東京女子が包丁片手に魚をさばく 体験会も大人気、便利なこの時代にナゼ?
潜在的に存在する「自分でさばきたい」という思い スーパーマーケットで売っている魚の刺し身や切り身は、手間をかけず簡単に食べられることもあり、忙しいビジネスウーマンにとって強い味方です。最近、包丁を握っていないかも――。そんな人も少なくないのでは? そんななか、あえて自分の手で魚をさばきたいと考える女性が増えています。 日本財団などが手掛ける「日本さばけるプロジェクト」が、服部栄養専門学校(渋谷区千駄ヶ谷)とタッグを組んで、8月から12月にかけて計8回開催している体験会「海と日本さばける塾 in 東京」。 同体験会は20人の定員に対しキャンセル待ちが出るほどの人気で、参加者の約7割は20代から40代までの女性。3000円の会費で、魚のさばき方と調理法を3時間かけて学びます。過去3年間で約400人が参加しました。 「海と日本さばける塾 in 東京」の様子(画像:日本さばけるプロジェクト)「魚をさばくことに興味のある女性は多いですよ」 そう話すのは、同プロジェクト事務局の担当者です。その言葉を実際に裏付けるデータも。水産大手のマルハニチロ(江東区豊洲)が2014年に行った「魚食文化に関する調査」によると、「魚をさばける」と答えた人は全体の26%だったものの、「さばけるようになりたい」は53%と半数以上に及ぶことが分かりました。この結果からも、魚をさばくことに対して潜在的な憧れがあることが分かります。 マルハニチロの「魚食文化に関する調査」の結果(画像:マルハニチロの調査結果をULM編集部で加工) この興味の裏には、ある理由があります。 「お母さんからさばき方を習ったり、我流でさばいたりする女性はある程度います。しかし、プロによる、『日本食の作法』としてのさばき方ができる人はほとんどいない。彼女たちが興味を持っているのはそこなんですよ」(同担当者) 「海と日本さばける塾 in 東京」に参加する女性たち(画像:日本さばけるプロジェクト)「海と日本さばける塾 in 東京」で指導を行っているのは、日本料理の名門「東京吉兆」出身で、服部栄養専門学校の日本料理講師を務める西澤辰男さん。参加者たちはそこで「作法」としての技を知るというわけです。 「さばく際の、魚の正しい置き方、向き、持ち方やさばく順番などを重点的に学びます。そういった背景もあり、真剣に技術を求めている女性が圧倒的に多い。やはり自信につながるのでしょう。当初は『花嫁修業にいかがですか』という触れ込みで募集してたのですが、現在ではまったく違いますね」(日本さばけるプロジェクト担当者) 「生き物から命をいただく」ことを考える「生き物から命をいただく」ことを考える この時代に「作法」を求める背景には、日本の食文化の変化も関係しています。 「明治時代以降に西洋文化が流入し、日本人の生活に肉食が入ってきました。それとともに魚の消費量は減少。それに加え、スーパーマーケットの発達で、消費者は自ら魚をさばくことをせず食べるようになったため、始めから魚を『食べ物』として考えるようになってしまった。『形ある生き物から命をいただく』という考えがなくなってしまったのです。そのようなことを再び意識するためにも、正しい『作法』でさばくことは意味があるのでは。日本の郷土料理には魚を使ったものが多いですし、古き良き日本食文化を魚をさばくことで見直してもらえたらうれしいですね」(同担当者) 動画チャンネルは、再生回数1000万回突破 日本さばけるプロジェクトが2016年6月から「YouTube」上に開設している「さばけるチャンネル」は2018年10月18日(木)、再生回数1000万回とチャンネル登録者数10万人を突破しました。 「さばけるチャンネル」の動画(画像:日本さばけるプロジェクト) 同チャンネルには、カツオやカンパチ、ニジマスなど、計113本の魚のさばき方動画がアップされています。現在の視聴者の65%は35歳未満とのこと。「魚離れが進んでいる若者に確実にリーチできている」と自信を見せています。 『作法』としての魚さばきを学ぶこと。それは日本の食文化の根幹を知る最短経路なのかもしれませんね。
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