賛否渦巻く聖火リレー、実はどんな人も包み込んでくれる「優しい力」を持っていた

東京オリンピック開幕まで後89日――経営コンサルタントで経済思想家の倉本圭造さんが、そんな東京オリンピックを通して、日本人が今後大事にすべき考えについて持論を展開します。

「すったもんだ」の必要性

 収束しないコロナ問題などで暗雲が立ち込める東京オリンピックですが、私(倉本圭造。経営コンサルタント、経済思想家)は開催までなんとかこぎ着けてほしいと思っています。

 日本に住む1億数千万人全員の思いをぶつけてすったもんだすれば、今の日本が抱えている問題も、そして最後まで守り通したい価値も全部白日の下にさらされ、見えてくるものがあるでしょう。

 そこには、昨今はやりの「政治的正しさ(ポリティカル・コレクトネス)」の観点から、今の日本人が抱える問題を批判するだけでは見えてこない、

「日本人が培ってきた独自性の譲れない価値」

も眠っているので、どちらか一方から糾弾しあう単純な「紋切り型」では見えてこない、人間社会の真実があると私は考えているからです。

軽視してはいけない聖火リレーの「包摂性」

 聖火リレーの演出はインターネット上で時代錯誤だとたたかれていますが、私はむしろすごく好感を持っていて、今どきこういう感じができるのっていいな……と思っています。

 大げさに言えば、聖火リレーは「包摂性(どんな属性も排除されない状況)」のビジョンだと。

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 某テーマパークのパレードのように少し野暮ったいことで、「万人に開かれている」スタイルがあるわけです。

 格好良い今風の男女だけではなく、政治的にあまり正しくなさそうな普通のおじさん・おばさんでも、特に何も考えずに「ワ~イ」と一緒に楽しめる――こういう要素は、昨今アーティスティックな自己表現を重視する個人によって排斥されがちな要素です。

 一昔前までのアメリカ文化にはそのような要素が多分にありましたし、だからこそ世界中の人が難しく考えずに乗れる包摂性を有していたわけですよね。

「包摂性」が生むつながりを破壊してはいけない

 もちろん昨今批判されているように、そういった皆のための「単純化」が、一部のマイノリティーに対して抑圧的であることは否めません。

 しかしそのような問題を解決させるとき、皆が楽しめる「包摂性によるつながり」を保ったまま共存方法を考えるのではなく、「罪深きマジョリティー」に全ての罪をかぶせて糾弾し続けることが、本当に良いことなのか、真剣に考えるべき時代になっていると思います。

 私は、学歴的に守られた都会の特権的サークル以外の部分まで含めた、日本社会のさまざまな層と仕事をしてきました。

 その経験から言って、皆が楽しめる「包摂性によるつながり」を攻撃し、結果的にその安定性を崩壊させようとすればするほど、マイノリティーに対して暴力的に反発する輩を止められなくなると感じています。

「相対化されたのんきさ」が残る日本

 人文系の学者たちによる会員制交流サイト(SNS)での論争がキッカケで、最近、網野善彦(歴史学者。1928~2004年)の著作をいくつか読みました。

網野善彦のロングセラー「日本の歴史をよみなおす」(画像:筑摩書房)



 網野氏の説によると、天皇制が持っている聖性が生きていた古代には、農業的な集団行為グループとそのほかの遊女や商工業者、芸人たちといった異能者との間に、「差別はあっても尊重しあえる関係性」があったそうです。

 しかし室町時代あたりから貨幣経済が浸透し、全ての人間関係がカネで評価されるような風潮が高まっていくにつれて、農業的な集団が持つメカニズムが異能者たちを排撃し始め、ときを経るごとに見下す風潮が固定化していったと言います。

 そのような変化のなか、後醍醐天皇が古代の天皇が持っていた機能を守ろうとした結果、日本では「差別ー被差別」の構造が、後醍醐天皇が執念を持って守った南朝の記憶によってどこか相対化される要素が残ったそうです。

 私は、その南朝の精神的遺産が、日本人の本来的な美徳であるある種ののんきな包摂性につながっていると感じていて、現代社会がその価値に無理解すぎるからこそ、昨今の日本社会は「違った存在」に対して過剰に攻撃的になってしまっているのだと考えています。

愛知県の盆踊りで感じた社会の理想像

 以前、愛知県にある妻の実家の近くで、地元の盆踊りにたまたま遭遇したことがあります。BGMは荻野目洋子さんの大ヒット曲「ダンシング・ヒーロー」(1985年)で、それに合わせて老若男女が踊り狂っているシーンに感動し、そこに独特の包摂性や優しさを感じたのです。

