10分以上の徒歩が疲れる人へ――外出先の面倒な移動を「たった70円」で解決する方法があった

  • おでかけ
  • 中づり掲載特集
10分以上の徒歩が疲れる人へ――外出先の面倒な移動を「たった70円」で解決する方法があった

\ この記事を書いた人 /

アーバンライフ東京編集部のプロフィール画像

アーバンライフ東京編集部

ライターページへ

徒歩で行くにはちょっと遠い。かといって電車を乗り継ぐほどでもないし、タクシーを止めるほどでもない。そんな微妙な距離の移動をものすごくラクにする方法が今、少しずつ注目を集めています。その名も「シェアサイクル」。東京を中心に利用が広がるこのサービス、実際に試してみることにしました。

東京で広がるシェアサイクルの可能性

 ここ数日、楽しみに読んでいた連載記事がありました。日本経済新聞(電子版)に2021年3月22日(月)~26日(金)まで掲載された「疾走チャリノミクス」全5回。

 環境に負荷を掛けず、健康にもメリットがあり、さらには「密」も避けられるとあって今あらためて脚光を浴びる自転車を、連載は「究極のクリーンモビリティー」として紹介。広がる世界市場や地域振興の盛り上がりなどさまざまな角度から検証し、今後ますます自転車利用が広がっていくだろうとの可能性に触れていました。

 記事の中にも登場した「シェアサイクル」を筆者が知ったのは、ちょうど連載掲載時期と同じ頃。東京郊外にある自宅マンション前の幹線道路を挟んだ向かいの路地に、「自転車借りられます」と書かれた看板と数台の自転車が止まっているのを見つけたのがきっかけでした。

東京を中心に拡大中の「シェアサイクル」。筆者が住むまちの隣り駅には、約30台の自転車が利用できる大型のステーションも(2021年3月23日、遠藤綾乃撮影)



 シェアサイクル――。名前は聞いたことがあっても、どんな仕組みなのか? レンタサイクルと何が違うのか? それまでよく理解していなかったサービスでした。しかし実際に使ってみると、その便利さと有益さを肌身をもって知ることになったのです。

「ちょっとそこまで」使い方いろいろ

 まずシェアサイクルとは、好きなとき好きな場所で好きな時間だけ自転車を借りることができるサービス。

 借りたのと同じ場所に返す必要があるレンタサイクルと違って、シェアサイクルは街じゅうにいくつも設置されている「ポート」や「ステーション」と呼ばれる場所ならどこに返却してもOK、というのが最大の特徴です。

 たとえばちょっと離れたところにある大型スーパーまで買い物に行きたいとき、自宅近くのステーションで自転車を借りて、スーパー近くのステーションに返却するといった使い方ができます。または都心へお出かけしたとき、2~3駅分のちょっとした移動に活用することも可能です。

 わざわざ複数の路線を乗り換えて目的地へ向かうより、自転車で直線距離を進んだ方が到着が早いというのは、都心ではしばしば起こること。

 筆者の自宅近くにあるシェアサイクルは「HELLO CYCLING」という名前で、2021月2月現在、東京を中心に16都府県で3384か所のステーションを構える拡大中のサービスだそう。いくつかの事業社がステーションを共有していて、なかでも「ダイチャリ」というブランドの車両が多いようです。

全車両が電動アシスト、坂道すいすい

 シェアサイクルの利用方法は、想像以上に簡単です。

 HELLO CYCLINGの場合、専用のアプリを自分のスマホにダウンロードしてアカウント登録。料金の支払い方法(筆者はクレジット決済を選択)などを入力すれば、その場ですぐ利用が可能になります。

 アプリの地図上でステーションを選んで自転車を「予約」すると暗証番号が発行されるので、自転車のハンドル部分に取り付けられた小型モニターにその数字を入力すればレンタル開始。車両は男性でも女性でも乗りやすい26インチで、料金は15分ごとに70円、または12時間まで1000円となっています。

 自転車に乗るのは、通学で使っていた高校時代以来でした。おそるおそるこぎ出すと電動アシストで車体がビュンと前へ進み、歩くにはしんどいと感じていた駅までの上り坂も勢いよくぐんぐん上って行きます。

 この日は取材で都心へ出る用事があったので、快速が止まる隣り駅まで走ってみることにしました。

 これまでほとんど通る機会のなかった大通り沿いには、ソメイヨシノの木が何本も植えられていて、このときすでに満開を迎えていた枝も。木々の足元には菜の花が咲きそろっており、思いがけず春の風情を満喫することができました。

自転車専用のレンガ整備された通りは、安全に走れるのがありがたい。沿道には満開のソメイヨシノと菜の花の共演も(2021年3月24日、遠藤綾乃撮影)



 安全第一で慎重にペダルをこいで、目的駅の前にあるステーションに自転車を停車。再びハンドル上のモニターを操作して「RETURN」ボタンを押せば返却完了です。

 利用開始と返却完了の通知がスマホのアプリからも届き、毎回の利用時間を確認することができます。このときの利用時間は16分。あと1分早ければ70円で済んだところ、140円掛かってしまいました。次はもう少し早くこいでみようなどと思いながら、ステーションを後にします。

