田舎でのんびりテレワークなんて甘い考え? 「東京脱出」トレンドに見る現代人の損得思考

  • ライフ
田舎でのんびりテレワークなんて甘い考え? 「東京脱出」トレンドに見る現代人の損得思考

\ この記事を書いた人 /

本間めい子のプロフィール画像

本間めい子

フリーライター

ライターページへ

『東京新聞』が4月19日に報じた「『東京脱出』した人はどこへ? 23区からの転出者が増えた市区町、調べました」の記事が反響を呼んでいます。その背景と今後について、フリーライターの本間めい子さんが解説します。

23区から転出者が増加している

 新型コロナウイルスの感染拡大で働き方が大きく変化したことにより、これまで続いてきた東京一極集中が変わっています。とりわけ23区の転出者は増加傾向にあります。

 総務省の人口移動報告(外国人含む)によると、2020年に23区から転出した人は36万5507人にとなり、2019年より2万1088人の増加となっています。

 東京都全体の転入超過(自治体へ移ってきた人数が、出ていった人数を上回ること)は、

・2019年:8万2982人
・2020年:3万1125人

となっています。

 都民が雪崩を打ったように脱出しているというわけではありませんが、東京へ移ってきた人が減り、東京から出ていった人が増える状態が続いているのは確かです。

23区からの転出者が最も多かった市区町は?

「東京脱出」の動きは以前から注目されており、テレワーク可能な職業に就く人が自然の多い地方に転入し始めている、といった文脈で紹介されてきました。

コロナ禍の東京都心のイメージ(画像:写真AC)



 そうしたなか、4月19日(月)の『東京新聞』朝刊に掲載された記事「『東京脱出』した人はどこへ? 23区からの転出者が増えた市区町、調べました」が反響を呼び、会員制交流サイト(SNS)だけでなく、民放の情報番組でも記事を引用してニュースを報じるなど、衝撃が広がっています。

 この記事は、総務省の人口移動報告を基に23区に住む人たちの引っ越し場所をまとめ、人数ごとに30位まで掲載しています。

 2020年に23区からの転出者が最も多かったのは、神奈川県藤沢市の713人(前年比)で、以下、

・東京都三鷹市:667人
・横浜市中区:630人
・東京都小金井市:555人
・川崎市宮前区:554人
・川崎市高津区430人
・千葉県船橋市:419人
・神奈川県鎌倉市:417人
・茨城県つくば市:409人
・横浜市港北区:399人

と続きました。

意外と首都圏から離れていない転出者

『東京新聞』の記事が反響を呼んでいるのは、23区を出ていった人が地方ではなく、実は首都圏から離れていないことを明らかにしたからです。

2020年、東京23区からの転出者が増えた市区町トップ10(画像:東京新聞のデータを基にULM編集部で作成)



 この記事に掲載されたランキングで、唯一首都圏でないのは長野県軽井沢町(22位)で、茨城県つくば市(9位)と栃木県宇都宮市(21位)を除くと、東京・埼玉・千葉・神奈川の一都三県で占められています。

 この記事からわかるのは、ランキング上位のエリアに転入した転出者は、かなり思い切った選択をしていることです。

トップの藤沢市の実情とは

 その証左が、トップに輝いた神奈川県藤沢市の実情です。

『東京新聞』が調査した「東京23区からの転出者が増えた市区町」で1位にランクインした神奈川県藤沢市(画像:(C)Google)

 藤沢市は海に近い、風光明媚(めいび)かつ、商業施設も整備されているエリアとして知られています。ただし、これは「JR藤沢駅前に住めれば」という条件付きです。

 JR藤沢駅や辻堂駅、茅ヶ崎駅周辺は商業施設が充実しており、住むにはとても便利なエリアです。ところがその利便性ゆえに、住宅価格は新型コロナウイルスの感染拡大以前より高値で安定しています。

 そのため、マンションや一戸建てを借りるにしても買うにしても、JR藤沢駅から少し離れてバスや江ノ島電鉄を使うエリアになります。

 観光客が減っているため、江ノ島電鉄でのんびり移動できると思いがちですが、ラッシュ時の混雑ぶりはなかなかのものです。バスを使うエリアの幹線道路も渋滞するルートが少なくありません。

 もともと藤沢市や茅ヶ崎市あたりの転入者は

「東海道線は混雑するが、家は広いし、休日は海で遊べる」

と通勤の苦痛を引き換えにしても、週末が楽しめると「覚悟を決めた人」が大半でした。テレワークの普及で通勤の苦痛は緩和されましたが、それでもラッシュ時の混雑は避けられません。

 つまり、このエリアへの転入は

「東京に出掛けることは年に数回程度。これから先もずっと自宅でテレワークをする」

という見通しと覚悟を持たなければならないのです。

改めて考えるべき23区の利便性

 もうひとつ、23区外に転入した人が転入を考える人に必ずアドバイスするのが「車の必要性」です。

 2020年、埼玉県川口市に転入した人に話を聞いたところ、

「駅前の商業施設は充実しているが、それでも買い物に車は欠かせない」

といいます。そして、

「どこに住んでも駅のある23区の感覚を忘れないと楽しく暮らせない」

とも。

 前出の23区からの転出者が増えたエリアで、車がなくても暮らせるのは横浜市中区だけですが、マンション価格は平地でも山がちなエリアでも23区とさほど変わりません。

『東京新聞』が調査した「東京23区からの転出者が増えた市区町」で3位にランクインした横浜市中区(画像:(C)Google)



 23区からの転出予定者が転入先に期待するのは、

・少し田舎っぽい
・でも店に車ですぐに行ける
・コンビニが徒歩圏内にある

というものです。残念ながら、そのような便利なエリアはまず存在しません。

 今、23区から出ていこうとしている人が考えるべきは、転入先が「仮住まいか否か」です。ずっと住むのであれば、10~20年後の加齢によるライフスタイルの変化に、そのエリアが適しているかどうかをイメージしなければなりません。

 筆者もこれまで、コンビニが徒歩圏内にないエリアや、鉄道が1日に数本しか駅に停まらない町など、さまざまな地域を訪問してきました。そのような地方に比べて、首都圏は住みやすいエリアがほとんどです。

 今後の自分のライフスタイルをじっくり考え、住みやすいかどうかをよく検討してください。

関連記事