通説「東京23区内の島は1つだけ」はウソ? 江東区の川に浮かぶ謎スポットを調べてみた【連載】東京うしろ髪ひかれ地帯(12)
一般的に「東京23区唯一の自然島」は江戸川区の妙見島とされていますが、本当でしょうか。都内探検家の業平橋渉さんがその謎について調べました。330もの島がある東京都 伊豆諸島や小笠原諸島など、東京都は多くの島を持つ自治体です。東京都に属する島は無人島や定住困難なものも含むと、計330あります。これは全国で6番目の数字です(第1位は長崎県の971)。 しかし、太平洋の島々を除くとその数は激減します。東京23区に限定した場合、島となっているのは東京湾の埋め立てで拡大した土地の部分ばかりですが、こちらは今も拡大を続けていています。 2020年、東京湾内の中央防波堤埋立地で江東区と大田区の境界が画定し、 ・江東区:海の森 ・大田区:令和島 と設定されました。町名は一応設定されましたが、この場所に住所を置く住民はいないため、無人島となっています。 江東区にある島っぽい場所 埋め立て地を除いて、自然島ではどうでしょうか。 もっとも知られるのが旧江戸川に浮かぶ妙見島(みょうけんじま)で、住所は江戸川区東葛西3丁目です。周囲はコンクリートの護岸で覆われており、人工島のような雰囲気ですが、確かに自然島です。 この妙見島をインターネットで検索してみると、 「23区唯一の自然島」 という記述が多数見つかります。この記述は信頼のおける各種媒体にも存在します。 『東京新聞』2011年5月9日付朝刊の連載「TOKYO発」には「東京23区で唯一の自然島だ」とあります。2011年10月14日放送のバラエティー番組「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)で妙見島を取り上げた際にも、「23区唯一」としていました。つまり、23区唯一の自然島は妙見島というのは広く知られた「常識」といえます。 しかし本当にそうなのでしょうか? 筆者は長らく疑問を持っています。実際、妙見島以外にも自然島と思われる島があるからです。 その島が存在するのは晴海運河です。月島駅を降りて清澄通りを北上すると、中央区佃から江東区越中島へと晴海運河を渡る相生橋が架かっています。その橋の江東区寄りのところに島らしきものがあるのです。現在は中の島公園(江東区越中島)となっている島です。 江東区越中島にある中の島公園(画像:(C)Google) 現在は橋の橋脚を支える土台のようになっていますが、形を見ると島のようにも見ます。果たしてこれは自然島なのでしょうか。 陸軍の地図にある「泥」は何を語るのか陸軍の地図にある「泥」は何を語るのか 実はこの調査、なかなか困難を伴いました。というのも、ちょうどふたつの区の境目にあるためか、さまざまな歴史資料を見ても、若干なおざりにされているからです。 それでも、このエリアを調査するときの定番『中央区沿革図集』は役に立ちました。この月島編に収録された地図を見ていくと、江戸時代の絵図には記載はありません。 ところが明治時代に参謀本部陸軍部測量局が制作した地図を見ると、現在は相生橋が架かっているあたりに、確かに島のようなものがあります。そして、そこには「泥」という記載を確認できました。 1909(明治42)年に測図された地図では、現在のように相生橋(1892年に架橋)のところに島が確認できます。 左が1909年に測図された地図。右は現在(画像:国土地理院、時系列地形図閲覧ソフト「今昔マップ3」〔(C)谷 謙二〕) この付近は1882年の洪水で川底に土砂が堆積したこともあり、翌年から航路の浚渫(しゅんせつ。水底の土砂を掘り取って運搬処分する作業)事業「東京湾澪浚(みおさらい)」が実施されています。これによって生まれたのが月島です。 そのため、「泥」が単なる水の下の浅瀬だとすれば浚渫で失われているはずです。そうならなかったのは、明確に島だったからと考えられます。 出典不明の資料 しかし決定的な資料はありません。中の島公園を管理する江東区に訪ねたところ、自然島かどうかはわからないとした上で、2007(平成19)年に作成した内部向けの資料に 「昔はあれほうだいの無人島だった」 という出典不明の資料があると教えてくれました。 中の島公園の航空写真(画像:国土地理院) そして、区の担当者からさらに重要な示唆を聞きました。 「現在、江東区と中央区の境界は中の島公園付近です。通常であれば水面の中央付近が境界になりますが、実際の境界は江東区側に少し寄っています。これは元から中の島があったためではないかとも考えられます」 現区制以前の深川区(現・江東区)と京橋区(現・中央区)の成立は、ともに1878年。となると、やはり確かに自然島が存在していたことになります。つまり、妙見島は23区唯一の自然島ではなかったのです。 島の定義はそもそもいい加減島の定義はそもそもいい加減 これに対しては、 「泥と表記されていたのなら、増水時は水に漬かる中州のようなものではないか」 といった反論が出ると考えられます。 ただ、妙見島も自然島とはいえ、かつては上流部が浸食され、下流部に土砂が堆積され、徐々に移動する「流れる島」だったといいますから、中の島は自然島と考えても間違いないでしょう。 元来、島の定義はいい加減なものです。なにせ小笠原諸島の沖ノ鳥島は人が住むスペースすらありませんが、なぜか島として扱われています。一方、イギリスのスコットランド沖にあるロッコール島には小屋が建つ程度のスペースはありますが、こちらは岩扱いです。 筆者はこのようなことからも、中の島を23区にある「もうひとつの自然島」として扱ってよいと考えます。皆さんはいかがでしょうか。 最後に、この中の島にある公園ですが、湾岸散歩する際にはぜひ訪れてほしいスポットです。園内には潮の満ち引きを見られる感潮池がありますし、隅田川から晴海運河が分岐する好立地ですから、天気のよい日には川面を眺めているだけでも爽やかな気分を味わえます。 国指定重要文化財の明治丸(画像:写真AC) また桜の木もあるので、春にはとても美しい風景を見られます。付近では東京海洋大学(港区港南)の明治丸(国指定重要文化財)も見学できるので、ぜひ立ち寄ってみてはいかがでしょうか。
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