台風被害は甚大!「線状降水帯発生情報」でわかった、伊豆・小笠原諸島の気候の厳しさ

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台風被害は甚大!「線状降水帯発生情報」でわかった、伊豆・小笠原諸島の気候の厳しさ

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大島とおる

離島ライター

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7月1日、伊豆諸島北部に「線状降水帯発生情報」を発表したことが話題に。これを機に、伊豆諸島・小笠原諸島の気候について振り返ります。解説は離島ライターの大島とおるさんです。

内でも有数の強風地帯

 気象庁が7月1日(木)、伊豆諸島北部(伊豆大島や新島など)に「線状降水帯発生情報」を発表したことが話題になりました。線状降水帯発生情報とは「顕著な大雨に関する情報」で、土砂災害や浸水、河川の洪水など、災害の発生に結びつくような非常に激しい雨が発生した場合に発表されます。

伊豆諸島に属する新島(画像:海上保安庁)



 伊豆諸島・小笠原諸島(以下、伊豆小笠原諸島)は東京都の区域にあり、東京都島しょ部と呼ばれます。本土とはまったく異なる気候風土で、国内でも有数の強風地帯です。

 日本の強風地帯といえば冬の日本海沿岸が広く知られていますが、伊豆小笠原諸島の年間平均風速はそれよりも大きいのです。

 特に風の強い三宅島では、1年間のうち風速10m以上の風の発生日数が約200日間と年間の半分以上もあります。これは時速36kmの乗り物で風を受ける状態と物理的に同様で、街路樹が揺れ、帽子が飛ぶほどの強さです。

 これが台風ともなると、伊豆小笠原諸島はさらに激しい風雨にさらされます。東京都港湾局の資料によれば、1948(昭和23)年から2012年までの65年間で、伊豆小笠原諸島が受けた被害は港湾や漁港の被害だけで67件。災害復旧の費用は約40億円となっています。この被害のうち85%は台風によるものです。

 例年、台風にみまわれ万全の準備をしている伊豆小笠原諸島ですが、それでもなお被害を完全に防ぐことはできません。

台風がもたらす島への被害

 台風がもたらす雨は、本土では想像もできないような大きな被害を起こすことがあります。

 2013年の台風26号が引き起こした災害はその代表例です。このとき、伊豆大島(伊豆諸島)では三原山の外輪山中腹が幅950mも崩落。これによって引き起こされた土石流は人家を飲み込み、36人が死亡する大きな被害を引き起こしました。

伊豆諸島に属する伊豆大島(画像:海上保安庁)



 この災害の原因となったのが三原山の火山灰です。三原山は有史以来何度も噴火が記録されており、その際に噴出した火山灰は何層にもなって堆積しています。このうち、まだ歴史が浅く、固まっていない火山灰の層が多くの雨水を吸い込むと下の溶岩の層をすべり落ちるのです。

 この被害の検証する過程で、かつて神津島(伊豆諸島)でも同様の災害が起きていたことが明らかになりました。1907(明治40)年7月に起きた土砂災害です。

 当時、現在の愛知・岐阜両県にまたがって発生した濃尾地震(1891年)を契機に科学者によって結成されていた「震災予防調査会」が神津島の調査を行っています。

 このときの調査では1週間あまり続いた雨が一度やみ、再び豪雨になったところ、土砂崩れが起こったことが明らかになりました。

 これを受けて当時の報告書では、火山灰の急斜面の層が多くの雨水を吸い込んで崩れたことを解明し、同様の土壌部分や下流に家を建ててはならないと警鐘を鳴らしています。

 この災害は神津島で衝撃的だったのか、島内の神社から

「坂は照る照る東は曇る。やがて此の地は水となる」

という不思議な声が聞こえてきたという伝承があり、崩落前の地鳴りだったのではないかと考えられています。

「空路」という島外をつなぐ生命線

 さて、年の約半分は台風の脅威にさらされる伊豆諸島で、島外をつなぐ生命線となっているのが空路です。

 船の便も年々改善しているものの、台風が通過すると海のうねりが残るため、数日間は欠航します。その点、風に強い飛行機やヘリコプターの便は信頼性が高く、島民たちの生命線となっています。

 ただ路線によりますが、空路は採算性の高いものではありません。そのため、これまでも存廃を巡って問題になっています。

 1998(平成10)年、羽田空港から定期便を飛ばしていたエアーニッポンが伊豆大島や八丈島に比べて採算性の低い三宅島便を廃止する意向を表明。島では

「30年前に逆戻りしてしまう」

と騒動になりました。

伊豆諸島に属する三宅島(画像:(C)Google)

 郵便などの輸送のみならず、医療にも使われていたため、空路が消滅することは大問題だったのです。

伊豆諸島より困難な小笠原諸島

 その後羽田空港と結ぶ便は2014年に廃止されましたが、その代わりに新中央航空(茨城県龍ケ崎市)が調布飛行場(調布市西町)から定期便を運行しています。

 また飛行機が発着できる施設がなく、定期船の就航率の低い利島・御蔵島・青ヶ島では東邦航空(江東区新木場)が運航するヘリコミューター「東京愛らんどシャトル」が生命線となっています。

 なかでも、1か月のうち定期船が半分欠航する青ヶ島では、同ヘリは唯一の交通機関となっています。ただ座席数も9席と限られているためか、7月の予約状況を確認したところ、多くの日が既に満席か残りわずかとなっています。

 曲がりになりにも空路のある伊豆諸島より、さらに困難なのが小笠原諸島です。

 小笠原諸島には空港が存在しないため、現在でも行き来は船のみ。病院で救急搬送を要する患者が出た場合には、父島の海上自衛隊基地から飛行艇で搬送するか、いったん硫黄島へ搬送後に海上保安庁のジェット機で搬送することになっています。

小笠原諸島に属する硫黄島(画像:(C)Google)



 こうした交通困難な状況を改善するため、東京都は2018年、小笠原諸島への空路の調査を開始しています。ただ、いつ空港がいつ建設されるかは未定です。

 このように厳しい気候条件にさらされている伊豆小笠原諸島――そうした島の生活を守るためにも、巨大な財政を持つ東京都に属しているのです。

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