的に2路線を使うことは難しいと言わざるを得ません。

 ただし、東京を代表する大ターミナル池袋駅や、乗換駅として需要の高い飯田橋駅が近く、この2駅以外でも有楽町線と他路線の乗り換えが優れていることから、23区内の移動を考えるならとても便利であると評価できます。

 主な駅への所要時間は、

・飯田橋駅:3分
・池袋駅:7分
・大手町駅:18分
・新宿駅:19分
・渋谷駅:20分
・秋葉原駅:23分
・東京駅:24分
・上野駅:27分
・品川駅:30分

となっています。

●家賃相場

 江戸川橋駅周辺の家賃相場(全物件の平均値)は、次の通りです。

・ワンルーム:約9万円
・1DK:約12万円
・2K:約14万円
・2DK:約23万円
・3LDK:約31万円

 これを過去に紹介した街の相場と比較してみましょう。

亀戸
・ワンルーム:約8万円
・1DK:約9.7万円
・2K:約9.1万円
・2DK:約12.4万円

小岩
・ワンルーム:約6万円
・1DK:約7.7万円
・2K:約7.7万円
・2DK:約8.8万円

 こうやって並べてみると一目瞭然ですが、江戸川橋駅周辺はイメージ通り家賃が高くなっており、過去に取り上げた商店街がある街とは比較になりません。ワンルームや1K物件こそ安い部屋もありますが、それ以上の間取りになると2倍からそれ以上という恐ろしい差が付いてしまいます。

このように高過ぎる石垣やさりげない急坂がちりばめられているのがこの一帯の特徴 (画像:荒井禎雄)



 では次に、この家賃の高さの理由を探るため、他の土地(亀戸・小岩)と地価を比べてみましょう。

 国土交通省の不動産取引価格情報を調べると、地蔵通り商店街の某商店がある土地の取引額は94万1000円/平方メートルという数字が出てきました。もう少し駅から離れて坂を上ってみると、新宿区赤城下の辺りで67万6000円/平方メートルで取引された記録が出て来ます。

 対して亀戸は、JR駅のすぐ近くの京葉道路沿いで85万円/平方メートル、商店街の辺りだと65万円 /平方メートルとなっています。小岩の場合も商店街立地だと66万円/平方メートルと、駅近立地だと亀戸とそれほど変わりません。

 こうした数字を照らし合わせて考えてみると、やはり江戸川橋駅の周辺はイメージの通りに「お高い」ことがわかります。

 築年数の古い物件ならば家賃が多少は安くなりますが、そういった手が届きやすい物件が出て来るかどうかは完全に運任せになってしまいます。

犯罪も少なく、穏やかに過ごせそうな空気も

●犯罪発生率

 続いて、警視庁が公開している犯罪情報マップから2020年度の犯罪発生件数を調べてみたのですが、なんと江戸川橋駅一帯はどこも発生件数が極めて少なく、全刑法犯を含めても関口2~3丁目・小日向・水道・山吹・天神・矢来・改代・赤城下……と、どこも1~25件という最も発生件数が少ない枠だったのです。

 唯一の例外は商店街を有する関口1丁目で、ここだけは26~67件と、下から2番目に少ない枠に入っていました。

 ただこれについては注意が必要で、2020年は大半がコロナ禍の真っただ中にあり、普段と違って犯罪発生率が低かった可能性があります。

 これを加味して考えないと正確な状況は分かりませんが、ひとまず今目の前にある数字だけを見ると、江戸川橋駅一帯は極めて犯罪発生率の低い土地であると言えます。

●メリット・デメリット
 江戸川橋駅一帯は歴史が古く、数多くの神社仏閣や庭園が残っています。公園もあるため緑豊かな土地であると評価できるでしょう。また神楽坂の隣町であるため、しゃれたカフェやバーなど新しい店が増加傾向にあり、街全体に活力が感じ取れます。

 買い物環境としては、地蔵通り商店街を中心にリーズナブルな買い物場所が備わっており、意外と暮らしやすいという一面を持っています。

 交通手段については、鉄道は地下鉄有楽町線がメインになりますが、大ターミナルが近いためどこへ向かうにも便利。

この一帯の地形を1枚で表現してみた。神社仏閣と崖、その上に建つ建物(画像:荒井禎雄)



 デメリットとしては、地形的にとにかく足腰がしんどいという点。それに地価が高いため家賃相場が高騰しており、ある程度の収入がないと部屋が見付からないという点などが挙げられます。

 それと、急坂が多いということは、猛スピードで坂を下りてくる自転車などに遭遇する確率が高いということになります。したがって小さな子どもの動向には特に注意が必要で、この街で子育てをするつもりならば、幼児からは絶対に目を離さないようにすべきでしょう。

 こうした注意点こそあるものの、街の雰囲気は落ち着いており、とても穏やかに過ごせそうな空気が漂っています。そうした点から考えると、ある程度年輪を重ねた夫婦が住むのに適した街なのかもしれません。

【地図&写真】今回紹介する文京区「地蔵通り商店街」を見る

画像ギャラリー

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