「国に帰れない」「日本を信頼してる」 新大久保の外国人たちが新型コロナ禍で抱いた切実すぎる思いとは
新型コロナウイルスの感染拡大が新大久保に住む外国人たちに与える影響について、アジア専門ライターの室橋裕和さんが解説します。日本人と一蓮托生 新型コロナウイルスの感染拡大が続いています。東京のロックダウン(都市封鎖)も検討されはじめる状況ですが、そのなかで、多国籍タウン・新大久保に住む外国人たちはどのように暮らしているのでしょうか。 「いつもと同じだよ、商売するだけ。変わらない」 と語るのは、とある食材店を経営するネパール人です。 さまざまな調味料やインドのコメ、豆など、現地から輸入した食材をマスク姿で販売しています。お客さんは同じくインドやネパール、バングラデシュなど南アジア系の人が中心ですが、やはりマスク姿が目立ちます。 外出自粛要請が出た3月28日、イケメン通りを歩いているのは食料の買い出しをしていた地域住みの外国人くらい。観光客はいない(画像:室橋裕和) 彼らは新大久保という街に根づき、ここで働き、家族と暮らしています。生活の基盤は日本にあるのです。だから今のところ、国に帰るという選択肢はないと言います。 「それに、いまはもう帰れないしね」 それぞれの母国でもコロナ感染は拡大を続けており、入国制限が行われています。インドやネパールは国際線の運航を停止しています。新大久保で「一大勢力」となっているのはベトナム人ですが、やはり外国人の入国を停止。 さらに入国するすべての人間に対して一定期間の隔離が義務づけられていたり、コロナ陰性の証明書がないと入国できない国もたくさんあったりします。これは外国人だけでなく「外国に住んでいた自国民」も対象です。こうした措置は全世界に広がっています。 つまり日本に住む外国人も、いまとなっては帰る手段がないのです。帰りたくても飛行機は運航していないし、コロナ陰性証明書は日本では取得できません。世界で広範に行われているPCR検査ですが、日本は検査対象を絞っており、重病の患者限定となっています。海外渡航のための陰性証明については優先順位が極めて低く、どの医療機関でも断られてしまうのが現実です。 在住外国人も、日本人と一緒にこの国で耐えるしかありません。もはや一蓮托生(いちれんたくしょう)なのです。 アルバイトが減るのではと心配な留学生アルバイトが減るのではと心配な留学生 新大久保は、若い留学生が多い街でもあります。外国人を受け入れている日本語学校や専門学校がたくさんあるからです。こうしたところで働き、夜はコンビニや居酒屋でアルバイトしている留学生たちもやはり、帰ろうにも帰れない立場です。 「学校はいま春休み。私の学校は、新学期のスタートが4月中旬まで延期になりました。でも、その後はいままでのように学校に通えるのかどうか……」 ベトナム人留学生たちは口々にそう話します。 またロックダウンとなってしまったら、他国のように飲食店が閉まったりテークアウトだけになったりする可能性もあります。そうなるとアルバイトの時間が減り、生活できなくなるのではという心配もあるようです。 南アジア系の食材店を訪れる外国人もマスク姿(画像:室橋裕和) ふだん、留学生は週28時間までアルバイトが認められています。働いていい時間が日本の法律で決められているのです。 それが春休み、夏休みといった長期休暇のときは週40時間まで許されます。いわば「稼ぎどき」なのですが、コロナ拡大によって東京の飲食業は大打撃を受けており、営業時間の短縮や人員カットでしのぐところも増えています。 アルバイトの留学生はこんなとき、どうしても「雇用の調整弁」として使われがちです。コロナ不況は留学生にも押し寄せる可能性が高くなっています。 ビザ再取得という困難「お母さんに毎日泣きながらフェイスブックで帰って来いって言われて、ベトナムに戻った友達もいる」 と語る留学生もいました。 大部分の留学生は日本にとどまることを選択しているように思いますが、一時帰国した外国人もいます。その場合、今度は日本に戻ってきにくくなってしまうのです。 通称「イスラム横丁」と呼ばれる一角は普段とあまり変わらない。買い占めなども起きていない(画像:室橋裕和) 皆さん手持ちのビザを失効しないようにキープする手続きをとって日本を離れていくのですが、それにも有効期限があります。期日までに日本に入国しないとやはり失効してしまうわけですが、コロナ禍はいつ収まるのか見通しが立ちません。 いったんビザを失効すると再取得はかなり手間なので、これを避けるためにも帰国せず日本に居続ける外国人が多いようです。 それでも日本を信頼しているそれでも日本を信頼している 彼らアジアからの若い留学生からは、 「いまは大変だけど、日本はしっかりした国だし、新型コロナも抑え込むと思う」 といった言葉が寄せられることもあります。 多くの日本人はこの国の対応が明らかに後手後手で、世界各国と比べて緩慢であることに憤りを感じています。しかし、日本に期待や夢を持ってやってきた留学生たちの中には、まだ信頼感を持ってくれている人がいます。 一方で滞在歴が10年、20年と長く、新大久保に根づいている外国人たちは、日本人と同じ視点を持っています。彼らはいま、日本政府の方策に疑問を感じているようです。 経営支援の動きもはじまった 新大久保というと、韓流のレストランやショップが思い浮かぶでしょう。この街の国際化のきっかけをつくったのは韓国の人たちです。休日ともなれば歩道がぎっしりになるくらい、日本人の若い女の子で埋め尽くされていたものです。 しかしコロナ禍のいまはさすがに客足も少なく、都内のほかの観光地と同様、経営が苦しくなる店が増えています。 韓流ショップが並ぶイケメン通りも閑散。どの店も開店休業状態(画像:室橋裕和) 新宿区では、中小企業向けにコロナ対策の無利子特別融資をはじめたほか、相談窓口も開設。もちろん外国人も対象です。 外国人も就労し、納税しているのですから当然の権利でしょう。商売をされている外国人であれば日本語堪能な人がほとんどですが、翻訳機なども用意して対応しているといいます。また各国の大使館が、自国語でコロナ対策の案内も行っています。 外国人が集住する新大久保は、災害などが起きた場合パニックになるのではと心配されることもあります。しかしいまのところ、それぞれの国の人々は情報を得て、助け合い、冷静に行動しており、平穏です。 むしろアジア系の小さな食材店に、ふだんは訪れない日本人がほかの地域から買い出しのために次々にやってくるなど、日本人のほうが慌てている感もあります。 ともかくこのままでは、新大久保のみならず、東京の活力は失われるばかりです。一刻も早く収束してほしいものです(情報は3月28日時点のものです)。
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