1985年発表、荻野目洋子の「ダンシング・ヒーロー」(画像:Victor、(P)(C)JVCKENWOOD Victor Entertainment)



 盆踊りの「ダンシング・ヒーロー」には、「うぉぉぉ、ヘイヘイヘイヘイ!」といった、お世辞にも格好良いとは言えないものの、皆が大声で参加できる振りがありました。

 そのため、

・着物を着たご老人
・マイルドヤンキーっぽいお兄さん
・イケイケなギャル
・小学生
・恥ずかしがって遠巻きに見ながらも小さく手ぶりでは参加している「陰キャ」
・白人、ラテン系、アジア系のそれぞれの外国人

皆がニコニコしながら同じ振りで参加していたため、私はこれこそ日本人が自分たちの美点を生かした本来目指すべき社会の理想像ではないかと感じたのです。

「任天堂のゲーム」に感じる希望

 阿波(あわ)踊りに「踊る阿呆(あほう)に見る阿呆」というキャッチフレーズがあります。

 このように、皆で一緒にバカになる場をあえて作ることでつながりを確認する文化が残ったのも、網野善彦が言う、序列が完全に固定化されない、どこか「相対化されたのんきさ」が残ったからなのではないでしょうか。

 そうした普通のつながりを常に温めておけば、白人やラテン系、アジア系の外国人が盆踊りにニコニコ参加していたような包摂性が生まれるわけです。

 しかし、現代的な個人主義者はこうしたつながりを「社会の根本的害悪」と考えがちで、そこへの無理解が、「日本社会の伝統的な部分」と「新しい考え方」の間の幸薄い争いにつながっているのだと私は感じています。

阿波踊りのイメージ(画像:写真AC)

 しかし米中冷戦の時代には、

・欧米的な理想
・非欧米諸国の伝統的価値観

を平等に見ることが重要です。

「罪深きマジョリティー」に全ての問題をおしつけて糾弾し続けているだけでは見えない可能性が、前述の後醍醐天皇の遺産から見えてくるはず。

 スマートフォンゲーム全盛時代の世界にあって、世界中の人が任天堂のゲームを愛し続けているのも、同社のゲームが似たような包摂性を失っていないからではないでしょうか。

「サンデルの新刊」がもたらす問題意識の先で

 さて、NHK『ハーバード白熱教室』や大ベストセラー「これからの『正義』の話をしよう」の著者として知られる、ハーバード大学教授で政治哲学者のマイケル・サンデルの新刊「実力も運のうち 能力主義は正義か?」(早川書房)が、最近出版されました。

マイケル・サンデル「実力も運のうち 能力主義は正義か?」(画像:早川書房)



 サンデル氏は同著のなかで、欧米社会の大卒(知的階級)が、それ以外の人々の文化を蔑視しており、それが昨今の欧米社会における政治的混乱の原因だ……という論を展開しており、話題になっています。

 現在、世界中で先鋭化した政治活動が、その活動をも含めた社会そのものを支える「普通の人たち」を無意識的に下に見るような傾向を持った結果、強烈に反動的なムーブメントを誘発し、マイノリティーへの攻撃性を余計に加速させてしまう状況が起きています。

 そんななかで、私たち日本人は、後醍醐天皇の遺産をベースに新しい代替案を示せるのではないでしょうか。

 現在はそのような議論が整理されていないこともあり、「包摂性によるつながり」を守り抜こうと必死になっている日本人が、欧米的な理想に反して前時代性に固執しているように見えます。これは不幸と言って良いでしょう。

「皆に優しい東京の文化」を打ち立てるために

 昨今はやりの先鋭化した政治活動の論理から言えば、そうした「後醍醐天皇的包摂性」にこだわる日本人の姿勢は批判されがちです。そしてその批判のなかには、確かに納得できる部分もあります。

 しかし、それでも進もうとする日本人の集団的本能との間でぎりぎりのせめぎ合いが続くとき、そのなかから日本人が目指すべき社会の理想像への理解も立ち上がってくるはずです。

 そんな後醍醐天皇の遺産が、欧米文化の偏狭な攻撃性を土俵際でいなしたとき、私たちは初めて、渡辺直美さんを中傷する演出案のようなものを脱却し、本当の意味での、「皆に優しい東京の文化」を打ち立てることができます。

 前時代性から本当に脱却したいなら、私たち日本人がなぜそれに固執してきたのかという問いを、自分たち自身の言葉でこれから掘り起こしていかなければなりません。

【調査結果】3度目の緊急事態宣言へ……働く主婦・主夫層に聞いた「東京五輪」関連アンケート

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