「これは便利」と確信した出来事とは

 その後何度かシェアサイクルを使う中で、「これは便利だ」と激しく感じ入ったのは、電車の運転見合わせが発生したときでした。

 その日も都心での打ち合わせを済ませ、JRの路線に乗って自宅へ帰る途中のこと。突然、「線路内に複数の人が立ち寄ったとの情報が入り、確認のため運転を見合わせます」と知らせる車内アナウンスが響き、電車は目的駅のふたつ手前で動かなくなってしまいました。

 車内の乗客たちから漏れるため息。あいにく周辺を並走する私鉄のないエリアです。このまま運転再開を待つと、何分くらい掛かるのだろう……。

 暇つぶしのつもりでバッグからスマホを取り出したとき、ふと思い立ってHELLO CYCLINGのアプリを開いてみると……。今停車している駅のすぐ目の前にも自転車のステーションがあるではないですか。

HELLO CYCLINGのステーションマップ。表示しているのは杉並・中野・新宿区周辺。想像以上にたくさんのステーションがあるので、出先で周辺検索をしてみるのも楽しい(画像:ULM編集部)



 この駅から自宅まで自転車でどのくらいか、Googleマップで確認したところ約30分。電車再開を待って目的駅に着いてから自転車に乗るよりも早そうです。降りたこともない駅から自転車で自宅を目指すという稀有な体験の面白さも相まって、意気揚々と電車を飛び降りたのでした。

 あらためてシェアサイクルの便利な点は、街じゅうの至るところに「自分用」の自転車が何百台・何千台と確保されていること。

 自分自身で所有する自転車の場合、当然ながら自宅や最寄駅の駐輪場にしかありません。シェアサイクルなら、偶然降りた駅の目の前にもすぐに使える自転車が待っていてくれます。

 あの運転見合わせの車両に乗り合わせた人たちにも、シェアサイクルのことを教えてあげればよかった、などと半ば本気で思ったほどでした。

使ってみて分かった「課題」いくつか

 これまでに計10回乗ってみて、感じた課題点もいくつか。

 まず、少なくとも筆者が住むまちの周辺に関しては、自転車で走るにはまだまだ公道上の不便が少なくないということ。

 自転車専用のレーンが整備された通りもある一方で、旧街道を走る太い幹線道路は自動車や大型トラックがかなりのスピードで絶えず行き交っているため、車道の両端に「自転車ナビマーク」の表示はあるものの怖くてなかなか使えません。路肩に車が駐停車していて「自転車ナビマーク」をふさいでしまっていることもあります。

 それから、ステーションの数がもっと多ければもっと便利になるはずだという点。

 先述の通り仕事で中央区日本橋や港区芝浦(JR田町駅)まで出た際は、せっかくなのでこの辺りでも自転車に乗ってみたいと思いましたが、残念ながら周辺にステーションはありませんでした。

 都心中の都心で用地を確保することは当然容易ではないのでしょう。アプリの地図で新宿・渋谷・池袋といったターミナル駅を表示してみても、2021年3月現在、それらの駅前にはまだステーションは未設置のようです。

 ただ、どちらの問題についても、自転車やシェアサイクルサービスに対する世間の関心がもっと高まり、ニーズがもっと拡大していけば、少しずつ解消されていくものではないかとの期待もあります。何しろ便利なので、もっと利用率が高まってほしいというのが筆者の個人的な感想です。

 国内のシェアサイクル市場で自転車台数26%を占めるブランド「ダイチャリ」を展開するシナネンモビリティPLUS(港区三田)の担当者によると、2017年8月の事業開始以来、ダイチャリの利用回数は月平均26%と順調に伸長中。直近の2020年は前年比221%と大きな伸びを見せました。

 同社は、2年後の2022年度末までに、ダイチャリ独自のステーション数を2700か所(現1546か所)、自転車台数9000台超(同7395台、いずれも2021年1月時点)まで増やすとの中期経営計画を立てています。そのほかにHELLO CYCLING共有のステーションも増えていく見込みなので、現在のシェアサイクル空白地帯にも順次設置されていく可能性は高いといえます。

利便性向上、カギを握る認知度アップ

 現在ステーションが設置されているのは、主にスーパーといった小売店舗や、商業ビルなど。筆者の住むまち周辺では、コンビニの駐車場の一角にあるパターンもいくつも見掛けました。

コンビニの敷地内に設置されたステーションも何か所も発見(2021年3月、遠藤綾乃撮影)



 今回紹介したような日常使い以外にも、観光が活発な市町では、地元自治体などと連携した「自転車観光ルート」パンフレットを制作している例もあり、観光スポットの回遊性向上や地域活性、さらに交通渋滞の緩和にも寄与しているそう。

 また、あるまちでは路地の一角で違法駐輪が常態化していたものの、その場所にシェアサイクルのステーションを設置したところ違法駐輪が一掃されたというケースもあるそうです。

 インターネットを介してモノや場所などを共有使用する「シェアリング・エコノミー」は数年前から耳にしていましたが、実際に利用してみてあらためてその可能性を知ることとなりました。

 歩くのにはちょっと遠い、でも電車に乗るほどでも、タクシーを使うほどでもない日々の微妙な移動。これを「たった70円」で解決してくれるシェアサイクル。

 しかも環境にも健康にも良いとなれば、今後ますます利用が拡大していくことはほとんど必然のように感じられた体験でした。

関連記事