ネット全盛の今、「アナログゲーム」が社員研修で注目されている理由

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ネット全盛の今、「アナログゲーム」が社員研修で注目されている理由

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中村圭

文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナー

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古くから人気のアナログゲームが現在、企業内研修のプログラムとしても注目されています。いったいなぜでしょうか。文殊リサーチワークス・リサーチャー&プランナーの中村圭さんが解説します。

「遊ぶだけではないアナログゲーム」とは

 ステイホームによって改めて家での過ごし方が注目され、家族で手軽に楽しめるものへの需要が高まりました。そのなかでも特に需要が伸びたのがアナログゲームです。4月10、11日には東京ビッグサイト(江東区有明)で国内最大級のアナログゲームイベント「ゲームマーケット2021春」が開催され、多彩なアナログゲームが出展されました。そのなかには、「遊ぶだけではないアナログゲーム」の新たな可能性も紹介されています。

 アナログゲームは現在、企業内研修のプログラムとしても注目されています。

 例えば、大手飲食チェーンのサイゼリヤ(埼玉県吉川市)の「サイゼリヤ店舗運営ゲーム」は、プレーヤーが店舗のマネジャーとなって、店舗内で起こるさまざまなトラブルに対処していき、ポイントを集め他店舗と競う対戦型ボードゲームです。

「サイゼリヤ店舗運営ゲーム」のセット内容(画像:マネジメント・カレッジ)



 このゲームの面白いところはゲームで起きるトラブルが「給電設備の故障で停電が起きた」や「アルバイトが急病で当日の人員が減った」など実際に起きたものばかりで、プレーヤーはリアルにゲームに向き合うことができます。なお同ゲームは、第23回文化庁メディア芸術祭審査委員会推薦作品に選出されました。

 また、アニメ制作会社のシンエイ動画(西東京市田無町)の「アニメ制作(デスク)ゲーム」はアニメ制作の要となる制作デスクを疑似体験できるゲームです。

 テレビアニメの絵コンテから作画、仕上げ、放映までの複数の進行業務を管理し、各セクションで起こるトラブルを都度判断し対策をとります。毎週の放映日を死守し、制作過程で得られたポイントを競うゲームとなっています。

 このような企業内アナログ研修ゲームは楽しみながら実際に起こりえる状況を体感し、対応力を身に付けていくもので、開発・企画検討する企業が増えてきています。上記のゲームは企業内研修向けのもので一般販売されていませんが、一般販売されればお仕事体験ゲームとして幅広い層から人気を呼びそうです。

学校で活用されるゲームも

 企業だけではなく、学校でも活用されるゲームが出てきています。

「僕らの基地がほしいんだ」は千葉の地方公務員が開発したボードゲームです。行き過ぎた管理が進んだ近未来の世界で、小学生たちは自分たちの「秘密」を守れる公園を求め、地域の人たちから協力を得ながら自治体に公園づくりを提言します。

「僕らの基地がほしいんだ」のプレイ風景(画像:6時の公共)



 ゲーム内では声(情報拡散・収集力)、ロジック(整理分析・発想力)、調整力といった三つの力を集め、セイガン(請願)アイデアを導き、期限内に議会に請願書を提出したプレーヤーが勝利となります。

 このゲームのポイントは地域のまちづくりプレーヤーの存在、民意の練り上げ方、協働方法、社会へのかかわり方、地域での政策提言方法を知って、自ら考えて行動を起こす方法を学べるところ。

 文部科学省は「アクティブ・ラーニング」(自分たちが能動的に問題を発見し、解決を見いだしていく授業・学習)の導入を推進しており、このようなゲームはその教材としても期待されます。

社会問題にも切り込んだゲームも

 社会問題にも切り込んだゲームもあり、「コミュニティコーピング」は高齢者の「孤立」という社会問題から地域社会を守るために、地域の人々と問題解決を図ります。

 超高齢化が進んだ架空の地域で、悩みを抱えた人が六つの地区のどこかで毎ターン発生します。同じ地区に4人以上悩みを抱えた人が留まると、その地域の支えあい体制が崩壊してゲームオーバー、その地域を10年存続させ続けることが目標です。

「コミュニティ・コーピング」のオンラインプレイ(画像:コレカラ・サポート)

 プレーヤーは医大生やカフェのマスターなどさまざまな職業人になり、

1.悩む住民に声をかけ本当の悩みを明らかにする
2.地域の専門家や市民活動団体などとのつながりをつくる
3.本当の悩みが明らかになった人に解決策を提案する

という三つのアクションからひとつを選びます。

 このゲームを遊ぶことにより、地域で悩みを抱えている人に話しかける勇気や悩んでいる人にどのような支援が必要か、その支援を実行するために誰を頼ればよいかを知り、社会的孤立を解消する方法を学ぶことができます。

 このように企業研修向けゲームやアクティブ・ラーニングに対応したゲーム、社会問題に切り込んだゲームが現在多数多数登場してきています。

誰でも参加できる利便性

 では、なぜアナログゲームを活用するのでしょうか。

 まずアナログゲームはスキルに関係なく、誰でも参加することできることが挙げられます。感覚的に遊べるため、マニュアルを読み込むことが苦手な人でも体感的にトラブルシューティングなどが身に付き、現場での対応力が高まることが期待されます。

 また目標達成までの過程がひとつではなく、自由なスタイルで進めることができることも挙げられます。その人ごとのやり方が存在して、自分で見つけた方法以外にも他の参加者の方法も学び取れるでしょう。

「サイゼリヤ店舗運営ゲーム」の研修風景(画像:マネジメント・カレッジ)



 アナログゲームにおいては対戦でも協力でも相手は常に人で、ゲームの戦略性から相手がどう出るか把握する必要があります。そのため、他者を観察する力やコミュニケーション能力の向上も期待できます。スタッフ同士が仲良くなるきっかけにもなるでしょう。

 アナログゲームは開発コストや開発期間の点から新作開発が活発という特徴があり、さまざまなシチュエーションに柔軟に対応できることも評価できます。そもそも、アナログゲーム自体トラブルシューティングを題材としたものが少なくなく、このようなツール開発には適しているのではないでしょうか。

アナログゲーム初心者はゲームカフェへ

 このようにアナログゲームは今後、さまざまな場面で活用されていく可能性があります。チャンスがあればアナログゲームに触れてみたいと考える人もいるでしょう。

 ボードゲームショップやボードゲームカフェは初心者がアナログゲームを始めるのに適しており、スタッフがゲームを説明してくれ、体験・購入ができます。「すごろくや」(杉並区高円寺北など)や「JELLY JELLY CAFE」(渋谷区宇田川町など)が有名です。

杉並区高円寺北にある「すごろくや」(画像:(C)Google)

 近年は大型家電量販店や書店でも取り扱うようになっており、100円ショップやバラエティーショップでも手軽に購入が可能。ゲームマーケットのような大型アナログゲームイベント以外にもショップやサークルが主催するミニイベントもたくさん開催されています。

 また、研修ゲームなどは一般販売されることはなかなかありませんが、製作者のウェブサイトなどで特定企業ではないビジネスゲームの購入や体験会を定期的に開催しているケースもあります。

 ご興味のある人はぜひこのような店舗やイベントにてアナログゲームに触れてみてください。

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